03 イイオトコとは?
景虎は叫び、暴れた。
取り立ててファッションにこだわりがあるわけではないし、スーツにイヤな思い出があるわけでもない。だが……。
「こんなところにあるスーツを着るのは、俺たちみたいなオタクくんを鼻で笑う邪悪な奴らだけでござる! そんな服を着るのはイヤでござる! それがしのような硬派なオタクの着るモノではござらん!」
偏見と先入観だけの言葉を叫ぶ。あからさまに冗談の口調だったが……かなり、イヤだった。イヤイヤ着させられた、という態でなく着てしまったら俺の自我が……と、不安になる。だがそんな内心を知ってか知らずか、エリスは笑った。
「黒髪ツインテ眼鏡委員長系の薄い本ばっか買いあさってる、あんたのどこが硬派だっての! オタクに優しいギャルもいるんだから、イタリアンスタイルのたっかいセレブスーツ着るオタクだっているの! ほら行くよ!」
「いないでござる! 絶対にいないでござる! エロマンガの読み過ぎでござる! っていうかそんなヤツいたらイヤでござる! 数百万のスーツ着て即売会に行くなんて葬式にアヘ顔Tシャツで参列するようなものでござる~!」
「砂漠はスーツの方がいいって言うじゃん? それに私しか見てないんだしさ。っていうかアンタさっき私のイイオンナ姿見たでしょ? 縦セタ乳袋ガン見料としてあんたもたっかいスーツ着て見せなさいよほら」
「みっっっっ!? 見てないっ! 見てないぞ! ガッ、ガン、見、なんてしてないッッ!」
「あー、見てたんだやっぱりー、幻滅ー、あんた私のことそういう目でしか見てないんだー」
「なっ、あっ、おまっ」
「はいはい怖くないですよ~、行きましょうね~痛かったら手をあげてくださいね~」
「イヤでござる~~~~~~!」
と、景虎の叫びが無人のヒルズにこだました…………。
……が、現実が突如として狭まり、黒背景の中で景虎の顔だけが円形に切り抜かれて残る、アイリスアウトするようなことはなく、二人は顔を見合わせ笑い、少し落ち着き、エレベーターをてくてく上る。
「マジでイヤだったら別にいいけど……えー……だめ? 見てみたいなー……ほら、制服学ランだったしさー……」
なにやら観念し、注射を我慢する小学三年生じみた顔になっていた景虎を、エレベーターの下から見上げつつ、エリスが言った。
「そ……れは…………オマエ、なんかさ……その……」
上目遣いに景虎を見るエリスの顔は……顔は……。
「えへへ……知ってるだろー、スーツがツボなの、私」
少し照れて笑うエリス。その顔、ときたら……。
「……釣り半ズボンのショタじゃなかったっけ……?」
ふっくらとした頬を、果実のような赤さに染めているエリスの、はにかんだ笑顔は、抵抗しようがなかった。抵抗できない自分を情けないとも思ったけれど。
「それは二次元。あんたも二次元と三次元の趣味は違うでしょ。それに私の場合は、二次元でもスーツはツボだもん、ショタに限らず」
「…………そういうこと……なのか?」
「………………はい……?」
と、要領を得ない返事にエリスが怪訝な顔をするが……。
しかし、景虎は不思議になった。
そうなると、この先スーツを着ることになるイヤさも、目の前のエリスの愛らしすぎる顔もすべてが遠くなって……疑問の雲にまとわりつかれ、それを晴らす以外、考えられなくなってしまう。この性格のせいで大分損をしていると自分でも思うが、仕方がない。気になるものは気になるのだ。
二次元の好みは、三次元にも共通するのか?
エリスの言葉通り……たしかに自分は、黒髪ロングツインテ眼鏡清楚委員長、もしくはお嬢様、系のキャラが出てくる本ばかり買っているし、アニメばっか見ているし、ゲームでそんなキャラが出てきたら同人誌を探すし、そんなVtuberの配信もかなり見る。好きだから。だが……それはすべて、二次元の話だ。Vtuberが二次元かどうかはさておき、触れられないことには変わりない。
三次元の女性アイドルや配信者にはあまり興味がないし、女性声優にガチ恋できるほど
「……わからんな。ちょっとエリス、オマエ、ツインテールにして語尾にですわ、ってつけてみてくれ」
「……ハァ? とうとう、マジ、気ぃ、狂った?」
「いや、なんつうか、たとえば…………たとえばさ、オマエ、目の前に、二次元通りのオマエの理想のキャラがいたら、三次元に実在してたら、どう思う? 嬉しいか? 吊りズボン美ショタがソックスガーターつけておかっぱ頭をつやっつやに光らせて、小生意気なこと言ってたら」
「…………そ……れは……」
と、そこまで聞かれるとエリスも、考え込んでしまう。
……たしかに自分は、おかっぱの真面目系か元気系のショタが酷い目に遭う本か、ドSのスーツ男の本ばかり読んでいるが……それらはすべて、二次元の話だ。仮に……仮に、そんな男たちが、三次元にあらわれたとしたら? 男女で絡まれても別に萌えない、しかも矢印を自分に向けられても困る、というツッコミを、置いておくとしたら……。
「…………そりゃ、嬉しくはなると思うけど……なんだろ……そう思うのは……言っちゃうのは……なんか、さ、二次元に悪い気がする。三次元で実際に犯罪したら悪いこと、っていうのは、当然あった上でだけど……」
エリスは首をひねりながら、唇をとがらせつつ続ける。
「だってそうしたら……なんか、ほんとに、現実逃避のためだけのもの、ってなっちゃうじゃん、二次元が。現実生活が満たされてない負け組だからオタク趣味に逃避してる、って昭和の老害が言ってそうなこと、まんまな感じ」
「そうだよな……でも……」
「…………でも?」
「……わかんねえよな、そんなこと、現実には出てこないわけだし、二次元は。オタクに優しいギャルはサンタクロースみてえなもんだし、やったか? って言ってて倒せてる場合だってある」
「まあ、ねぇ……?」
「怪獣も異能も現実にはないし……現実のおかっぱ頭のショタは金持ちの息子のイヤなクソガキだろうし」
「現実の眼鏡委員長だって体毛ぼーぼーで読んでるのTLかBLのなんかだよ」
「俺たちの偏見と先入観と差別意識を合わせればきっと、世界が平和になっても再び戦乱をもたらせるな……じゃあエリス、ちょっとツインテと二つくくりの中間ぐらいの髪にして儚げな雰囲気をまとって放課後の図書室で夕暮れに染まりながら地下の国のアリスを読んでみてくれ」
「なんなのその童貞妄想全部盛りみたいなの」
「実験だよ実験。実際に二次元の好みが、三次元にあらわれたらどうなるのか、ちょっと気にならないか? そしたら俺は吊り半ズボンだってスリーピーススーツだってなんだって着てやるよ!」
「吊り半ズボンあんたが着たら近所の名物おじさんになっちゃうよ、もー」
くすくす笑いながら、しかし、エリスは言った。
「じゃあいいよ、お互いにさ、お互いの、二次元的な理想の格好、してみようよ、それで休日中過ごしてみよっか、途中でギブはナシだよ」
「おもしれえ! 俺はじゃあ……一人称、ボク、とかにした方がいいか? なんかこう、カタカナの感じの」
「あはは、じゃあ私は、
「いやそこまでいくと……なんかこう、プレイ感が出るな……」
「あは、コスプレでしょこんなの」
「コスチューム……プレイ!」
生まれて初めてその略語の本当の意味を知った、とばかりに景虎が叫ぶと、エリスもそれに気付き、顔を見合わせて笑った。
※※※※※※※※※※※※
Vtuberは二次元なのか、三次元なのか、はたまた2.5次元なのか。説をお持ちの方はゼヒ感想にてご教授ください。
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