異世界帰りのおっさんは元厨二病 ~オリジナル厨二魔法で姪っ子を助けたら配信がバズりました。羞恥心が過酷すぎますが、家族のために無双します~

今慈ムジナ@『ただの門番』発売中!

第1話 異世界帰りのおっさんです

 若いころのやらかしは歳をとってから効いてくる。

 仕事机の前でパソコン画面を見つめながら、僕はそんなことを思った。


「ふう。画面を見つめすぎて目が痛い……」


 とある案内所。

 僕がため息を吐くと、肩に加齢がのしかかった気がした。


 僕の名前は終里おわりはじめ。

 アラフォーと呼ばれる年齢だ。キーボード操作がおぼつかないのは、なにせ半年前までろくに触ったことがないからだ。


 昼下がりの案内所は人がまばらで、僕以外の職員はのんびりと仕事をしている。

 寂れた観光地ってわけじゃなく、今週の【ダンジョン指数】が低いからだ。


 僕が働いているのはダンジョン案内所。

 冒険者ダイバーと呼ばれる人に、おすすめダンジョンやスポットを案内するのが主な仕事だ。


「D指数が週末に大きく動くから……。商店街のイベントは問題ないか……」


 ぶつぶつとつぶきながら、画面の天気予報みたいなダンジョン指数とにらめっこする。別タブでは地域振興イベントをまとめたファイルをひらき、週末までのスケジュールを再確認した。


 宿の空きも問題なし。アイテムショップの新入冒険者用セールも告知しておこう。

 あとは冒険者招致の企画書も進めるかな。


 うん、頭で情報はまとめた。

 人より仕事が遅い分、せめて丁寧にしなきゃなあ。


「……しかしまあ、とんでもない世の中になっていたんだな」


 世界中にダンジョンが沸くようになって十数年。

 ダンジョンが世界を浸食して、ファンタジーであらわれるようなモンスターが沸いた。


 全世界は大混乱に陥り……そして、早めに適応したらしい。


 自然発生するダンジョンは世界を浸食するが、ダンジョンコアを破壊すれば消滅する。D指数が低ければ、ダメージを食らっても痛みはない。怪我を負っても僕たちの世界に戻ってくれば影響がないなど、個人でも対応可能だったからだ。


 もちろん、モンスターの危険性はある。

 ダンジョンが成長するとモンスターが飛び出してきて、とんでもない災害を引き起こす。


 だが、ダンジョン下であれば人類は魔法やスキルを使えることもでき、突如ひらけるようになったステータス画面からは能力を伸ばせるようになっていた。


 原因不明。

 この現象自体は、空想特異点エア・シンギュラリティと呼ばれている。


 ようは漫画やアニメの世界が身近になったわけだ。

 そうなると話が変わってくる。世界共通の脅威はアトラクションに変わり、危険なモンスターは資源になると人類は気づいた。


 今ではレジャー化して、地域振興の一環として冒険者を招致したりする。高レベルダンジョンは腕利きの冒険者を呼ばないと危険だが、D指数を予報できるようになってそこまで成長することは稀だ。


 ちなみに配信文化ってのもあるが、おじさんにはよくわからない。

 まあダンジョンと冒険者の橋渡し役になるのが、案内所の仕事だ。


 あとは素材の仲介買取業や、ちょっとした攻略依頼……言わば、冒険者ギルド的な役割も担っていた。

 いまだ慣れない事務作業をしていると、側から声がかかる。


「終里さん終里さん。ちょっといいっスかー」

「? なんだい、佐々原君」


 糸目でスーツ姿の若い女子。

 佐々原君が僕に笑顔を向けていた。


「えっとスね。招致したいアイドル冒険者ダイバーを終里さんにたしかめてもらいたくて」

「僕が? 参考にならないと思うよ」

「年配の意見を聞きたいんっスよ」


 年配……。いや、おっさんだけどそう言われると実感するなあ……。


 送られてきたURLをクリックする。目を細めながらたしかめると、鎧をまとった女の子たちが明るくダンジョン攻略中の動画だった。


「どうっスか?」

「……みんな同じ顔に見える」

「あー、おっさんっスねー」


 佐々原君は(笑)が伝わるように唇をゆがめた。


 舐められている……。

 彼女は社会人2年目だが、それでも僕よりは社会経験を積んでいる。そのあたりを見透かされたのか、基本僕を舐めていた。


「参考にならないと言っただろう」

「怒らないでくださいよー。そういった意見も大事と思っていますから」

「……ダンジョン攻略をレジャー感覚ってのが慣れないんだよ。華やかな面ばかりを魅せるのも危ない、僕はそう思うけれどね。若い子には合わない意見みたいだが」

「終里さんの丁寧な案内でテンション下げる若い冒険者いるっスからね」

「……佐々原君の案内はウケがいいよね」

「私の世代はダンジョンが身近にありましたから」


 佐々原君はどこか勝ち誇った笑みで、オールドタイプでも見るような視線をよこした。

 僕がしかめ面になると、彼女はアハハと笑う。


「終里さんを舐めているとかじゃないっスよ」

「ホントかねぇ」

「終里さんって話しやすくて、つい。セクハラもパワハラもないし、偉ぶったところもないし」

「僕らの世代はどう見られているんだ……」

「そこなんっスよねー」


 佐々原君は椅子をひき、不思議そうに両腕を組んだ。


「そこ?」

「終里さん、事務作業はあんまりだし仕事も遅いし、できない人だって案内所内で……私が言っているんですけど」

「本人が目の前にいますが?」

「陰口は面と向かってっスから!」


 佐々原君はてへりと笑う。


 愛嬌のつもりかい。小さな憎しみの炎が灯ったよ。

 これが若い子のノリなのか彼女の性格なのか、おじさんわからないなあ……。


「終里さん、地味でうだつのあがらない印象が強いのに……でも堂が入っているところがあるというか、浮世離れ感があるというか」

「舐めてるよね?」

「もしかして、長いことオツトメしていたとか?」


 佐々原君は手錠をはめたジェスチャーをした。

 当たらずも遠からずなので僕は嘆息つきつつも答えた。


「……まあ、そんなところ」

「やっぱり! そんなところっスよね!」


 佐々原君は納得したようにうなずいた。

 刑務所でオツトメしていたかもしれない相手に、この生意気な態度。若さゆえなのか。


 僕が眉間のしわを深くさせていると、彼女は親指を立てた。


「大丈夫っス! 終里さんがどんな人でも、私、ちゃんとコキ使える女なので!」

「僕の上司になる気満々かい」

「えへへー。早く出世しちゃうかもですねー」


 めちゃくちゃ舐められているな……。

 なにか言ってやろうと思ったが、キラキラした若さを前に自分の加齢を感じてしまい、なんだか疲れてしまった。


 ※※※


 仕事も終わったので帰路につく。

 夕闇を背に仕事のあれやこれやを考えながら、コンビニのガラスに映った自分の姿が馴染みつつあって驚いた。


「……スーツを着る日がくるなんて思わなかったな」


 社会人になった自分を想像できなかった。それは、ずっと夢を追いかけていたとか、刑務所でオツトメしていたとかじゃない。


 この現代社会でスーツを着ることを諦めていたのだ。


「はあ……冒険の日々より疲れるよ」


 ため息をするたびに若さが抜けていく気がする。

 今夜は元気づけるために豪勢な食事にするか。もちろん半額セール品で。


 そう考えて、歩道橋を渡ろうとしたときだった。


「あ」


 子犬が車道に飛び出てきて、今にもトラックにひかれそうだ。


 迫るヘッドライト。硬直した子犬。

 僕は慌てて車道に躍り出る。タイミング的に、僕が子犬を助けてもトラックにひかれてしまいそうだ。もしや異世界に転移するかもな。


 実際、以前はそうやって異世界転移した。


「――断たれた片翼の輪舞ヘブン・ロンド


 両足の踵から黒い翼がちょこりと生える。

 僕は加速して子犬を抱えあげると、反対側の道路にふわりと降りる。黒い羽根が舞い散り、キョトンとした子犬に優しく微笑んでやる。


「飛び出し注意だぞ? じゃなきゃ僕みたいに何十年も異世界を冒険することになるよ」


 そう、僕は異世界帰りのおっさん。

 そして元厨二病だ。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る