第3章 成長の日々
第17話 踊り子来たる
「ねえパパ!冒険のお話もっと沢山して!」
「そうだな……あれは、俺が親友と一緒に山を登ってた時、不注意で転落して怪我してしまった時だ……」
「そうなの?痛かった?」
「ああ……本当に痛い……すぐさま親友が応急処置をしてくれたが、助けを呼ぶ事も出来ずに途方に暮れていた……その時!」
「そのとき!?」
「青く大きな氷の翼を広げたドラゴンが現れ、俺達を救ってくれたんだ。俺達を安全な所まで運んで、美味しい料理もおすそ分けしてくれた……おかげで俺達は帰って来れて、今の妻と結ばれ、お前が生まれて、そして今お前とお話している」
「すごーい!ドラゴンってすごーい!ねえねえパパ、ワタクシも会ってみたいな!そのドラゴンに!」
「あのドラゴンは今もどこかで誰かを助けている事だろう……」
「ワタクシ、いつか会ってみたい!すごいドラゴンに!!!」
* * * * * * *
ポース君の13歳の誕生日からしばらく経った朝。
アルブルタウンに、一台の馬車が止まり、中から一人、馬車を降りて町の地面を踏んだっ。
「やっと着いたわ!ここがアルブルタウン!」
ボストンバッグを持った15歳ぐらいの褐色肌の少女はメタリックな質感の帽子と手袋を着けて赤と黄色のギラギラした服を着ていて、アルブルタウンの街並みを見据えていましたっ。
「ええーっと、ワタクシの暮らす家は……あっちね!」
バッグを手に持ち、新しく暮らす家に向かっていくっ。その様子を、わたしグレィスは家を出てすぐに遠くから見ていたのっ。この辺りでは見かけない人なのは確かなので、わたしはその人に近付いて話しかけようとしましたっ。
「あのっ、どちらさまでしょうかっ」
「おや!アナタこの町の住民?初めましてー!」
「は、初めましてっ……なんだか濃い人ですねっ……」
「ワタクシ、アーダーと申します!以後お見知りおきを!」
「わたしはグレィスといいますっ!よろしくお願いしますっ!」
「グレィスと言うのですね!この辺りに住んでいらっしゃるのかしら?」
「はいっ、ここがわたしと家族の家ですっ」
「ワタクシの家にかなり近い所ね!ワタクシ今日からここで一人暮らしする事になったの!これからご近所同士よろしくねー!」
「は、はいっ……アーダーさん、よろしくですっ……」
この町に新たに暮らす事になったアーダーさん。一体どんな人なんでしょうかっ。
* * * * * * *
アーダーさんがわたしの家の近くに暮らすようになって数日後、この日わたしは町のカフェのお手伝いをする事になりましたっ。
「注文通りに料理を届けてっ……今日もみんな美味しそうに食べてますっ」
お客さんの笑顔を見るわたし。すると、カフェのオーナーさんがお客さんに言いましたっ。
「皆さん、本日はダンスショーをお送りいたします。新進気鋭のダンサー、アーダーさん、どうぞ!」
カフェのステージに、一人の少女が上がって来たっ。派手な衣装を着て、左手にステッキを持っていますっ。間違いないですっ、先日引っ越して来たあのアーダーさんですっ。
「皆様、本日はワタクシの踊りで楽しんでくださいねー!」
ステージに置かれたグランドピアノの演奏と共に、アーダーさんが踊り始めましたっ。
「おお……すごい……」
「体術も棒術も素晴らしい!」
「派手なように見えて、実は緻密な動きだな」
アーダーさんはピアノの音と親しむようにステッキを華麗に回しながら踊っていましたっ。
「すごいですっ……こんなの初めての感覚ですっ……!」
わたしも仕事の途中なのに、ついつい見入っちゃいましたっ……早くこの料理を届けないとっ……!
「お、お待たせしましたっ!」
「ああ、グレィスか。あの子の踊りが素晴らしくて料理を待っている時間が一瞬のように思えたよ」
「そ、そうだったのですねっ……」
多くのお客さんを魅了するアーダーさんの踊りっ。ステッキを上に投げては掴み投げては掴み、終始圧巻のパフォーマンスを見せてくれましたっ!
ワーワー!!!パチパチパチパチ……
「ありがとうございましたー!今日も楽しく過ごしましょうねー!」
わたしはひと通り料理を運び終えると、アーダーさんに話しかけましたっ。
「アーダーさん、とってもかっこよかったですっ!」
「あらグレィスさん、ワタクシのダンスを褒めてくださるのですね」
「色々聞いてみても良いでしょうかっ、アーダーさんはどこから来たのでしょうかっ」
「ここからだいぶ遠い所だったわ、登山家の父とダンサーの母の家で育ったのよ」
「アルブルタウンで暮らす事になった理由とかってありますかっ」
「父の恩人がこの辺りにいると聞きまして、両親にお願いしてここで暮らす事になりましたわ」
「父の恩人って、どなたでしょうかっ」
「それは、青く大きな翼を持ったドラゴンで……」
ドアが開き、ドアの上に付いたベルが鳴る音っ。
「ごめんくださいい、今日は何だか賑やかですねえ」
大きな翼の氷のドラゴン族がお店に入って来ましたっ。今更説明するまでもない、氷竜の子グラスさんですっ!
「あ、グラスさんっ、いらっしゃいませっ!」
「グレィスちゃん、そちらの方は初めて会いますねえ」
「……あれっ、アーダーさんっ……?」
なんだかアーダーさんがグラスさんを見るなり表情を変えましたっ。
「あれは青くて大きな翼……パパが言ってた通り……間違いない……!!!」
すると、アーダーさんはグラスさんに近寄り、突然抱きついて来ましたっ!
「すごーーーい!!!本当にここにいましたわーーーー!!!」
「わわあ!急に抱きついてきて来ましたあ!」
「あの、山で怪我した人を助けた事ってありましたよね!覚えてますよね!」
「あ、あれは確か25年ぐらい前、帰り道で遭難していた登山家二人を助けた事がありましてえ……」
すると、アーダーさんはグラスさんに言いましたっ。
「ワタクシね、あの時怪我してた所を救われた登山家の娘なんですよ!!!」
「えええ!?!?」
アーダーさんの突然の発言に、グラスさんは驚きましたっ。
「父が、もしグラスに会えたならこれを渡してほしいと言ってました、読んでください」
アーダーさんはグラスさんに一枚の手紙を渡しましたっ。グラスさんはその手紙を読んでみましたっ。
―――――――――――――――――――――
命の恩人グラスへ、あの日の事を覚えていらっしゃるでしょうか。このご恩は、いずれ目に見える形で返しますと私は言いました。
今日がその日です。私はあの後生まれた娘のアーダーに、この手紙を託しました。
娘にあなたの事を話したら、いつか会いたいと言ったので、近くにグラスさんの住む山があるこのアルブルタウンで独り立ちするように言ったのでした。
私も娘も、グラスさんの事が今でも大好きです。これからもお身体に気をつけて、多くの人々を守ってあげてください。そして娘もグラスさんに負けず劣らずの素晴らしい人になって欲しいと願って。
―――――――――――――――――――――
「…………わたしは、シビル……シルビアの他にも、
グラスさんの瞳は、涙が溢れていましたっ。
「それじゃあ今からもう一曲踊りますわね!親愛なる命の恩人、グラスに捧げます!」
わたしとグラスさんは隣同士の席で、アーダーさんの踊りを眺めていましたっ。
「あの動きは、何かを意味しているみたいですう」
「動きで物語を表現してるみたいだよっ」
アーダーさんのその動きは、崖から転落して絶望していた所に、大きな翼を広げたドラゴンが現れ、底知れない優しさで救い出し、新しい生命を繋げた様子を見せていましたっ。わたしも終始その動きの虜になっていましたっ。
わあああああああああ!!!!!!
パチパチパチパチパチパチパチパチ……
ダンスが終わると、お客さんはアーダーさんをスタンディングオベーションで讃えましたっ。
「皆様、ありがとうございましたーーー!」
「何だかすごい人と知り合いになっちゃいましたっ」
「これからも、人助けを頑張ってみせますう」
* * * * * * *
後日、わたしは山菜集めの依頼を受けましたっ。
「あの山で山菜を採ればいいのねっ……ってっ、アーダーさんっ!?」
「ワタクシも、同じ依頼を受けましたの。グレィスさん、よろしくお願いいたします」
「そういえば父が登山家と言ってたような……と、ともかく、よろしくお願いしますっ!」
「世界のどこへ行っても、ここはワタクシのステージなのですわー!」
アーダーさんは踊りだけでなく、冒険の才能もそれなりにありましたっ。おかげでこの日のお仕事は踊るようにとてもスムーズに終わりましたっ。
グラスさんに会うためにアルブルタウンに引っ越して来たアーダーさんっ。彼女はこれからわたし達に何を見せてくれるのでしょうかっ。
今、アルブルタウンは彼女の踊りに夢中ですっ!
第18話へ続く。
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