森、買い取りました。~無能と誹られた転生者、じつは最強。スキル目利きと不動産資産を駆使してスローライフを満喫したいが、噂を聞きつけて強者ばかりやってくる。俺はスローライフを邁進したい。
カクヨムSF研@非公式
入居者募集編
第1話 遺産相続
地下牢獄に灯りがぽつぽつと点る。その灯りのさきにケルヒャーはいた。
黒髪に僅かな白髪を覗かせた髪、貴族に生まれながらごくごくふつうの顔つき、体は筋肉質ではないにせよ、太っているわけでもない。
――きょうもダメだったか。
ケルヒャーは独り
彼のいま目の前には、母親のマリウェリスカが上品で鼻にツンとする香水を匂わせて立っていた。
「あなたって本当に無能だこと……」
「お母さま、俺にだってやる気はあるんです」
ケルヒャーの瞳は燃えていた。しかしマリウェリスカはその瞳を
「これくらいの剣術が出来なくてどうするの? 次期当主であるあなたが剣術・商才・政治的手腕どれを取ってもダメ、ダメ、ダメダメダメ……! こうして罰として牢獄に閉じ込めているというのに、その甲斐もない。あなたのような穀潰しはここで野垂れ死ぬのがふさわしいわ!」
「そんなぁ……」
「情けない声……、もう今日私は自室に戻ります!」
ぷいぷいとマリウェリスカは扉の奥に消えた。
ケルヒャーは自身の身の上を恥じた。しかし、それでも自身は無能なのだとはっきりと信じられなかった。母親の言葉に反している。ケルヒャーは牢獄の柱を見た。見ればすぐに朽ち果てそうな建て付けである。
ケルヒャーは見ることに関しては一人前だった。
いずれこの力で成り上がって見せよう、そんな思いを抱いた。
翌日、ケルヒャーは牢獄から解かれた。地下から出てきて日の光を浴びると、体が目覚める感覚がしてくる。屋敷の外から扉を開けようとしたそのとき。
ひとりのメイドに尋ねれば、要領を得ない言葉が返ってくるばかりだ。
……何が起こっているんだろう?
ケルヒャーは屋敷の大廊下を進む。気づけば執事のバーリントンが立ち尽くしている。彼に声をかけた。すらりと伸びた背丈、白髪で整えられた髪、蝶ネクタイをした紳士といった雰囲気の男性だ。
「バーリントン、なにがどうなってる? 屋敷が騒がしいぞ」
「奥様が……、亡くなられました」
「え?」
突然の訃報だった。はっきりと言葉が浮かんでこない。あれだけ無能と
「お父さまはそのことを?」
「いまご当主様は外遊中でございます。地下牢獄に閉じ込められていてご存知なかったのですね」
それ以上の言葉は頭に入ってこなかった。
悲しみも束の間、遺体の保存状態も気になるということで葬儀の準備が整えられた。
黒いジャケットを羽織り、
次代の当主代行という責務もさることながら、やはり不安感が募る。指を揉んだりしているところをバーリントンに
母親の遺体を前にしては――
安らかなマリウェリスカの顔は苦しまずに逝ったのだろうと想像させた。
花びらをたくさん
葬儀にはたくさんの人々が詰めかけた。友人、お父さまの客人、そして政治家、商人、軍人、その誰もが生前のお母さまを知っていた。
それに比べ……。
ケルヒャーは自身を恥じた。俺は無能だ。きっとこの先もやっていけない。
葬儀を終えると、息をついた。客人がぞろぞろと屋敷を出て行く。出て行く人々のなかに一際上質な仕立てのジャケットを羽織った男がいた。男の眼差しがケルヒャーを捉えた。ニッと笑ってオールバックにした金髪の男がこちらに寄ってくる。
「生前、マリウェリスカ様の資産を管理していた者です。アーデルハイトと言います」
「よ、よろしく……」
おずおずとケルヒャーは会釈した。緊張する。
「ところで、マリウェリスカ様の遺産相続に関しまして、ご一報しに参りました」
「遺産ですか?」
突然のことでケルヒャーは言葉にならない。
「ええ。マリウェリスカ様が亡くなったときのために、と」
アーデルハイトはジャケットのポケットから上質な紙を差し出した。よく見ればマリウェリスカのサインと金額が書いてある。
「これです」
桁を数えると、
「桁まちがってませんか?」
その額はケルヒャーが一生働いても手に入れられない大金だった。その額、5千万Ge。
「いいえ、額はそのとおりと確認しております」
ケルヒャーの額に汗が伝う。こんな大金見たことがない。
「では失礼いたします」
アーデルハイトは屋敷からそそくさと出て行った。ケルヒャーはそこで一人取り残される形になった。
「どうすんだ、この大金……」
無能と
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