第3話機械からの逃走
「これは…」
モニターが震えた。
ポケットから取り出す。匿名のメールが一通。
差出人は不明、追跡も不可。件名は「No,004」だった。
エリスがこちらを見つめている。
特徴的なオッドアイが揺れ、細い指がソファの縁を握りしめていた。
「お前、何か心当たりでもあるのか?」
彼女は首を横に振る。だが、その表情には怯えが見える。
俺はメールを開いた。
画面にはファイルが一つ。
「これはまた、厄介そうなもんが…」
ため息をつき、適当にかかっているロックを解除する。
その瞬間、部屋の空気が変わった。
微かに、電流が走るような感覚がする。
次の瞬間、モニターの画面がフリーズし、ノイズが走った。
「なんだこれ…」
言いかけたその時、エリスの目が青く光っていた。
「いや、これは…」
さらに光は、光度を増していく。
「エリス…?」
俺の声には反応しない。
その瞳には、文字列が映っている。
アルファベットが跳ね回り、数字が逆転し続けている。
「これは、データがエリスに反応しているのか?」
まずい。嫌な予感がした俺は、即座にモニターを閉じた。
途端に青い光が消え、エリスがハッと我に返った。
「え…?何が…え?」
混乱する彼女を見て、俺は確信する。
こいつは普通じゃない。
なんなんだこいつ?
「お前…何者だ?」
俺の質問に、エリスは怯え、身を縮める。
瞳は青から、元のオッドアイに戻っていた。
「わ、わからない…本当に…」
言葉が震えている。
「お前の目が青く光って、そこにデータが反応していた」
俺は画面を指差した。
「お前と何か、関係があるんじゃないか?」
エリスは首を振る。
「本当に知らないの。ただ、何かが、頭の中に…」
彼女は額に手を当て、苦しそうにする。
「頭の中に?」
「うん、声が…『戻ってこい』って…」
部屋の空気が冷たく感じた。
「声って、誰の声だ?」
「わからない。でも、なんか…すごく怖い…」
エリスの体が小刻みに震える。
戻ってこい…か。
こいつのいた場所。こいつの存在。
俺は確信した。
腐った企業の犬どもだ。
その時——
カチッ…
外から音が聞こえた。
何かが這うような、不気味な音だ。
俺は身構え、エリスに声をかける。
「エリス、動くな」
声を潜め、警告する。
彼女は驚き、目を見開いたが、すぐに頷いた。
足音。
複数。
規則的。
「ずいぶん早いな、もう追ってきたのか?」
モニターを開き、監視カメラをチェックする。
だが、すでに画面は真っ黒だ。
「くそ、ハッキングか…」
相手は明白だ。
企業のエージェント。
目的はエリス。
「エリス、隠れろ」
俺は机の引き出しから銃を取り出す。
壁に背を預け、呼吸を整えた。
カチャリ…
玄関のドアの鍵が回った。
「侵入した。標的は2名」
無機質な声が響く。
エージェントの声だ。
冷たく、感情のない音。
まるで機械のようだ。
エリスが目を見開き、震え始めた。
「さっきの…あの…声…中に…」
「戻ってこい」
先ほどのエリスの言葉が、脳裏に浮かぶ。
俺は歯を食いしばった。
「これじゃあ、まるで…」
その時、ドンッ!
爆発音。
ドアが吹き飛んだ。
破片が空中を舞い、埃が視界を覆う。
「伏せろ!」
反射的にエリスを抱え、床に転がる。
背後から、機械音。
「侵入完了、標的を確認」
無機質な声。
埃が晴れると、部屋の入り口に立っていたのは——
サイボーグ兵士。
銀色の義体。
赤く輝くセンサーアイ。
右腕は機械の銃口に変形している。
「くっそ、面倒な…」
俺はエリスを背後に庇いながら、銃を構える。
「お前、動くなよ」
サイボーグは銃口をこちらに向けた。
赤いレーザーポインターが俺の額に重なる。
「排除開始」
冷酷な音が響く。
——パンッ!
俺は引き金を引いた。
弾丸はサイボーグの頭部に命中。
だが、ただ金属音がしただけだった。
「頑丈すぎだろ…」
サイボーグの赤いセンサーが一瞬点滅し、銃口がカチカチと音を立てる。
「…システムエラー。射撃モード、無効」
「は?」
耳を疑った。
銃が使えない?
どういうことだ。
ちらりとエリスを見る。
彼女の目がわずかに青く光っている。
まさか、こいつの能力が…?
次の瞬間、サイボーグは鋼の脚力を使って突進してきた。
——ゴッ!
腹に強い衝撃。
体が宙を舞い、壁に叩きつけられる。
意識が揺れる。
口の中に血の味が広がった。
「排除対象、無力化」
サイボーグが冷たく言い放つ。
「ぐっ…」
床に転がりながら、サイボーグを睨みつけた。
センサーが赤く光り、電子音声が響く。
「至近距離。射撃成功率:28%」
「物理攻撃成功率:92%」
「最適化完了。突進モード、起動」
「最適化?」
戦術をAIで選んでやがるのか。
再び、サイボーグが突進してくる。
早すぎる。
目が追いつかない。
金属の拳が振り下ろされる。
「くっ…!」
床に転がって避ける。
拳が壁にぶつかり、コンクリートの破片が飛び散った。
まずい…。
次の攻撃の前に、エリスの元へ向かう。
「エリス、動け!」
彼女は震えたまま、目を見開いている。
「怖い…」
「そんなこと言ってる場合か! 殺されるぞ!」
その時、また電流が走るような感覚がした。
エリスの目が青く輝いている。
部屋の電灯がチカチカと点滅し、電子音が不規則に鳴り始めた。
「システムエラー。動…作…異常…」
サイボーグが、ガタガタと震えている。
センサーが激しく点滅を繰り返し、銃を空撃ちし続けている。
「やっぱり、こいつの能力か…」
俺は確信した。
この状況が何よりの証拠だ。
エリスは、サイボーグを睨み続けている。
まるで、サイボーグを操っているようだ。
「…やめて」
エリスが小さく呟く。
——パチン!
サイボーグは爆発音と共に崩れ始めた。
電子部品がバラバラに散乱し、火花が散る。
いつの間にか、エリスの目は元に戻っていた。
彼女は膝をつき、震えている。
「…私…また…」
エリスの声は震えていた。
小さな指先が、恐怖で震えている。
「お前…今のは…」
エリスは、今にも泣きそうな顔で首を横に振る。
「わからないの…私…また…壊し…て…」
その時、部屋のスピーカーから、声が聞こえた。
「そうか、なるほど…これがNo,004の力なのか…」
女の声。
エリスの体がビクッと震える。
「この声…!」
俺はモニターを睨んだ。
画面には、一人の女性が映っている。
短い銀髪。鋭い金色の瞳。
無表情でこちらを見つめている。
「初めまして。私は、エージェント・クレアよ」
企業の犬…いや、殺し屋だ。
俺は歯を食いしばった。
「随分と手間をかけてくれたわね、情報屋さん」
クレアの目が冷たく輝く。
「だけど残念、もう逃がさない」
モニターの映像が切り替わった。
無数のドローンがビルの外に待機している。
赤い点滅が一斉に輝き、こちらに向けられている。
「チッ、包囲されてるのか…」
逃げ場はない。
だが、ここで死ぬわけにはいかない。
「エリス、立てるか?」
彼女は震えながらも、頷いた。
俺は銃を構え直し、部屋の窓を睨む。
「走れ!」
エリスの手を引き、暗い裏路地を駆け抜けた。
——ガガガガガッ!
頭上から、無数の銃撃が降り注ぐ。
ドローン部隊だ。
赤い点滅を瞬かせながら、ビルの壁面を縦横無尽に飛び回っている。
「くそっ、しつこいな…!」
細い路地を何度も曲がり、追跡をかわそうとするが、赤い光が空から追ってくる。
上空から監視されている。
逃げ場がない。
エリスが震えながら、息を切らしている。
「…怖い…また、あの声が聞こえる…」
「今は考えるな! 生き延びることだけ考えろ!」
だが、エリスの瞳が青く光り始めていた。
まただ。
あの電流のような感覚が体を包む。
「エリス、お前…」
俺が振り返った瞬間——
——バチバチバチッ!
エリスの目がさらに強く光った。
頭上のドローンが一斉に異常動作を始める。
赤い点滅が激しく点滅し、レーザーが暴走している。
「…あいつらの動きが…?」
ドローンの飛行が不規則になり、レーザーが壁面で乱反射している。
赤い光が暴れ回り、ビルの壁を焼き、窓ガラスを粉々に砕いた。
「システムエラー。動作異常…」
ドローンの無機質な声が響く。
次の瞬間、ドローン同士が衝突した。
——ガガガガッ!!
赤い光が交差し、火花が飛び散る。
機体同士がぶつかり合い、空中で次々に爆発していく。
「何だ…どうなってる!?」
赤い点滅がぐるぐると回転し、ドローンが同士撃ちを始めた。
レーザーが暴走し、あちこちの壁を焼き尽くす。
その中で、一部のドローンは動きを止めていた。
赤い点滅は規則正しく、乱れることはない。
他のドローンが次々と同士撃ちで爆発する中、
1台だけが無傷で浮いていた。
「電磁シールド、作動中」
ドローンの無機質な声が響く。
「シールド…?」
驚いて目を見開く。
上空には、半透明のバリアを纏ったドローンが1台だけ残っていた。
シールドに覆われたそれは、エリスの能力の影響を受けていない。
他のドローンは、すべて同士撃ちで壊れた。
だが、あの1台だけが無傷だ。
「…くそ、あいつだけ無事なのか!」
エリスが震えながら、そのドローンを見上げていた。
「…壊れない…あれだけ…」
その瞬間、上空からクレアの声が響いた。
「学習済みよ。電磁シールドを搭載しているわ」
俺は顔を上げた。
生き残ったドローンのモニターに、クレアが映っている。
無表情のまま、エリスを見下ろしていた。
「No.004の能力を無効化するためにね」
クレアは冷たい目でエリスを観察している。
「なるほど、同士撃ちを引き起こすとはね。
だが、それも対策済みよ」
エリスが震えながら、クレアを睨んだ。
「…あなた、誰…?」
クレアは無表情のまま答えた。
「私はエージェント・クレア。企業から送られた、回収担当よ」
「あなたは私たちの所有物。No.004、今すぐ戻りなさい」
エリスが恐怖に震え、後ずさった。
「嫌だ…戻らない…私は…!」
俺はエリスの前に立ち、銃を構えた。
「悪いが、こいつは返さねぇ」
シールド装備のドローンがレーザーを構えた。
赤い点滅が輝き、エリスに照準を合わせている。
「エリス、目を閉じるな!」
俺はエリスに叫び、銃を構えた。
「その目で、やつの動きを狂わせろ!」
エリスが驚いたように俺を見たが、すぐに頷いた。
青い目が輝き、 ドローンのレーザーが微かに揺れた。
「そこだ!」
俺は乱反射するレーザーを見極め、銃弾を放った。
——バンッ!
弾丸がレーザーの発射口に命中。
シールド装備のドローンが爆発した。
破片が散らばり、火花が飛び散る。
「やったぞ…!」
エリスが驚き、そして微かに笑った。
その瞬間、クレアの声が冷たく響いた。
「次は全機シールド装備にするわ」
モニターが切れ、クレアの姿が消えた。
「今のうちに逃げるぞ!」
俺はエリスの手を強く握り、 裏路地の暗闇へと走り出した。
「エリス、ついてこい!」
「うん!」
二人で暗い路地を駆け抜ける。
背後には、焼け焦げたドローンの残骸が散らばっていた。
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