第10話 おっさん、ネットミーム化する

 郊外にある廃墟ビル。

 撤去が半端になっているビルフロアには、朝の冷たい空気が流れている。

 今朝は出勤時間より早く起きて、こうして誰もこない場所にやってきた。


 僕は廃棄された資材に腰掛けつつ、スマホをさわる。

 詐欺グループ一斉検挙のニュースがいろんなサイトで流れていた。


「半覚醒者の情報はやっぱりないか……」


 赤毛の男も、そのボスも、半覚醒者だった。

 けれど話題が一切ないのを見るに、情報統制が敷かれているのか?


「僕についてはしゃべるなとは言っておいたけど……」


 連中にはキツーク言っておいたが、どこからかは漏れるだろう。

 管理局の人間がきても知らぬ存ぜぬをとおすつもりでいたが、僕の周りは落ち着いたものだ。


 誰かの意図を感じる。

 心当たりはあるが、今はその件は置くとしてだ。


「……ネット社会、めざとい」


 埠頭で、発光体の目撃情報がSNSでチラホラと。


 一部では鳩おじさんじゃないかと疑惑があがっているが、あっている。僕だ。ピカピカ光って正体を雑に隠しておいたんだ。


「なんでこんなネタにされてんの?」


 詐欺グループの一斉検挙は鳩おじさん(又は、ギルおじ)のおかげだと噂になっている。


 推察とかじゃなくて、こうあって欲しいなというネタだが。

 不可解な力でなにかしら解決したら、それはすべて鳩おじさんのおかげらしい。


 以下反応。


『鳩おじさんの鳩が詐欺グループを一斉検挙』

『さすが俺たちのギルおじ』

『鳩おじさんのおかげでまた罪が暴かれてしまったわけか』『ギルティ!』『おじさんの背後に立ってしまったようだな』

『その罪は……鳩おじさんが裁く!』


 詐欺グループ壊滅させたのは僕だけども! 

 身に覚えのないことまで僕のおかげになっていたりするし!


『鳩おじさんのおかげで腰痛が治りました!』

『鳩おじさんのおかげで毎日快眠です!』

『鳩おじさんのおかげで一週間晴れがつづくようですよ!』


 個人的なことから天候まで、なぜだか僕のおかげにしている……。

 あと、よくわからない文化もある。


『ギルおじがだんだん完璧で究極になる動画』

『鳩おじさんとかぼちゃ男が踊っているだけの動画』

『踊ってもない夜を知っている鳩おじさん』


 なにこれ! なにこれ‼‼‼

 MAD文化というやつらしいが、わからんすぎて怖い‼

 ネットミームってなに? なんで僕、概念存在みたいになってんだ???? 詐欺グループよりもネット文化が怖いんだが‼‼‼


「あーでも……FLASH動画はこんなノリだったかなあ……」


 あれの延長上にあるようなものなのだと思い、ちょっと納得。

 フリー素材化した僕の近況はそんなところだ。


 もっぱらの問題は、姪が半覚醒者になった件。


 つづきちゃんは学校のブレザー姿で、数メートル先のコンクリートの破片に向かい、魔法を唱えようとしていた。


「風よ!」


 彼女の右手から風が放たれる。

 バカコーンッと、コンクリートの破片がふっとんだ。


「こっちでも魔法を使えているね」


 僕の言葉に、つづきちゃんはやわらかく微笑んだ。


「うん、使えるね。ちょっとラッキー?」

「そんな簡単にすませていいもんじゃないけどね……」

「おじさんに比べたらだいたいのことがどうってことないよ」


 つづきちゃんはなぜか嬉しそうだ。


 僕の面倒ごとに巻きこまれたのに、姪は怒るどころか距離感を近くさせた気がする。さっきも『おじさんおじさんおじさん』と意味もなく、連呼された。なつかれて悪い気はしないが、また同じ目にあわせたら妹に合わせる顔がない。


「つづきちゃん、身体能力はどう?」

「んー……あまり変わってないと思う。ただ」

「ただ?」

「身体にズレを感じる、かな。ズレがないときはキレがいい」

「安定はしていないか……なるほど、半覚醒者ね」


 ダンジョンでのステータスが反映されるわけじゃないのか。


 半覚醒者。噂じゃなくて真実か。


 なる条件はわからない。つづきちゃんもあのときは無我夢中で、本当に風魔法が使えるとは思っていなかったらしい。情報統制も敷かれているようだし、管理局は把握しているだろう。なのに一切公表されていないのはなにか理由があるのか。


 姪っ子がこっちでも身を守れる手段ができたのは喜ぶべきなのか……。


「……つづきちゃんはまだ攻略配信やるつもりだよね?」

「もちろん。お金はあるだけあるほどいい」

「わかった。異変を感じたらすぐに連絡してね」

「うん。……ねえ、私が半覚醒者になったってこと、おじさん以外に言わないほうがいい?」


 リスナーだけでなく、お母さんにもって意味だ。


 妹は僕のことがあってかダンジョン関連は目に入れたくないようだし、娘が魔法を使えるようになったなんて伝えたら……心労で倒れるんじゃ……。


「……今はそうだね。妹に伝えるときは、僕も一緒に行くよ」

「はーい」


 つづきちゃんは素直に返事した。

 妹に伝えるにしても、半覚醒状態を治す方法だとか力の安定方法だとか、しっかり把握してからじゃないと不安だけを伝えることになる。


 解明や対処には異世界の……魔法の知識が役に立つかもしれない。

 ただ僕、普通の冒険者じゃなかったからな。


 基礎魔法なんてぜんぜん学んでいないし、オリジナル厨二病魔法だけで異世界を冒険して、ホントよく生きのこったな……。


 こっちの事情を明かせて、魔法に詳しい人……。


 あ………………………いる……。

 どうする…………………頼りになるけど、頼りたくないが………………。


「おじさん」「つづきちゃん」


 僕と姪っ子は同時に言った。

 お互いに苦笑しながら、どうぞどうぞとゆずるように要件を伝える。


「おじさんの公式Tシャツつくっていい?」「僕の異世界仲間に会ってみる?」


 公式Tシャツ⁉


「こ、こ、公式Tシャツってなに⁉⁉⁉」

「おじさん、異世界の仲間がこっちにいたの⁉⁉⁉」


 お互いにまたもかぶってしまった。

 姪は心底驚いているようだが、公式Tシャツの衝撃に比べればどうってことない。


「僕のTシャツを売るの⁉」

「鳩おじさんをデザインした公式Tシャツだよ」

「こ、公式? そもそも公式非公式はどこで判定するわけで……?」

「最初バズったのは私の配信キッカケだから、私が公式感があるんだよね。その流れに便上して、鳩おじさんTシャツを販売するつもり」

「売れないと思うよ……」

「ふふ、売れたらおじさんのアクリルスタンドも計画するよ」


 姪っ子はどこか自信ありげだ。


 売れないだろう……売れない、よな?

 誰が好んでそんな……売れないよな?


 ネット独自の熱に戦々恐々しながら、僕は、まあどーにでもなーれと許可をだした。


「いいんじゃない。少しは家計の足しになるのなら」

「おじさん、勘違いしちゃ困るよ」

「なにが?」

「家計のためもあるけどね。それはそれとして私、お金が大好き」

「素敵な表情で言うんじゃないよ。もう」


 将来をちょっと心配していると、姪は私の番だよといった表情で聞いてきた。


「それで、おじさん。異世界の仲間は?」

「あ、ああ……。同じ異世界転移者でね。長年苦楽を共にして、こっちの世界に一緒に帰ってきた」

「……そんな仲間なのに、一度も話さなかったよね?」


 つづきちゃんは当然の疑問を口にした。


 だよな……。妹に異世界話をしたとき一度も話さなかったし……。あのとき説明すると話が余計にこじれると思ってね……。うん……。


「ちょっと……言いづらくてさ……」


 できるなら、姪には会わせたくないが……四の五のは言ってられないか。

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