第3話 運命のチカラ
……ぼくとお母さんがこの場所にやって来て、5年の歳月が流れた。
「おはよう、母さん、父さん」
「ポース、早起きなのね」
「少しずつ、立派に育っているのが分かるぞ」
ぼくの名前はポース・ホープスター、5歳。グラスさんが住んでいる所から少し離れた山の洞窟に、お母さんのリュミエールと、お父さんのステルクと一緒に暮らしている。
「父さんも母さんも、元気いいね」
「こうして三人揃って暮らせるなんて夢みたいね」
「ああ、あの時は意地でも二人の所へ行きたかったからな……」
ぼくとお母さんは、ぼくが生まれた日にお父さんと離ればなれになって、海を飛んで渡ってグラスさん達の住む所にやって来て、しばらく赤ちゃんだった頃のぼくと二人で過ごしていた。何故、お父さんが今ここにいるのかというと……。
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「リュミエール、ポース、待っていてくれ……!」
俺、ステルクは追っ手を撒いたあの後、リュミエールが飛んだ方向に向かって、海を泳いで行く事にしたんだ。これならドラゴンは飛ぶものと思い込んでいる奴らの裏をかく事が出来る。
「生の魚は趣味じゃないんでな!」
ビリビリッ!
泳ぎながら、捕まえた魚に電気を流して食べて元気を補充しながら泳いでいると、陸地らしきものが見えてきた。
「やった……陸地だ……!」
ふと振り向くと、後ろから一匹のサメが迫って来ているのに気が付いた。だがこの時もう奴に抵抗するチカラは残っていなかった。
「ここに来てサメに喰われるとは……運命とは意地悪だ……!」
もはや万事休すかと思った。
ザパアッ!!!
だが……。
「……俺を、押して泳いでいる……!?」
なんとサメは俺を噛まずに押して浜辺まで運んでくれた。その先には双子のマリーン族がいた。
「あら、今日はドラゴン族の男の人が海を泳いでやって来たね!」
「サメさん、彼をここまで運んでくれたのですね」
「……おい!ここに子供を連れたドラゴン族は来てないか!俺はアイツの夫なんだ!」
彼女達からリュミエールとポースの行方を聞くと、その方向に向かった。そこには、リュミエールとポースの住んでいる姿が確かにあった……俺は迷わずに向かった。
「ここか……リュミエールが住んでいる所は……!」
「あ、あなたは……まさかっ!!!」
「ピィイイ!?」
こうして俺は、妻と子供に会う事が出来た。
「ああ、俺だ……ステルク・ホープスターだ……!」
「ステルク……まさかここに来るなんて……うれしい……!」
「どうしても会いたかった……リュミエールと、俺の子……ポースに……!」
「じ、実は私もその名前を付けてたの……うれしい……うれしい……!!!」
「ああ……これからは家族三人、ずっと一緒だ……!」
こうして、俺達家族はこの地で暮らす事になった。それに伴いかつての姓は捨ててホープスターを名乗る事にした。これからはここにいる希望の子ポースを、立派な大人に育てる事が俺達の目的だ。
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……と言う事なんだ。父さん、泳いでここまで来るなんてすごい……優しい母さんとたくましい父さんがいて、ぼくは幸せだ。
ホープスターという苗字も、移住を機に付けたんだって。この世界の希望の星になれるようにと願って付けたみたいだよ。
「ポース、今日はあの子と遊ぶ約束があるんだろ!」
「はい、グレィスちゃんと冒険ごっこに行くんだ」
「今日は私が運びますね、ステルク、今日も生活のためのお仕事よろしくね」
「ああ、任せておけ!」
バサアッ!バサアッ!
父さんはお仕事に、母さんはぼくを抱えてアルブル村へと飛んでいった。
・・・
アルブル村、ブレイバル家。
「おはよう、リュミエール」
「おはようございます、シルビアさん」
「あっ、来たっ」
グレィスちゃんの母のシルビアさんに挨拶するぼくの母さん。ぼくはシルビアさんの脚の後ろからぼくを覗き込んでいるグレィスちゃんに挨拶した。今日はグレィスちゃんと冒険ごっこに行く約束だ。
「おはよう、グレィスちゃん」
「おはようっ、ポー君っ」
「ポー君って……でもなんか慣れて来たかも……それで、グラスさんは今日いる?」
「今日グラスさんは遠い所にお仕事行ってるんだけどっ、二人でも冒険ごっこを楽しもうねっ」
「分かった」
ポー君とはグレィスちゃんが呼んでいる名前。まだ赤ちゃんだった頃のぼくが言った言葉から来ているみたい。出会ってから5年間ずっとそう言われている。グラスさんは仕事が休みの日にぼくとグレィスちゃんと遊んでくれる事もある。まあこんな感じにいつも通りの挨拶を交わした後、グレィスちゃんが行きたい所を言う。
「今日はあの森にある大きな切り株を目指して歩くよっ、付いて来てっ!」
「う、うん……」
ぼくはグレィスちゃんと手をつなぐと、ぐいぐいと引っ張られるように森の中へと入っていった。
「いってきまーすっ!」
「気をつけるのよ」
ぼくとグレィスちゃんが森へ行ったその後ろでは、ぼくの母さんとシルビアさんが井戸端会議をしていた。
「グレィスちゃん、とても活発な子なのね」
「ああ。私と、冒険好きなエイリークの娘だ」
「エイリークさんとは、どのように出会いましたか」
「……私は4歳の時に家族と故郷を悪い奴に滅ぼされて逃げ出して、森の中で生き抜くために二年間も一人でいた。だがそんな時に氷のドラゴンのグラスが目の前に現れて、私を保護してくれたんだ」
「そうだったの……」
「グラスはあの時自分を『俺』と呼んでいた私に『シビル』という名を与えて、食糧集めなどの手伝いをする代わりに一緒に暮らす事になった」
「グラスさんは昔から優しかったのね」
「それで、この村で出会ったエイリークとの冒険ごっこに付き合っていたら、いつのまにか二人は結ばれ、気が付いたら私はグレィスを産んだんだ」
「幼い頃辛い思いをしていたあなたが、グラスに救われて今ここにグレィスがいるのですね……」
「グレィスは父やグラスの影響で、5歳から冒険ごっこをするようになったんだ」
「あの子はきっと勇敢な娘さんに育つ事でしょうね」
「ああ、最高のドラゴングラスといい、私だって良い出会いに恵まれたよ」
「グラスさん……氷のチカラの優しいドラゴン……ポースも将来はあのようになって欲しいです」
・・・
森の中を進むぼくとグレィス。グレィスの父のエイリークさんも歩いた事があるという道を歩きながらグレィスちゃんは色々なものを拾っている。
「あっ!キノコみーつけっ!」
「それ、食べても大丈夫?」
「お父さんの持ってる図鑑では美味しいキノコって書いてあったよっ」
「物知りなんだね」
その他にも、丈夫そうな木の枝や形の良い石などを拾っていくと、今日の目的地だという切り株に辿り着いた。
「今日の冒険、成功っ!」
「それいつも言ってるね」
「後は辺りを見回して何かがあったらそこを次の冒険の目的地にするのっ」
「とりあえず、お弁当食べよう」
ぼくとグレィスは切り株に座ると、リュックからお弁当箱とおしぼりを取り出した。
「食べる前にはちゃんと手をきれいにしないとねっ」
「うん」
おしぼりで手をきれいにした後、お弁当箱のふたを開けて食事にした。
「今日のお弁当も美味しいねっ」
「うん、いつもグレィスちゃんの母さんが作っているんだよね」
「そうだよっ、ポー君のお弁当も美味しそうだよっ」
「あ、ありがとう」
お弁当を食べ終えると、グレィスちゃんは立ち上がって向こうを見た。
「さーてっ、わたしのお父さんならこう言うかなっ」
「な、なんて……?」
「明日の目的地はあの岩だっ!てねっ」
すると……!
ガルルルルルルル……!
突然、茂みから獰猛な野生動物が二匹も現れた……!
「うそっ……ここにはっ、危険な動物はっ、あんまりいないハズなのにっ……!」
「どうしよう……足が動かない……ひいっ!」
まるでその場で見えない紐に足を縛られたように動けなくなるぼくとグレィスちゃん……!
グアアアアアアアアアアッ!!!!!!
二匹の野生動物は慈悲など知らぬかのように、ぼくとグレィスちゃんに襲いかかった……!!!
「キャーーーーーーーーッ!!」
「わあーーーーーーーーー!!」
ぼくとグレィスちゃんは襲ってきた獣にこっちに来ないでくれと言わんばかりに、両手を突き出した……!!!
すると。
シュピャキィィイイイン!!!!!!
シュヴォワアアアアアッ!!!!!!
気が付くと、ぼくとグレィスちゃんは二人とも無傷だった。目の前には、異様な状態となった野生動物の死骸が横たわっていた。
「えっ……これなにっ……?」
「片方は凍ってて……もう片方は体が半分無くなってる……!」
グレィスちゃんを襲った野生動物は、身体の芯から冷やされたかのような氷像となっていた。一方でぼくを襲った野生動物は、身体の上半分が日食に飲み込まれたかのように消失していた。
「……とにかくっ、早く帰ろうっ!」
「うん……!」
ぼくとグレィスちゃんはアルブル村に帰って来ると、すぐに母さんとシルビアさんに今日の事を話した。
「お帰りグレィス……どうしたの?」
「あのっ!さっき二匹の怖い動物に襲われたらっ!片方は凍ってっ、もう片方は半分無くなっちゃったのっ!」
「グレィス……そのチカラって、あのグラスのモノだよな……!」
「ポース……まさか、もう光のチカラを使えるとでも言うの……!?」
「お願い、母さんも見に来て……!」
母さんとシルビアさんも、凍った死骸と半分残った死骸を見て、疑念は確信に変わった。シルビアさんは母さんにこう提案する。
「グレィス、明日グリューヴルムさんに診てもらおう!ポース君も、グレィスと一緒にこの村の研究者に見せてもらってもいいか?」
「ええ……!」
・・・
次の日、ぼくとグレィスちゃんは、蛍のインセクト族のグリューヴルムさんが院長を務めるアルブル病院で身体を調べさせられた。
皮膚とか血液とか、髪の毛とか爪とかを採取されて、その成分などを分析される。
・・・
院長であり、グラスさんの話によるとかつて竜毒のワクチンを作ったというグリューヴルムさんがシルビアさんにこう言う。
「シルビアさん〜まずは落ち着いて聞いてくれるかな〜」
「何だ……」
「グレィスちゃんの身体を解析したら、グラスさんのモノに近い成分が検出されたんだよお〜〜〜!」
「何だって……!」
「まさかあの時投与したワクチンの影響を受けて……いや、他にも何かあったり無かったりして〜〜〜!ああ〜〜〜もっと深く調べたい〜〜〜!!!」
グリューヴルムさんは世紀の大発見をした科学者のように想像以上に取り乱している。
「それで、ポースは、どうなのですか?」
「今はそれどころじゃない〜〜〜フロースさん代わりにお願い〜〜〜!」
「はいですわ〜!」
取り乱すグリューヴルムさんの代わりに、助手のテントウムシのインセクト族のフロースさんが代わりに言う。
「ポース君は、他のドラゴン族には無いすっごいパワーを持ってますわ〜!」
「すっごいパワー……ですか……」
「今はまだそれしか言いようが無いですわ〜でも安心なさって、二人のチカラの秘密はアルブル病院一同が責任を持って研究いたしますわ〜!」
「グレィスちゃんの秘密、もっと知りたいよお〜〜〜!!!」
「大丈夫なのかしら、この方達は……」
こんな調子の病院の人達を前に不安な表情になる母さんに、シルビアさんは言った。
「新入りはともかく、ここの院長のグリューヴルムさんは私の命の恩人だ。なにせ氷竜の毒から病を治す薬を初めて作ったんだからね」
「……今は、皆さんの事を信じてもいいのですね……」
「ああ……!」
それから数日後、グラスさん立ち会いのもとでグリューヴルムさんの調べによると、他にも竜毒のワクチンを投与した人から産まれた子供にはグレィスちゃんのような特徴は無かった。さらなる調べでこのチカラを得た理由が明かされたみたいだけど、ぼくはまだ聞かされていない。いつか語る時が来るのだろうか。
一方でぼくの持つこのチカラは、これまでのドラゴン族の常識では測れない未知のパワーを持っている事が分かったけど、それ以上の事は現時点ではまだ解明されていない。
……ふとぼくの白い尻尾の先を軽く触ると、トゲのようなものが生えかけていた。もしかして、ぼくは他のドラゴン族よりも早く成長しているのだろうか……。
……あの日からしばらくして、ぼくとグレィスの冒険ごっこは、必ず大人の人が立ち会って行うようになり、母さんやシルビアさん、そしてグラスさんはその秘められたチカラを正しく使うための指導をぼく達にするのだった。
* * * * * * *
それからさらに7年が経過して、人口の増えたアルブル村は『アルブルタウン』と改称されて、ぼくは12歳に、グレィスちゃんは14歳になっていた。
第4話へ続く。
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