第2話
大嫌いなスマホの音で身体を起こした。うるさく鳴り響く音にうんざりしながら、誰もいない部屋を見渡す。
眠りにつくまでそこにいたはずの大好きな彼の匂いと温もりが消えていることに気が付いて、胸がぎゅっと苦しくなる。
スマホが震えることを辞めた後、彼は笑って出てきた。そうだ、そうか。彼はこの音が大嫌いなんだった。だからこの音が鳴る前に起きて、鳴る時には寝室から出て行ってしまう。それじゃあ、目覚ましの意味がないよ、と笑ったことがある。
「今日はお散歩日和だね。一緒に出かけようよ。」
彼はにっこりと口角を上げて頷いた。
元々無口だった彼は数か月前から全く喋らなくなった。寂しくはなったけれど、別にそれでもよかった。彼がそこにいるだけで、ぼくは充分だった。本当に仲のいい人達の間に、会話など必要はない。今は表情だけで彼がなにを思っているのか分かる。ぼくらの仲だ。それぐらい簡単に分かる。
「お揃いコーデにしよう。」
彼が嬉しそうに微笑んだ。切れ長の目が柔らかい雰囲気に細くなって、薄くて綺麗な唇が上へと行く。その表情はとても綺麗で儚くて、ぼくは大好きだ。
一年前、ぼくらは一緒に暮らし始めた。彼の提案だった。「結婚はできないけれど、一緒に暮らすことはできる。」とぼくを抱き締めながらそう言った彼はとても温かかった。
ぼくらの稼ぎだと、都心では小さな部屋にしか住むことができない。だから、ぼくらは田舎に出た。それまで勤めていた会社も辞めて、一緒に転職活動をして、新しい会社をそれぞれ見つけた。とても幸せだと思った。ボロボロになっていたこの家を二人だけでリフォームした時は、こういうことが幸せなのだと理解した。
なにも言わず、彼を見つめている。それだけでぼくはこんなにも安心できる。
「ぼくが選んでもいい?」
彼は小さく頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます