ハッピーエンドを希う〜美少女兵器が戦争をするゲーム世界で、指揮官の俺は体を張る〜

御愛

第1話 ハッピーさんは今日も

 

 自己紹介をするとしたら、俺はまず開口一番こう答えるだろう。


 "ハッピーエンドが大好きです"と。


 いや、好きなんてもんじゃない。ハッピーエンドでなければダメなのだ。バッドエンドを認めるための口実……現実は甘くないとか、普通に考えたらこんな結末になるよねとか、そんな言葉で言いくるめられたりはしない。


 物語は絶対に、報われなければならないのだ。


 そしてそんな信念の元、俺は現在とある作業に没頭している。


 目の前にはゲーミングPC。


 その画面を行き交うのは色とりどりのキャラクター達に、種種雑多な機械を継ぎ接ぎした巨大な敵botだった。


 画面の左端を、仲間の行動や敵のスキルを秒単位で表示するログが、高速で流れていく。


 俺の両指は絶え間なくキーボードを叩き、リアルタイムで手持ちのメンバーに最適な行動を入力し続ける。


「なかなか硬い。流石は裏盤面最強の巨大ボス……これで第一形態って嘘だろ。あと三つも変身を残してるのか……」


 俺が操作するキャラクター達は、俺の指示通り的確に相手を攻撃している。


 しかし、それでも全てのキャラクターを把握し切る事は出来ない。


 六つの画面がそれぞれのキャラクターを追うものの、それら全てを完全に最適な方向へ誘導するのは難しく、幾つか被弾を喰らってしまう。


「まずい、"デルタ"がやられる」


 そして、とうとう画面の内の一つを占有していたキャラクターの背がゆっくりと地面に倒れた。


 ログに、戦闘員"デルタ"が戦闘不能になりました、という情報が赤字で流れてくる。


 俺は脱力し、力無くマウスを操作した。


「……やり直しだ」


 そこで、俺はその戦闘をリタイアした。


 “loser”の文字が画面いっぱいに表示される。


「クソッ、また戦略練るしかないか。しかし途中までは結構良い線いってたからな。あのシーンだけ凌げば、第一の盤面はクリアできそうだしな……もう一回やってみるか」


 俺は再度、あの巨大なボスに挑戦する。


 結果は、第二盤面での敗北。


 変身した形態の初撃をキャラクターの一人が避けきれず、回復途中のHPが瞬く間に削られ、戦闘不能になってしまった。


 三度再戦する。


 今度は、第一形態の変身直前。それまで発動したことのない発狂動作が表れ、二体が巻き添えを食らった。


 再戦、再戦、再戦、再戦……


 そしてまた—————







£££







 目の前の画面に映るのは、金色に輝く"winner"の文字列。


 俺はググっと伸びをして、チェアーの背もたれに深く背中を押しつける。


「……長かったな、ここまで」


 ログに戦績結果が表示される。


 第一隊員ゲヘナ———生還


 第二隊員ラヴォ=ハンジュ———生還


 第三隊員デルタ———生還


 第四隊員クロサワ———生還


 第五隊員ジャルスカイ———生還


 第六隊員カップカップ———生還


 スコアに生還ボーナスが追加されます。


 フルメンバー生還ボーナスが追加されます。


 極悪ルナティックミッション『マルチタスク』クリア。ボーナスが追加されます。


「死亡なし、ミッションもクリア……よしよし、スクショしてあいつらに自慢しよう」


 俺はスマホの画面を開き、カメラでパシャリとPC画面を保存した後、それを自分のアカウントに載せた。


 すぐさま既読が付き、知り合いから幾つかのコメントが送信されてくる。


[チョリソー=ポークピーナッツ]

:うわまじすかハッピーさんとうとう


[ベロベロアルコール消毒中]

:キモ過ぎ


[前人未到bot]

:新たな前人未到、おめでとうございます。このスクショお借りしても良いですか?


[草でも良いから生えてくれ]

:マジかよマルチタスク達成か。人間じゃねぇよ


[ただの性欲]

:おめでとうございます。シコい。いや凄い


[あめんぼ]

:うわー、あめんぼだー


[佐々木佑香]

:おめでとうございます。また今度、一緒にゲームどうですか?


[熱意は熱い]

:すごいっス


[ぐっちょぐちょ男]

:流石ハッピーさん。ハッピー厨は伊達じゃない


[となりのとろろにとろろかけ]

:おめでとうございます!!とろろ!!


[ゲヘナちゃん推し]

:す・ば・ら・し・い


[クロ]

:漆黒の闇に震えて眠れ!!!


 ……


 ……


 ……




「ふぅー疲れたー!!でもめっちゃ達成感……」


 次々流れてくるコメントにざっと目を通しつつ、時々返信などする。


 このコメントの中でも、"ハッピー厨"という言葉がよく目につく。


 これは俺自身で標榜している自称なので、彼らが俺をそう評するのも自然なことだと思う。


 俺はハッピーエンドが大好きだ。彼女が作った三度の飯より、ハッピーエンドが大好きなのだ。たったの一人も傷つくことなく、大団円で物語が終わらなければ気が済まないのだ。


 


 それこそが、俺の考えるハッピーエンドのだ。


 それ以外の物語は、決して受け入れることが出来ない。


「今日もまた、一つの物語を幸せに導くことが出来た……今日はいい夢が見れそうだな」


 俺はゲームで疲れ切った脳と目を早々に休ませたいと思い、そのまま背後にあるベットに向かおうと、チェアーを押して立ち上がろうとする。


 が—————



「あれ?」



 恐らく、というかそれ以外あり得ないのだろうが。


 チェアーのタイヤが空回った感触があった。どうやら、体重のかけ方を間違えたようで、椅子が傾いてしまったらしい。


 自分の体が浮遊感に包まれたのだ。


 そして当然と言うべきか、自らの肉体は支えを失った状態で椅子から投げ出される。


 これはまずい、と思った次の瞬間には、俺の眼前に床のタイルが迫ってきていた。


「あっ————」



 自分の体から発せられたとは思えないほどの鈍い音が骨を伝わり、俺の意識はそのまま冷たい闇に包まれていった。



















【今日のハイライト】


[クロ]

:漆黒の闇に震えて眠れ!!!

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