第4話

「ふう、変な人扱いされちゃったね。」

 太陽が光り輝く下で走り続けたせいか、ぼくは汗をかいた。ツーと汗が身体を通っていくのが少し気持ち悪い。ぼくが息切れをしているのに、彼は平然としていた。体育は苦手だったと言っていたのに、走るのは速い。かっこよくて細身で走るのが速い。彼はぼくにないものをたくさん持っている。だからって彼を恨めしく思ったことはない。ぼくの誇りは彼だ。

「疲れたし、あそこの喫茶店にでも入ろうか。」

 予定していたわけではないけれど、すぐそこに喫茶店を見つけたので、彼にそう聞いてみる。彼はたくさん首を縦に振る。汗をかいていないだけで、実はかなり疲れているのかもしれない。そう考えると、なんだか彼が可愛く思えた。

 二人で並んで歩いて、喫茶店の中に入る。カランカランと可愛らしい音がした。

「いらっしゃいませ。お好きな席にお座りください。」

 エプロンを身に着けた店員さんがぼくらを見ても足を止めず、すれ違いざまにそう言った。お客さんはあまりいないけれど、店員さんは見るかぎり二人しかいなさそうだから、やることが多いのかもしれない。

 ぼくらは窓際の一番端の席に座った。本当はもっと奥の方に座りたかったけれど、なぜかそこに人が集中していたから、そこから離れたここに座ることにした。立てかけられたメニュー表を取って、飲み物のページを開いた。

「わ、クリームソーダがあるよ。なににする?あ、オリジナルブレンドのコーヒーもあるらしいよ。それにする?」

 彼はなにも言わずに静かに頷いた。

 彼は甘いものが苦手だ。反対にぼくは、甘いものが好きだ。辛いものはお互い得意じゃない。彼は渋みがあるコーヒーが好きで、ぼくはたくさんミルクとシュガーを入れないと、コーヒーを飲めない。

 似ているところより、似ていないところの方がきっと多い。けれど、それがぼくららしくて、嫌いじゃない。

「あの、オリジナルブレンドのコーヒーとクリームソーダを一つずつお願いします。」

 さっきの店員さんを呼び止めて注文を伝えると、彼女は少し不思議そうに首を傾げてから、「オリジナルのコーヒーとクリームソーダでよろしいですか?」と繰り返した。ぼくは迷うことなく首を縦に振る。彼も真似をした。

「分かりました。お待ちください。」

 店員さんが離れていく様子を確認して、ぼくは彼に聞いた。

「食べ物も頼みたかった?」

 彼は小さく首を横に振る。よかった、ぼくと同じで喉は乾いてもお腹は空いていないらしい。そう考えていると、今日、ぼくはなにも口にしていないことを思い出した。彼はなにか食べたのだろうか。そういえば、最近、なにかを口にしているところも見ていない。彼の体になにかあったらどうしよう。すごく不安になる。彼がいなくなったら、ぼくは、きっとダメになる。おかしくなるだろう。

「お待たせしました。オリジナルブレンドのコーヒーとクリームソーダです。」

「ありがとうございます。」

 店員さんはなぜか、ぼくの前に二つの飲み物を並べる。

 どうしてだろう、と思いながら、小さなカップを彼の前に置いた。

 ぼくがストローをグラスの中に入れた瞬間、カランカランと音が店内の小さなBGMをかき消した。

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