第26話
一回戦の翌日に直ぐ二回戦がある、ある種お祭り騒ぎな日程は濃縮還元のように観客たちの盛り上がりを濃縮していた。
特に二回戦へと駒を進めた名門校たちの応援への熱狂は凄まじく、その中に北高校も混じる形である。
とは言え、やはりと言うべきかサッカー部の関係者が他と比べて少ないせいか北高校が見劣りしてしまうのは致し方あるまいだろう。それでも繰り返し触れてきた吹奏楽部のように、少ないながらもその熱をサッカー部に還元してくれる存在が居ることは、ホームアドバンテージがあるようでスタジアムに入るとまるでない北高校サッカー部の選手たちに取って、前進する大きな勇気になっていることは言うまでも無かった。
そうして中0日で行われる二回戦である。幸か不幸か午後の部に日程が組み込まれていたのでリカバリーに使える時間は長めに取れたのだが、しかし、日中の最も陽射しが強い時間帯に試合が行われるのは先に挙げたアドバンテージを大きく覆すデメリットだ。
ただ、それは、
「条件でいやぁお相手さんと変わりゃしねぇ」
相手にとっても同じこと。
「んに、90分ぐれぇ暑かろうが耐えやがれって話だぜ。ただ水分不足と塩分不足は根性でどうにかなるもんじゃねぇから給水タイムとハーフタイム以外もこまめに摂っとくんだぜ」
試合前のミーティングで騎院が敵の正体を明確にする。ロッカールームで円になる選手たち一人一人の顔は良い緊張感で満たされては居るが、誰一人として疲労の色を隠すことは出来ていなかった。
敵の正体──疲労と猛暑。それにじわりと削られていく体力と精神。対戦校を外敵と表現するのなら、むしろ真に恐れるべき敵は内側に。つまりはこのインターハイは内側に潜む敵との戦いなのである。
しかも厄介なのはただ精神を保てばいいと言う話ではない点だ。単に
そうなれば──外敵と戦うのなら、内側の敵を排除して万全で挑まなければならない。
騎院はいつものようにじっくりと選手たち一人一人の顔を見る──誰一人として欠けずに決勝へと導く覚悟を決意に変えて。
✕ ✕ ✕
マネージャーとして一年半キャプテンとは接してきたが、本当にずるい人だとずっと思わされていた。彼の怪我について問い詰めて事実を白状されたときも、選手の体調管理を任されていたマネージャーへの不義理とかは直ぐにどうでも良くなった。だってあんなに悲痛な顔をされてはどうしようもないじゃないか。誰よりも責任を感じている人にこれ以上何て言えばいいのだろうか。
✕ ✕ ✕
昨日より、より一層の熱が感じられるマーチバンドの演奏に合わせて、今日も今日とて観戦に訪れていた睡蓮と城ケ崎はグラウンドの栂池に声援を送る。
「栂池君ふぁいとー!」
「頑張るンゴねぇー」
団扇で扇ぎながら気の抜けた応援をする城ケ崎に、
「もう」
っと呆れた反応を示す睡蓮。それを横目で見ながら城ケ崎は吹奏楽部の演奏に耳を傾けた。
「選曲のセンスが良いンゴねぇ。野球みたいにチャンテとかやりにくそうやのに」
「野球とサッカーの違いはプレーに連続性があるか無いか、って城ケ崎君が前に言ってたのと関係あるのかな?」
「まさにそれっすねぇ~。野球の登場曲みたいな盛り上げ方は工夫せんとちょい難しいかも分からンゴねぇ」
「でも工夫次第じゃ出来るんだね♪」
「そう言うことンゴ」
試合は前半ながらシード校相手に2点先制した北高校が優位に進めている。睡蓮も城ケ崎もサッカー部の期待の一年コンビに長々サッカーについて叩き込まれてきた経験があるので、おおよその試合の楽しみ方と言うか、試合展開について理解することが出来た。
「ほほー、これが緒熟の言っていた無理矢理スローペースに持ち込むって奴ね」
「確か試合をコントロールする方法の一つ? 何だっけ」
「ボールを持っている方が体力を使わないのは不思議なンゴねぇ」
グラウンド上ではボランチの2人を中心に軽やかなパス回しが展開されている。
「わっ、栂池君が言ってた優狩先輩大丈夫かなぁ」
パス回しに痺れを切らした相手校の選手のレイトタックルで背番号8が芝生の上に吹き飛ばされる。
「緒熟も優狩先輩のことはべた褒めだったンゴねぇ」
「へぇ、緒熟君がべた褒めだったんだぁ」
「せやせや、あいつが一人にあんなに拘るなんて珍しかったんでよく覚えてるンゴ」
珍しい、と表した城ケ崎に睡蓮も同意だった。
「こりゃ勝ったな風呂入ってくるンゴ」
3点目が決まると城ケ崎はそんな常套句を言ってみた。すると予想通り、
「お風呂? 銭湯に行くの?」
と困惑した返答が聞こえる。
「この暑さじゃそれも良いかも分からンゴねぇー、まぁ着替え持ってきてりゃの話やけども。でも帰りに栂池に会いに行くのはありかも分からンゴね。遊びに来いって言われたンゴ」
「大会期間中は近くのホテルに泊まってるんだっけ」
「せやで。場所は聞いてあるから油売りにいっちょ行きますか」
試合は後半に2点を追加した北高校が5-1で勝利した。
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