第201話 同期

 派手な一年目のシーズンを送っている中浜である。

 だがそれがあまり注目されないのは、昇馬がさらにド派手なことをしているからだ。

 普通ならばこれでも充分に、新人王の候補となるだろう。

 一年目から二桁のホームランを打つというのは、大変なことなのだ。

 しかも出場した試合は、半分を下回っている。


 この中浜のシーズン後半からの活躍に、北海道のファンには脳を焼かれているものもいる。

 だが昇馬がいるおかげで、極端な注目が集まったりはしない。

 あくまでも北海道の中では、大きな存在となっているのみ。

 ただ昇馬とある程度対戦出来る力は、他のチームを見回しても、それほどいないものなのだ。

 福岡との対決で、先に一勝されていながら、逆転した下剋上。

 中浜の一発は、北海道に希望を与えている。


 中浜という人間は、実は相当に冷めた人間でもある。

 あの坂本が目を付けたのであるから、単純に才能がある、というわけではないのだ。

 彼は正確に言うと、アメリカ国籍を持っている人間である。

 だが日本の高校を出たために、日本人選手として出場している。

 このあたりけっこう、間違っている人間は多い。

 日本国籍でなくても、日本の高校や大学を卒業していると、日本人扱いの外国人枠にはならないのだ。


 長い手足を使って、外角を打っていくパワー。

 ピッチャーとして注目されていたはずが、バッターとして開花。

 もっとも本人はあまり、どちらかにこだわってなどいない。

 ただメジャーに行くのならば、やはりピッチャーの方が、とは思っている。

 2mの長身というのは、なかなかもてあます人間が多い。

 昇馬のようにほぼ2mの人間が、普通に敏捷に動けているのは、かなりおかしなことなのだ。

 まあバスケットボールの選手だと、2mでもまだ小さい、などと言われたりするが。


 そんな中浜は分かっている。

 昇馬と対戦して、勝てるわけがないと。

 高校時代の昇馬は、何か試行錯誤しながら、ピッチングを行っていた。

 それでもほとんどヒットを打たれず、公式戦では無失点。

 さっさとメジャーに行ってしまえ、と考えている中浜である。

 彼自身もメジャーに行くつもりだが、メジャーなら多くても、年間に同じチームとは19試合しか戦わない。

 またトレードの移籍がものすごく多いので、今ほどの脅威にはならないのだ。


 スポーツを好きだからやっているわけではない。

 成功するためにやっているので、冷静に考えることが出来る。

 しかしこれが興業で、つまり見世物だというものも分かっている。

 どうやって負けるかも、重要になってくるのだ。


 あれは人間ではない。

 一般人から見たらプロ野球選手などは、野球星人にしか見えないように。

 フィジカルなどのレベルが、一段階は間違いなく違う。

 もっともあらゆる準備を行い、あらゆる条件が整えば、ある程度は勝つこともある。

 高校時代もそうだし、プロでも一敗している。

 そもそもピッチャーは一点は取ってもらわないと、試合に勝つことは出来ないのだ。

 だが直史などと違って、昇馬は極端な話、自力でも点を取れる。


 ピッチャーで40試合以上も出ていたのに、40本のホームランを打っている。

 100打点以上を記録しているという時点で、完全に異常な数字だ。

 野球というスポーツにおいて、史上最大の外れ値。

 これと同時代に生きた選手は、確かに不運ではあるのだろう。

 ただ見物する分には、むしろ幸運なのであろうが。




 ファイナルステージまでの数日間。

 この間に上手く、士気を保たなければいけない。

 北海道側からしてみると、昇馬をどうやって打てばいいのか。

 一応は今年、一度は負けているし、一度は勝ちがつかなかった。

 だから可能性としては0ではないのである。


 左の昇馬はともかく、右の昇馬ならばまだ、どうにかなるだろうか。

 確かにヒットも失点も、右の方が多いのは確かだ。

 だが最初からあるアドバンテージで、左右を使えば三試合には投げられるだろう。

「一応は疲労が蓄積していたのは確かです」

 データマンはそう言うが、果たして本当だろうか。


 昇馬の最速は169km/hで、これはオールスターにおいて記録された。

 だが通常の公式戦では、167km/hまでしか出ていない。

 また終盤に入ってくると、その167km/hもあまり出なくなってきていた。

 一年目の新人が、疲労してきたと考えてもおかしくない。

 ただこの休みの期間の間に、どれだけ回復しているか、というところも考えないといけない。


 練習は大切だが、休養も大切だ。

 その点で昇馬は、明らかに休養が足りていないはずなのだ。

 ピッチャーをやったことのある人間なら、普通に分かることだ。

 両手で投げるからといって、倍を投げられるわけではない。

 ピッチングは確かに、肩肘にかかる負担が大きい。

 だが足腰にかかる負担も大きいのは、ダッシュなどをトレーニングに含めている時点で、分かっているだろう。

 100球投げるというのは、100回短距離のダッシュをするのと同じようなものなのだ。


 半年間のシーズンの疲労を、どうやって抜くのか。

 普通のピッチャーならば、三日ほどかけて抜いていく。

 だが昇馬は中二日で、登板している場合もある。

 ピッチングの球速が少しずつ落ちているのは、そのあたりが原因ではないのか。

 そういう希望的な観測が、存在するのは当たり前である。


 実際のところ、そんなに甘いものではないだろう。

 むしろあれはどの程度の力なら、無理なく試合に勝てるか、と考えてのものではないか。

 実際にシーズンの前半と後半では、投げている頻度が違う。

 短い休養で回復する疲労と、長く休まなければ回復しない疲労がある。

 昇馬の場合はどちらでるのか。

 もっとも疲れていても、167km/hを出してくるのだから、あまり期待しない方がいい。


 北海道は去年、ファーストステージで千葉に負けている。

 今年は福岡を倒して、ファイナルステージまで勝ち進んだ。

 正直なところ、今の戦力ではその程度で、満足しておくべきであろう。

 だが勢いというものは、確かに北海道にあるのだ。

 勝ち方が鮮烈であったがゆえに、北海道ファンは脳を焼かれている。

 だがそういったフラグを折ることに関しては、定評があるのが昇馬であるのだ。




 セ・リーグの方もファーストステージが終了している。

 その結果に関しては、あまり気にしていない昇馬である。

 むしろファイナルステージで、タイタンズを倒してくれるかどうか。

 なにしろ優勝したのはタイタンズであるので、アドバンテージの一勝がある。

 それでタイタンズが勝ち進んできた場合、おそらくジャガースは勝てる。

 正確にはジャガースではなく、昇馬が勝てるのだが。


 ジャガースの分析班も、しっかりとデータを取っている。

 ただ野球はレギュラーシーズンとポストシーズンでは、戦い方が違うのだ。

 それこそ日本の野球が、短期決戦に強いと言われるように。

 もっとも今年の場合、ジャガースは短期決戦も強いだろう。

 昇馬もアルトも、短期決戦で頂点に立って、このプロの世界に入っているのだ。


 北海道を甘く見ているわけではない。

 またタイタンズのことも甘く見ているわけではない。

 だがおおよそ、どちらも見切っているつもりだ。

 ポストシーズン仕様になっても、ちゃんと北海道の試合は見ている。

 タイタンズの試合も、これからちゃんと見ることが出来るだろう。


 三連勝して、日本シリーズに進みたい。

 昇馬が左で投げて、他のピッチャーで勝っておきたい。

 昇馬一人に頼り切りになるのは、チームとしては健全ではない。

 もっともこの一年に限って言えば、健全であろうが不健全であろうが、優勝を狙っているのがジャガース首脳陣である。

 チームの戦力は、今年はまだ整いきっていない。

 あとは二軍にいる若手を、どうやって使っていくのか。


 来年のジャガースはもっと強くなる。

 余裕をもって昇馬に、記録を目指すことを許せる。

 そもそも昇馬自身が、さらに強くなっていくであろう。

 それが分かっているのは、チームの中でもごく一部の人間だけ。

 アルトであったり、バッテリーを組んでいる岡崎だ。


 果たして今年は、ジャガースは日本一になれるのか。

 交流戦の結果などから判断すれば、充分に可能であろう。

 だが本気になった父たちが、どれぐらいの力を出してくるのか。

 大介はポストシーズン、OPSが完全に2を超える。

 もっとも司朗なども、勝負強いのは確かであるが。


 この二人のバッターを、完全に抑えてしまえるのが直史だ。

 とりあえずこの二人を抑えてようやく、昇馬は直史に挑戦する権利を獲得する。

 ピッチャーとバッターの対決も、単純に一度の勝負ではつけられない。

 これはピッチャー同士であっても、同じことである。

 だが例えば直史が、一番信頼できるピッチャーであるのは間違いない。

 直史ならば必ず勝ってくれる。

 上杉などは、上杉で負ければ仕方がない、という別方向のベクトルの力を持っているのだ。




 昇馬はタイプとしては、明らかに上杉だと思われる。

 実際に奪三振や、速球のパワーを思うなら、上杉や武史に似ていると言われても仕方がない。

 練習はしても身についていない変化球は、確実にあるのだ。

 ただ左右の両腕から、投げる球種を考える。

 すると直史よりも、ピッチングの幅は広くなるのではないか。


 一打席の勝負の中で、投げる腕を変えることが出来たら。

 そしたら昇馬の脅威度は、明らかに大きくなっていく。

 ルールが今のようなものであって、ピッチャーには不利と言えるだろうか。

 だが元からピッチャーは、バッターに対して優位。

 またこのルールが作られたのは、スイッチピッチャーとスイッチヒッターの間で、どちらもがお互いに交代をしまくったから。

 なのでそういったルールが出来たのである。


 北海道に対して、まずは左で投げる。 

 ここで勝たなければ、大前提が崩れてしまう。

 北海道は一番来たから一番西へ移動し、今度は関東へ。

 試合では疲れていなくても、移動によって気が休まらないかもしれない。

 それを除いても、ホームでありアドバンテージもある。

 あっさりと勝ったうえで、セの頂上対決を、テレビでのんびりと見たいのだ。


 アドバンテージのない日本シリーズこそ、本当の頂点対決。

 ここしばらくはセのファイナルステージが、一番盛り上がっている気配があった。

 もちろんパのチームも優勝しているが、それはファイナルステージで消耗した、セのチームが自滅したのに似ている。

 決戦を戦った余力で、日本シリーズに挑んでいたわけだ。

 だが今年のジャガースは、間違いなく強いはずである。

 勝率がそれを証明している。


 もっともセは、3チームが強い三つ巴であった。

 だからこそお互いに、削り合っていたのだ。

 ジャガースは二位の福岡が、55%程度の勝率しかない。

 3チーム全てが60%オーバーであった、セとは決定的に違うのである。

 交流戦の結果だけで、リーグのレベルを測るべきであるのか。

 このあたりはちょっと、謎であると言えるだろう。


 昇馬も東北の渚に、ホームランを打たれた。

 その後にも普通に、何本か打たれているし、失点もしている。

 高校野球の上澄みばかりが、集結しているのがプロの世界。

 上澄みでさえ一年目からは、なかなか戦力としては働かない世界なのだ。


 昇馬としては一年目から活躍する必要があった。

 リーグが同じであったなら、もう少し控えめにして、対決だけにこだわったかもしれない。

 だがリーグが違うことによって、交流戦以外では日本シリーズでしか、まともに対決することがない。

 そう思ったからこそチームを勝たせて、圧倒的な勝率で優勝させた。


 北海道も弱いわけではないのだ。

 だが何か突出して、危険だと感じているわけではない。

 それでも今年、パの中ではジャガースに対して、一番健闘した相手ではある。

 何か一つ歯車が狂えば、敗退してもおかしくはない。

 それを首脳陣は恐れていて、その恐れが選手に伝われば、意外なジャイアントキリングが起こるであろうか。

 もっともそのあたり、空気を読んで無視するのが、昇馬であったりアルトであったりするのであった。

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