第17話

 夏祭り当日。地元から少し離れた所で開催されている花火大会に行くことになっていた。待ち合わせ場所へと予定していた時間の20分も前に辿り着いてしまい、俺はずっとソワソワしていた。


 流されるままに決まってしまった3人での夏祭り。思い返せばいつぶりだろうか。小学生の頃は毎年毎年3人で訪れていた。


 そんな昔の思い出に浸りながら待つこと20分………待ち合わせ場所には未だにどちらも来ていなかった。もしかして場所を間違えたのかと思って再度確認しようとすると、同じタイミングで2人から別々に連絡がきた。



『ごめん!ちょっと遅れる!後で合流するから先にセナと遊んどいて!』


『浴衣着るのに手間取った。少し遅れるからアカネをかまってあげてて』


「………マジかよ」


 2人揃って遅れるとの連絡だった。茜の方の真偽はともかくとして、俺は先に瀬波に返信することにした。


『その茜も来てないんだが』


『は?なんで?』


『あっちも遅れてるって』


『マジか』


 そんな連絡を交わした3分後に浴衣姿の瀬波は待ち合わせ場所へと現れた。


「うわホントに1人だし……」


「もう待ち合わせ時間は過ぎてるんですけど優等生さん」


「………悪かったよ。まさかアカネが遅れるなんて思わなかった」


 瀬波の言う通り茜がこういった行事に遅れるなんて今までではあり得なかった。俺がくる道中も混んでいたし仕方のない話ではあるが……


「……なんだよ。似合ってないってか?」


 俺の対面に立っている瀬波の浴衣姿に思わず目を奪われてしまっていた。青白く、どことなく清楚感のある浴衣。今の瀬波のイメージに合っている。それでいて長くしている髪は昔のようにポニーテールにしてある。こうしてマジマジと見るとちゃんと美人だ。口は悪いが。


「怒らないで聞いて欲しい」


「善処はしてやる」


「俺が隣に居て良いのかなって思うくらいには似合ってるよ」


「…は……………ぁ………やっと、気づいたのかよ。おぅ。おっそ。ありがたく思えよ」


「いつも感謝してます」


「っ……キモ」


 いつものように罵倒してくるがいつもよりキレがない。俺としてはもっと偉そうにふんぞり返られると思ったのに。まさか照れてる?いや瀬波に限ってそんな……


「……マジでこっち見んな。キモい」


「…………うっす」


 夏祭りの空気に当てられたせいか俺達の間に気まずい空気が流れ、瀬波は俺の方に背を向けて目を合わせてくれなくなった。


「ふったりっとも~!」


 言葉選びを間違ったことを後悔していると、浮かれに浮かれている茜がやってきてくれた。俺はようやくこの空気から解放されると安堵し、茜の元気な声に応えた。


「珍しいな。茜が遅れるなんて」


「いやーちょっとね!ごめん!」


「……ほらとっとと行くよ」


「……………ねえ慎司。言うことなーい?」


「言うこと?」


 そっぽを向き続けている瀬波が歩きだそうとすると、茜が俺と瀬波の間に割り込んできてそう尋ねてきた。瀬波と同じく浴衣姿で、明るいオレンジ色。そんな茜は俺の前でヒラヒラと浴衣を揺らしている。なんとなく言われたいのだろう言葉を察した俺は茜にもちゃんと伝えることにした。


「………似合ってる」


「えへっ……えへへ………ありがと!」


「はぁ………」


 俺と茜のやり取りを聞いた瀬波は溜め息をつき、我先にと人混みに向けて歩きだした。俺達も置いていかれないようにと着いていくことにしたのだった。


 花火までは時間もあり、予定では食べ物でも食べながらのんびりすることになっていたはずだったのたが、茜が「行きたいところがある!」と半ば強引に俺と瀬波をある場所へと案内した。


「じゃっじゃーん!お化け屋敷~!」


 辿り着いたのは読んで字の如くただのお化け屋敷。確かに茜が好きそうな場所ではある。しかしそれとは真逆の人物が俺の隣に1人いる。


「やだ。行かない。入らない。2人で行け」


 着ている浴衣の色と同じくらい顔が青ざめている瀬波は首を横にふりながら全力で拒否していた。瀬波は昔から怖いもの……特にお化けが大の苦手なのだ。けれどこの反応こそ茜が欲しかったもののようで、茜は目を輝かせながら逃げようとしていた瀬波の腕を掴んだ。


「折角3人で来たんだし~。ほら慎司もいるからさ~」


「やっ…だ!絶対にっ……!」


「…おい茜。あんま無茶させると帰られるぞ」


「………それは私もやだなぁ。でもでも、瀬波を1人には出来ないし、お化け屋敷の人も怖がってくれる人がいた方が楽しいって!」


「知るか!私は楽しくない!」


「うぇぇ……慎司ぃ………」


「…………はいはい」


 どうしても3人で行きたいのか俺に助けを求めてくる茜と、それとはまた別の意味で俺に視線を送ってくる瀬波。俺はとりあえず2人の間に割り込み、両者の納得いくような提案をすることにした。


「まずスタッフさんに確認して途中で帰れるか聞く。もし無かったらその時点で駄目だ。んで、あるようなら瀬波が行けるとこまで行ってみる。とりあえず茜はそれで良いか?」


「…………仕方ないか」


「ちょっと慎司!私はそもそも入りたくないって言って――」


「瀬波はもし怖かったら俺を殴ったり叩いたりして貰っていい。なんなら茜もだ」


「え、いや、私は殴っちゃダメだよ!?」


「…………なるほど。それは良いかも。日頃の恨みを返せるチャンスってわけだ」


「殴られるのが嫌ならこの話は無しだぞ?」


「うぐぐ……!」


 俺からの提案に瀬波は拳をゴキゴキと鳴らして既に臨戦態勢を取っていた。茜は瀬波からの暴力と瀬波が泣きわめく様を見れることを苦い顔で天秤にかけた。


「……っ…分かったよぉ。でも出来るだけ慎司を盾にさせてもらうからね!」


「好きにしろ。瀬波もそれで良いか?」


「そこまで慎司が言うなら付き合ってやるよ」


「よしきた。そんじゃ行くか」


 というわけで俺達はまずスタッフさんに確認を取り、途中で抜けれる道があるのを確認した上でお化け屋敷へと足を踏み入れてしまうのだった。

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