OUTRO—天に輝く未来のバンド
~1年後~
太陽が燦々と輝く、夏真っ盛り。今年もまた、この季節がやって来た。
あの事件の後は、本当に波乱の日々だった。突如街に流れ、人々を救ったあの音を奏でた人として、しばらくは物凄い量の記者が私達を囲んだ。かなりしつこい記者もいたけれど、その分莫大な知名度を得られたので結果オーライだ。
ウイルスによってかなりの被害を受けた保馬市も、物凄い勢いで復興が進んでいる。私達もできる事を手伝いながら、街が熱を取り戻していくのを肌で感じた。
ライブに記者のインタビューにボランティアと大忙しだったけれど、何とか私とルナ、カリンは三年生に、ヒカルとチクマツは四年生に進級することができた。今も変わらず大忙しだけれど、何とかやれている。ちなみにガマさんはまた留年した。
そして今日は、1年前に実施できなかったままになっていたサマースカイフェスが行われる日。1年越しにようやく、私達の悲願が叶う事になった。
「ちょっとおとね、もしかして緊張してるの?」
「ちょっとね……。1年も待たされた念願の日だから、流石に緊張してきちゃった」
本番を直前にして、私は震えに震えていた。今日はLIGHTHOUSEにとって、1年越しの念願の晴れ舞台。それだけでなく、昨今の活躍を踏まえて、なんとトップバッターを任されてしまった。
「おとねの気持ちも分かるよ。流石に一番最初となると緊張してきちゃうよね」
「まぁでもそんな時こそさ、去年店長さんが言ってた事を思い出せばいいんじゃない? ホラ言ってたじゃない、未来の姿を思い描け~って」
「そうそう。カリンの言う通りだよ」
噂をすれば何とやら。カリンが言うと同時に、控え室に店長さんが入って来た。最近はデイジーの仕事がかなり忙しいようで疲れが見えたが、それでも私達の為に来てくれたみたいだ。
「この1年で君達は凄く成長したよ。いきなり知名度が上がった物だから、それに焦る気持ちも分かる。でも、だからこそこれだけは分かっててほしい。名前だけじゃなくて、君達の実力はちゃんと成長しているってね。それを信じれば、きっとこの会場を熱狂の渦にできるはずだよ」
「細野サンがそう言ってくれるなら、間違いないだろうな。……ん、お陰でオレのベロも絶好調だ」
「ガマ君、君は学業の方ももう少し頑張るべきなんじゃないかな……? まぁでも、今それを言うのは粋じゃないか。とにかく、自分たちのベストを尽くすんだ。君達ならできる! 応援してるよ」
そう私達を激励して、店長さんは観客席へと戻っていった。
「やっぱり店長さん、凄いなぁ。私もあんな風に、言葉で誰かを鼓舞できるような人になりたいな」
「それならルナ、私達はもうそうなってるんじゃない? この前ルナが作詞した曲、歌詞の評判めっちゃ良かったよ! ルナはさ、もっと自信持って良いんだよ!」
「……うん。そうだね。ありがとう、おとね。おとねのお陰で、私は今を強く生きれてるよ」
「それを言ったら私もよ。この際だから改めて言うけど、私をバンドに誘ってくれて本当にありがとう、おとね。あの時誘われなかったら、私ずっと殻に閉じこもりっぱなしだったと思う。今があるのは、間違いなくおとねのお陰よ」
「ちょっと、そんなに言わないでよ。照れるじゃん。……でも本当に、ここまで来れたのはみんなのお陰。私の、私達の夢はまだまだここからだけど、今お礼を言わせて。みんな本当に、私に着いてきてくれてありがとう!」
あの日、私が能力者になった日から、全てが始まった。あの時はまだ小さかった私の音が、能力者の運命で引き寄せられたこの仲間たちのお陰で、今や日本中に響くまでに大きくなった。誰か一人でも欠けていたら、今この場所に立つことはできなかったと思う。本当に、私の最愛の仲間達だ。
「何言ってんだ、おとね! これまでだけじゃなくて、これからもずっと永遠のフォーエバーに着いて行くに決まってるだろ? ……俺的には、公私共に着いて行かせてもらえると嬉しいんだけどな」
「ヒカルは相変わらずだなぁ。……まぁでも、今後の活躍次第では考えない事も無いかも?」
「おとね……! 愛してるぜー!」
「はいはいストップ。こんな所で騒ぎ起こさないでください。台無しにするつもりですか?」
私に飛びつこうとしたヒカルを、正確無比な狙いでカリンが叩き落とす。あまりにもいつも通りな光景に、思わず笑ってしまった。
「LIGHTHOUSEの皆さん、そろそろ準備お願いします!」
気持ちも落ち着いて来た所で、スタッフが私達に声を掛ける。間もなく開演の時間だ。
「おっ、もう時間か。オレ達のメロディ、いっちょかましてやりますか!」
「それじゃあおとね、いつものやる?」
「うん、そうだね。やろう! よしよしみんな輪になって!」
五人で輪の形になって、手を重ね合わせる。輪を中心として、全員の熱が一つになっていくのを感じた。
これからも、夢を追う私達には色々な困難が訪れるだろう。時にはそれは、諦めたくなってしまうような物かもしれない。
それでも私達は、堂々と光っていこう。このどうしようもなく楽しい音楽を、どこまでも届けるために。
そんな熱がある限り、これからも私達は輝く星であり続けられるはずだ。音楽はいつだって、みんなを楽しませられる物だから。
音楽と能力で世界中の人々の心に熱と楽しさを届ける。そんなミュータント・ロックスターになるために、今日も私達は音を奏でる。どこまでだって響くような音を。
「LIGHTHOUSE、光っていこう!」
~完~
~~~
ここまで読んでくださりありがとうございます。作者の三ツ谷おんです。
この「ミュータント・ロックスター!」という作品は、僕がとある作品に影響を受けて書き始めました。ですが、いざこの作品を書こうとなって初めて、僕は今まで物凄く音楽に支えられて生きてきたんだなと思い知りました。
何か大きな出来事が起きた時には、いつだってすぐ側に音楽がいました。寄り添ってもらったり、勇気を貰ったり、支えてもらったり。至れり尽くせりですね(笑)。
作中でおとね達が何度も言っていたように、どんな音楽にも熱があると僕は思います。業火のように一気に燃え上がる物もあれば、灼熱に焦がれた跡を残していくような物もある。心に響く音楽には、そういった作者の熱が現れているように感じました。
この作品は、今の僕の音楽に対する考えや思いを詰め込んだ作品です。僕は楽器とかは全然できなくて完全に聴く側なんですが、それでも同じ創作をする者として、身の回りに溢れる音楽、そしてこの作品に熱を持って向き合いました。そんな作品を少しでも楽しんでいただけたなら、僕としても光栄です。
繰り返しにはなりますが、ここまで読んでくださり本当にありがとうございました。また縁があったら、どこかでお会いしましょう。
三ツ谷おん
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