短編『アイアンメイデン、私』
佐伯修二郎
第1話『依存』
アイアンメイデン――それは中世ヨーロッパで用いられたとされる拷問器具。鉄で作られた棺のような外見をしているが、内側には無数の鋭い針が仕込まれており、一度その中に閉じ込められた者は、微動だにすることができない。身じろぎすれば針が食い込み、出血し、少しずつ命を削られていく――
私は、まさにこの拷問器具の中にいるような状態だった。もがく程に傷つき、苦しみ、けれども抜け出す術を持たない。
私の名前は"
――私は、人に依存してしまう。
特に、恋愛においてその傾向が顕著だった。自分から別れを切り出すことができず、ダメ男と分かっていながらズルズルと関係を続け、気づけば貢ぎ体質になっている。そして最終的には、飽きられ、捨てられる。そんなことを何度も繰り返してきた。
けれど、私は一度も男性と肉体関係を持ったことがない。過去に一度、初めての行為に及ぼうとしたことがあった。しかし、そのとき私は激しい痛みと恐怖に襲われ、身体が強張って拒絶してしまった。それ以来、私はそういう行為に対して強い嫌悪感を抱くようになった。
――それでも、愛されたかった。
だから、私は別の方法で相手に尽くした。相手の言うことは聞いて、金銭的にも尽くし、それで愛を繋ぎ止めようとした。そして、そんな私を受け入れてくれる男は意外にも少なくなかった。ただし、彼らが求めていたのは私の心ではなく、私の金だった。
――それを知りながらも、私は彼らに尽くしてしまう。
精神的に相手に依存する私と、金銭的に私に依存する男。お互いに依存し合う関係。それが心地よいと思ってしまう時点で、私はすでに壊れていたのかもしれない。
今、私が付き合っている男――"
清貴はちゃんと仕事をしている。だが、それらは彼のギャンブル、酒、タバコ代に消えていった。
生活はほぼ私の金で成り立っていた。清貴は私のマンションに上がり込み、同棲を始めるも、家賃、水道光熱費、食費……ほとんど私が払っていた。それでもパチ屋に入り浸り、負ければ私に「金を貸してくれ」と泣きついてくる。
時々、申し訳なさそうに「今度返すから」と言うけれど、その「今度」は一度も来たことがない。
それでも、私は彼を捨てられなかった。
たまに見せる優しさが、私の心を縛りつける。私が風邪を引いたとき、コンビニでポカリスエットを買ってきてくれたこと。仕事で嫌なことがあったとき「無理すんなよ」と頭を撫でてくれたこと。たったそれだけのことで、私は「彼も本当は優しい人なんだ」と思い込もうとした。
――だけど、それは幻想だった
***
ある日、私は仕事帰りに、ふと普段とは違う道を歩いた。特に理由はなかった。ただ、何かに引き寄せられるように、いつもは通らない道を選んだ。
そして、パチンコ屋の前に差し掛かったときだった。
清貴が、知らない女と一緒に店に入っていくのを目撃した。
私の足が、ピタリと止まる。
清貴は、その女と親しげに話していた。軽く肩を叩いたり、笑い合ったり――まるで、恋人同士のように。
――あの女は誰?
考えたくないのに、頭の中で最悪の想像が渦を巻く。私は過去の記憶を思い出した。以前付き合っていた男が、私以外の女と浮気していたときのこと。私が問い詰めると、彼は逆ギレし、私を罵倒して去っていった。
――また、同じことが繰り返されるのか?
胸がギュッと締め付けられ、息がうまく吸えない。
私は……どうすればいい?
その場で駆け寄り、彼に問いただすべきなのか? それとも、このまま見なかったことにするべきなのか?
答えを出せぬまま、私は何事もなかったかのように踵を返し、帰路についた。
三時間後、清貴が帰宅した。
私は、何も言わなかった。清貴の顔をまっすぐに見ることもせず、普段通りの態度を装った。でも、心の中は嵐のようだった。
――ただの友達かもしれない
そう思おうとした。そう思わなければ、私は壊れてしまうから。
けれど、頭の中では嫌でも想像してしまう。
――清貴は、あの女とどこまでの関係なのか?
――彼女と身体を重ねたのか?
――私の知らないところで、私のお金で贅沢をしていたのか?
吐き気が込み上げる。喉がひりつき、胸の奥が焼けつくように苦しい。
清貴の顔がぼやけて見えた。
――私は、どうすればよかったのだろう?
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