第5話

 家に帰ってきた頃には夜の十一時を回っていた。適当な理由をつけて最後まで店に残り、店の周りに人気がなくなった頃を見計らった。車で歩道を乗り上げ、店のドアになるべく近づけて停車させた。電信柱を見上げ、防犯カメラの有無を確かめた。幸い、車近くにある二本の電信柱には設置されていなかった。

 恭介の死体をひきずり、トランクに押し込んだ。奇跡的に誰も人が通ることが無かった。アパートも一階に住んでおり、階段を上るようなことをしなくて助かった。

 部屋に運び込んだ恭介は目を見開いたまま白くなり始めていた。よく見ると真美に顔がそっくりだった。マネキンに髪の毛を植え付けなくても、衝動的に恭介を殺さなくても、真美との密会の約束ができた。蓮人は「どうしよう……」と独り言をこぼして俯いた。それも恭介の顔を眺めると情欲が体の奥底から噴き出してきた。大渕はバリカンを取り出して、恭介の頭をきれいに剃り上げた。そこからマネキンに植え付けた髪の毛を引っ張った。木工用ボンドで貼り付けていたため、はがれやすかった。そのまま恭介の反り上げた頭に乗せ、再び、ボンドで止めた。さらに今日獲得した真美の髪の毛をボンドで植え付けていく。妙に浮き上がったところや髪の毛の長さがおかしいところを調整し、完了するころには夜の一時を回っていた。眠気は一向にやってこない。

 口周りの髭の青さは気になるものの、遠目で見たらかなり真美に近くなった。少なくともマネキンよりかはずっと真美に似ている。

 蓮人の下半身はすでに盛り上がっており、ズボンとパンツが窮屈だった。すぐに脱ぎ捨てると猛烈な勢いでしごき始めた。体感では一分もしないうちに絶頂を迎えた。しかし、萎んだはずの陰茎は、真美の髪の毛をはやした恭介の顔を見た途端に再び盛り上がり、休む間もなく自慰に耽った。

 七回の自慰を終えたあと、陰茎がひりつく痛みを発し始めたので、ソファーに寝転んだ。蓮人は目を閉じた。警察も馬鹿ではない。どのみち自分が捕まるのは時間の問題だ。どうせ捕まるなら、一度でもいいから真美と一つになりたい。約束の日にちまで待っていられない。店には明日風邪だと偽り有給をとることにした。店のパソコンから事前に入手していた電話番号でSMSを送信した。

『約束の日まで待てません。明日休みなのでご飯に行きませんか?』

 真美からの返信は案外すぐに来た。先ほどまで遅番で帰宅してきた夫の世話をしていたらしい。

『急だね。午後三時くらいまでだったらいいよ』

 両手につくった拳を突き上げた。目の前には真美の髪の毛を纏った恭介が濁った眼で蓮人を睨みつけていた。

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