第15話 ぼくのチカラの事

 ぼくはポース。卵から生まれたばかりの時に、禁忌の存在だからと追われる身だった母リュミエールと一緒に海を渡り、グラスさんやグレィスちゃんのいる所にやって来た。その後遅れて父ステルクも泳いでここにやって来た。


 ぼくの両親は向こうでの話によると、母が父との子を生んだら災いを起こす者が生まれるから結ばれてはいけないらしく、その運命に抗い長い逃避行の末に海を隔てたこの場所まで来たんだって。ぼくはグレィスちゃんをはじめ色々な人達と交流して育っていった。


 しかし、グレィスちゃんと冒険ごっこをしたある日、獰猛な野生動物に襲われて身構えたら、グレィスちゃんを襲った方は凍って、ぼくを襲った方は身体の半分が消失した。


 その後冒険ごっこは保護者付き添いの下でする事になり、ぼくとグレィスちゃんは秘められたチカラの使い方を一緒に勉強した。


 ある日、ムソーン君というバード族の少年とグレィスちゃんを巡って決闘する事になった。彼の一撃を振り払おうとしたら、あの時と同じチカラが発動して、一歩間違えたら大変な事になっていた所だった。


 つい先日も、みんなで雪景色の中で冒険ごっこをしていたら、突然の雪崩でとっさにあのチカラを全力で放ち、みんなを守った。けど……。


 ぼくは思いっきりチカラを使ったから意識が朦朧してグラスさんに運ばれ、病院でしばらく休む事になった。


 両親の看病もあり、特に大した問題も無く退院出来た。程なくして母さんはグレィスちゃんとグラスさんをぼくの家に案内した。


 今日は両親が知っている、あの災いの事を話す日だ。これからのぼく達にとって大切な話になる。


 ポースの家。


「おはようございますっ」

「おはようございますう」

「グレィスにグラス、良く来たな。こっちへお上がり」


 グレィスちゃんとグラスさんが父さんに案内されて部屋に入って来た。思えばこの家は最初はあり合わせの材料で作られたけど、グラスさんと仲間達の協力で今は夜の寒さも凌げるいい所になった。それにしても、グレィスちゃんとグラスさんがぼくの家に直接来るのもなんだか珍しい。


「みんな揃っているね」

「お茶とお菓子もありますので、味わいながらでもいいので聞いて下さいね」

「了解ですっ」

「それではお言葉に甘えさせていただきますう」


 グラスさんとグレィスちゃんがお茶菓子を食べている前で、母さんはいよいよ昔から故郷に伝わるあるドラゴンの話をする。


「これから話す事は、伝承として語られている事なので、断片的な所が多い事をご了承ください」

「分かりましたっ」

「いよいよか……ぼくも初めて聞く……」

「それでは、今からお話しましょう……私の生まれた地に伝わる、あるドラゴンの物語を……」


 母さんは、ゆっくりと語り始めた。


   * * * * * * *




 ……今から、数百年ぐらい前のお話です。




 雷のチカラを持つドラゴン族の男性と。


 光のチカラを持つドラゴン族の女性がいた。


 二人は幼い頃から共に過ごす仲だった。


 次第に相思相愛の関係となった。




 こうして、雷と光は結ばれた。


 二人の間には、可愛らしい子供が生まれた。


 白い鱗の、ドラゴン族。




 彼は両親に愛されながら成長した。


 彼が成長して、発現したチカラは……。


 これまでのドラゴン族に、前例の無い。




 『星』のチカラだった。




 初めはそのチカラを上手く使えなかった。


 けれど、少しずつチカラに慣れてきた。


 夜の闇を照らす事も出来るようになった。


 彼は、いつしかみんなの憧れとなった。




 しかし、そのチカラを使えば使うほど。


 その威力はだんだんと強まり。


 必要以上のチカラを引き出して。


 そのチカラに、恐怖を抱く者もいた。




 ある時、住処が悪しき者達に襲われて。


 大切な仲間が囚われてしまった。


 彼はすぐさま奴らを追いかけた。


 そのチカラで大切な仲間を守ろうとして。




 悪しき者の集まる場所に辿り着くと。


 彼は捕まった仲間を助けようとして。


 星のチカラを放ったら……。




 大切な仲間は悪しき者もろとも……。


 放ったチカラの巻き添えとなった。




 彼はなげいた。き叫んだ。


 彼はそのチカラで、身の回りを破壊した。


 家族も、故郷も、消し去った。




 やがて、そのチカラは……。


 彼自身の感情をも呑み込み……。


 村も、町も、川も、森も、山も。


 深淵に呑み込まれたように消えていった。




 「彼」はその後どうなったか。


 知る者はもういない。




 生き延びた人達は、住処を作り直し。


 星のチカラのドラゴンを禁忌の存在として。


 二度と生み出す事が無いようにと誓った。


   * * * * * * *


「以上が、故郷に伝わる『星竜禍せいりゅうか』の話……」


 ぼくは母さんの話を最後まで聞き、そのドラゴンとぼくを重ねて考えた。


 愛し合う二人の間に生まれた星のドラゴン。


 その星のチカラは、強力すぎた。


 そのチカラで、大切な人をも消し去った。


 怒りと嘆きの中、全てを破壊した。


 そしてそのまま、姿を消した。


「母さん……ぼく……」

「ポース?」


「ぼく、こんな風になりたくないよ……!」


 ぼくはとても悲しんだ。もし彼の仲間が、悪しき人達に囚われなければ、彼は平和な道を歩めたはずなのに……。


「そのお話、わたしにとっても考えさせられますう……チカラの使い方を間違えただけで、周りを滅ぼす者になってしまうなんてえ……」

「グラスさんっ……わたしも、おなじですっ」


 グラスさんとグレィスちゃんも悲しむ中、父さんはこう言った。


「雷と光は結ばれてはならない理由がこれだった。だが俺はどう考えても納得出来なかったから、リュミエールと共に家を抜け出し、ここまで来たんだ」

「今回このお話をしたのは、私達のポースが彼と同じ運命を辿ってほしくないからお話ししたのよ」


 父さんと母さんの言葉に、ぼくはこう返した。




「……ぼく、このチカラで、もっと多くの人を守ってあげたい」 




「ポースくんっ……」


「だから、父さんも母さんも、グラスさんとグレィスちゃんも、ぼくの事を見守っていてね」

「分かっています。これから先もみんなの手でポースの行く道を守ってあげましょう」

「それでね、父さん、母さん。ひとつだけ言っておきたい事がある」

「何だ……」


 ぼくは意を決して言った。


「ぼくが15歳になったら、3人で故郷に戻ろう」


「「ええっ!?!?」」


 驚く両親を前にぼくは続けた。


「ぼくは、人を、種族を守るドラゴンになるんだって、約束する。もう、あんな古い伝承に苦しまなくてもいいように」


「……分かったわ……その時は私達も腹を決めましょう」

「俺も、いつかはあの場所に帰らなくてはならないと思っていたからな」

「その時は、わたしたちも手伝いますう。人助けに、生まれも処遇も関係無いですう」

「それでこそ、氷竜の子グラスですっ!わたしグレィスも一生懸命ポースを支えてあげますっ!」


 両親とグラスさんとグレィスちゃんの言葉に、ぼくはココロの炎が強く燃え上がるのを感じた。


「ぼくが、あんな伝説を……星竜禍を、打ち砕いてみせる……ぼくがここで教わった方法で!」


 こうしてぼく達は、『来たるべき日』に向けての準備を始めたのだった。あと二年と数カ月の間に、ぼくの持つ星のチカラを安定させて、グラスさんをはじめこの地に住む種族達のように、ぼくの持っている唯一のチカラで、この世界を守ってみせるんだ……!


 その日以来、ぼくは星のチカラを使う事をためらうよりも、より安全に、人を守れるようにそのチカラのちゃんと使う事によって使い方を勉強するようになった。


 こうして、ぼくのやりたい事が決まった。過去の忌々しい伝承を超えて、ぼくが新しい伝承を作るんだ。


 第16話へ続く。

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