第22話 一緒に登校

 朝の静かな住宅街。澄んだ空気の中、花道と紬は並んで歩きながら学校へ向かっていた。


 花道の家のドアが閉まる音が響くと、紬はどこか嬉しそうに微笑みながら口を開いた。


「ねえねえ、こうやって一緒に登校するのは、初めてだね!」


「ああ、そうだな」


 簡単な相槌を打ちながら、花道はポケットに手を突っ込んで歩く。対する紬は、朝日を浴びながら軽やかに足を弾ませていた。


「森田君、今日の夜ご飯は何食べたい?」


 紬が問いかけると、花道は少し考えた後に答えた。


「……オムライス」


「おっ、いいね!」


 紬は、ぱっと表情を輝かせる。


「じゃあ、今日の夕飯はオムライス決定だね! ちゃんとチキンライスにして、ふわとろの卵を乗せるね!」


「お、おう……そんなに張り切らなくても……」


「森田君に美味しいご飯を食べてもらいたいから、張り切るのは当然だよ!」


 ニコッと微笑む紬。その純粋な気持ちが伝わってきて、花道はなんとなく照れくさくなり、視線をそらした。


「……まあ、期待してるわ」


「任せて!」


 そう言うと、紬は満足げに頷いた。


 そこからは他愛のない話をしながら、二人は学校へと歩き続けた。


「そういえばさ、昨日の夜、めっちゃ変な夢見たんだよ」


「えっ、どんなの?」


「俺がラーメン屋で働いてたんだけど、作るラーメン全部が、なぜかプリン味になってんの」


「……ぷっ!? あはははっ!! 何それ!?」


「しかも客が全員ゴリラでさ、『ウホッ! プリンラーメンうめぇ!』とか言ってんの」


「ぶはははっ!! ダメ、面白すぎる!!」


 紬はお腹を抱えて笑いながら、涙を浮かべている。


「それで、店長が『プリンラーメンは新時代の革命だ!』とか言い出して、俺、なぜか『プリンラーメン職人』としてテレビ取材受けてたんだよな」


「待って待って!! もう、ツボに入りすぎて苦しい!!」


 紬は立ち止まって膝に手をつき、肩を震わせながら大笑いする。


「森田君の話、ほんと面白すぎる!!」


「まあ、俺の日常は笑いに満ちてるからな」


「それ、ただの変な夢だからね!?」


 ツッコミを入れながらも、紬は楽しそうに笑い続けた。


 その後も花道は、紬が笑い転げるような小ネタを繰り出しながら歩き、気づけば学校の校門前に到着していた。


「ふぅ……ようやく到着か」


「ねえねえ、森田君」


「ん?」


 紬はカバンの中から、可愛らしい包みの弁当を取り出す。


「これ、今日のお昼ご飯!」


「……えっ?」


 突然差し出された手作り弁当を前に、花道は戸惑う。


「どうして俺に?」


「うーん……やっぱり、森田君に私の料理をもっと食べてもらいたいから、かな?」


 紬は恥ずかしそうに笑いながら、包みを手渡す。


「だから、よかったら食べてね! それで、後から感想を聞かせてほしいな」


「……あ、ああ」


 花道は驚きつつも、紬の気持ちを受け取るように弁当を手に取る。


「ありがとな」


「ううん、こちらこそ! それじゃ、行こっか!」


 紬は明るい笑顔で手を振りながら、昇降口へと向かう。


 花道は彼女の後ろ姿を見つめながら、手に持った弁当をそっと握りしめた。


(なんか……すげぇな)


 こんな風に誰かに気にかけてもらうのは、久しぶりな気がした。


 気恥ずかしさを誤魔化すように、花道は一度深呼吸し、紬の後を追いながら昇降口へと向かった。

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