アリアンロッド2Eリプレイ・ノベル エリンディル戦記

雪白紅葉

第1話

 “遺跡の街”ラインの中央広場。ここに一番大きなギルドは存在する。

 風の旅団はエリンディル西方大陸全体で最も大規模なギルドと言っていいだろう。

 この国の王であるエレウォンド王も元々は風の旅団に所属していた冒険者の一人。かつて英雄として名を馳せた彼と共に旅をした冒険者仲間であるエルダナーン、ルーミス・フェーダは他の仲間と共にこの国で圧政を敷いていた王、“不老の”ヴェルウィンを討伐。エレウォンドは新たな王となり、ルーミスは王都であるこの地に腰を据えて新人育成を中心とした活動を始める。


 風の旅団のギルドハウス団長室。そこに入室しようとする一人の少女がいた。

 ヴァーナ:狼族アウリルの少女は赤ずきんを彷彿とさせるような外套を纏い、その内側には彼女が信じるとある女神がデザインした神聖具のクロスアーマーを着用している。防御性能を捨てた代わりに動きが良くなるクロスアーマーは、着用している者の土下座のフォームが美しくなると言われている。

 

(き、緊張してきたなぁ……ベネット様、私を導いてください……!)


 少女はある日、一人の人物に出会った。彼女との出会いは数奇な巡り会わせから来るものだった。

 森の中、現れた敵性生物の群体。このまま囲まれ、食われて死ぬ。不運な自分を嘆きながら、その場に倒れ伏し、死を覚悟したその時、一本の矢が怪物を打ち倒す。


「やはり防具は身に着けないに限るでやんす!」

 

 その人物は素早い身のこなしで次々と敵の攻撃を躱し、矢を用いて全ての敵を殲滅した。


「あ、あなたは……?」


 少女はその救世主とも言うべき恩人にそう尋ねる。


「しかし、この世界はおかしなところでやんすね……っと、あっしはベネット。誰が呼んだか、人呼んで三下女神とはあっしのことでやんす! どうやら、この世界はエリンと同じ世界のようでやんすけど……あっしの知るエリンではないみたいでやんすね。そうだ、えーっと」

「め、女神様……」


 三下の部分に突っ込む余裕もないのか、感極まった声で祈るように手を合わせ、女神……ベネットを見上げる。


「名前を教えてもらっても?」


 女神様に名乗るだなんておこがましい。

 少女の名前はベネットと似た名前。それが余計に名乗るのを憚られたが、けれども聞かれたからには答えなければ。


「えっと、ヘネッド、です」

「ヘネッド……うん、いい名前でやんすね! そんなヘネッドに神命を授けるでやんす」


 さっきまでとは打って変わって、あっけらかんとした表情から厳かな顔つきになる。


「め、女神様から直々に!?」


 立ち上がり背筋をぴんと伸ばしたヘネッド。ベネットはくすりと笑みを浮かべながらも、すぐに表情を戻して続けた。


「この世界には、異変の要となるべき事件が起きる可能性が高いでやんす。ヘネッドはこの世界で自由に動けないあっしのかわりに、もし可能なようならそれらの解決に奔走して欲しいでやんす」

「は、はい! お任せください!!」


 その出会いから、ヘネッドは冒険者について学び、やがて最も大きなギルドである風の旅団に所属する為、この場所にやって来たのだ。


「さあ、準備は良いかい?」


 この場所に案内してくれた一つ年の離れた青年にヘネッドは頷く。

 深呼吸をして扉をノックすれば奥から綺麗な声が聞こえる。


「どうぞ」


 ヘネッドはもう一度、大きく深呼吸をしてから扉を開き中へ足を踏み入れる。

 開いた窓から優しい風が吹く。それが目の前の人物の美しい銀髪を揺らし、煌めきに目を奪われた。

 吸い込まれるような青い瞳が、ヘネッドの赤い瞳を見つめる。


「ルーミスさん! 加入希望の人連れてきました!」


 後ろから続いて入って来た青年――アルヴィス・ヴェラーの元気の良い声が響く。

 言葉を忘れて立ち尽くしていたヘネッドがそこで我に返った。


「失礼しま、するでやんす! わた、あっしはヘネッド! 女神ベネットの神託を受けたものでやんす!!」

「ご苦労さまです。アルヴィスさん。そして、初めましてへネッドさん。私は『風の旅団』のギルドマスター、ルーミス・フェーダと申します」

 

 変わった人物がまた来たなとルーミスは思った。不運過ぎて風の旅団に所属する為に92個のギルドを巡って今のギルドに辿り着いたハルメナという少女が一瞬浮かんだが、別に彼女自体は変ではなかったなと思い直す。

 三下女神ベネットについては知っている。エレウォンドと共に“不老の”ヴェルフィンに立ち向かった時、女神を自称する人物とルーミスたちは邂逅していた。

 ヘネッドは自己紹介でこれをやったら即リターンされる心配をしていたが、今の自分を受け入れてくれなければ意味がない。緊張した面持ちでさらに続ける。


「雑用でもなんでもしますので、よろしくおねがいしま……するでやんす!」

「なるほど……あの方にお会いしたのですね。良いでしょう、あなたの入団を承認致します」

「ありがとうございます!」

「では、こちらの書類に必要事項を記入し、最後にサインを」


 受け入れてもらえたことに安心していると、アルヴィスがぽんっと肩を叩いてくる。そこににこやかに笑顔を返し、ルーミスが取り出した書類にノーチェックでサインをした。

 ルーミスは書類を受け取って抜けがないことを確認する。


「はい、問題ありません。ようこそ、風の旅団へ」

「はい、できることから一生懸命がんばります……でやんす!」

「さしあたっては、アルヴィスさんとともに神殿などで依頼を探してくるとよいでしょう」

「了解しました。ヘネッドさんよろしく」


 ここに所属して暫くが立つアルヴィスはそう言ってから、ふと依頼のことで思い出す。


「そういえば……この間確保していた依頼はどうですか?」


 冒険者というものは、神殿に向かい依頼所などで仕事を斡旋して貰うのが基本だが、風の旅団のように大きなギルドになると、ギルド側に直接仕事が回って来ることがある。特に風の旅団の場合は、人数も多いので、神殿からいくつかを旅団用に回して貰うこともあった。


「そうですね。アルヴィスさんが言うように、こちらでも受けられる依頼もありますよ。例えばこのような…………あら? こんな依頼、あったかしら……?」


 取り出した依頼書の中に見覚えのない依頼を発見し、首をかしげる。


「見覚えのない依頼ですか……」

「えっと、どうかしましたか?」


 まだガチガチに緊張しているヘネッドは、焦るとベネット語録を忘れる。

 ルーミスは依頼を見ながらいたずらか? とも思ったが、団長室に忍び込んでそれをするような人物は……割といる気もするが、書式は正しいものになっている。ならばやはり、誰か別の人物が依頼として確保し置いていったと見た方が良いだろう。そこで思い浮かぶのは、このギルドの副団長である人物の姿。


「あー、多分あの人ヴィルヘルムが持ってきたのでしょうね。依頼書の書式は正しいものなので……一応これも正式な依頼ですね。もし気になるなら、調べてみても良いかもしれません」


 そう言ってルーミスはアルヴィスに依頼書を手渡す。

 渡された依頼は全部で五つ。どれも街中の依頼だ。


 【薬草採取】【学校の臨時教師】【地図拡大の手伝い】【武具加工の必需品】【新年を迎えるために】


 このうち、【新年を迎えるために】の依頼内容が良く分からないものとなっている。

 中央広場のどこかに特別な場所に繋がる道があるというが、果たして……。


「わかりました! 街中の依頼ですしちょっと見てきましょう」

「あ、はい。ついていきま、行くでやんす!」

「二人じゃ心もとないからもう一人呼んでくるね」

「ちょうど、今どなたか来たようですね」


 団長室前に人の気配を感じたルーミスがそういえば、新たな人物が入室してくる。

 紫色の服の上から、白い外套を纏う女性。綺麗な白い肌に、紫銀の髪、薄紫の髪をしたエルダナーン。


「…ごきげんようみなさま、賑やかそうですね」


 齢にして100を超える長寿種族の一人、セラフィアは自然死することのないイモータリティと呼ばれるエルダナーンだ。

 生まれつき体が弱く、目がほぼ見えないものの、人物の配置や顔の輪郭などは何となく分かる。賑やかなこのギルドの声は大半を瞑想で過ごして来たセラフィアにとって少し賑やか過ぎるものだが、そんな旅団を今はとても気に入っている。


「セラフィアさん! ちょうど良いところに」

「ごきげんよう、セラフィアさん。ちょうど新しい団員が加わったところですよ」


 因みに同じエルダナーンでも知能に長けた種であるルーミスは、セラフィアよりも70年ほど長く生きている。平均寿命は200年ほどだが、同じエルダナーンでもルーミスやセラフィアのように老いを感じさせない者や、寿命をはるかに超えて生きる者も多い。

 

「あ、はじめまして! わた、あっしはヘネッドで……やんす! 今日、加入させてもらいました、でやんす!!」

「それはそれは…アコライトのセラフィアと申します、よろしくお願いします」

「はい! よろしくお願いしま、するでやんす!」

「…クエストに赴くのでしょうか?」

「はい! ルーミスさんも覚えがない物があるということでとりあえず見に行こうかと」

「わかりました、お供いたします」


 依頼書を持ったアルヴィスがそういうと、セラフィアが共に来ることに了承する。

 

「では皆さん、お気をつけて」

「はい!行ってきます!」

「失礼いたします」


 退出するアルヴィスに続くセラフィア。見送られながら、ヘネッドは遅れて自分のクラスを申告する。


「あ、わた、あっしはシーフで、やんす。わた、あっしはトラップに強いでやんす!」


 くすりと、そんな新人を微笑ましく思いながら。


「それじゃ、冒険に出発だ!」


 アルヴィスの号令で、冒険者たちは街へ出た。





 大規模なギルドである風の旅団は、新人や所属する冒険者に向けて援助金を出している。

 それを一行は受け取り、すぐ外にある中央広場に。


「それじゃ、怪しいところがないか調べに行こうか」

「…はい」


 くるくると街の中を見回りながら、ヘネッドに店などを紹介しつつ、怪しい場所がないか調べていく。


「う~ん……流石に中心の目立つところにはないか」


 アルヴィスがそう言う中、セラフィアとヘネッドは街路樹のある茂みに目を向けていた。

 

「…なにかありますね」

「穴……ですよね? ……でやんすよね?」

「む! その茂みに穴が……見てみよう」


 二人の視線の先に向けて先行するアルヴィス。


「これ……ただの穴だ」


 と言って首を横に振るが、二人が見ていた穴はそこではなかった。

 少しずれた場所に向かう二人についていけば、確かにそこに、人が通れそうなくらいの穴があった。

 

「中に何かあるかもしれない?」


 ヘネッドがアルヴィスの前に出て、拾った小石をぽいと投げ込む。

 音で深さを知ろうとするが、いつまで経っても音が聞こえない。深さがあるのか、それとも……。

 アルヴィスがロープを使って慎重に降りてみるかと、一歩踏み出したその時。何かに引き込まれるように、体が吸い込まれた。


「うわぁ!?」


 吸い込まれるアルヴィスに手を伸ばすヘネッド、続いてセラフィアもまた、穴に吸い込まれていく。


「え、あれ!? ここ、どこですか!?」


 吸い込まれたことに焦りながら、ヘネッドは周りを見渡す。

 どうやらある程度の明かりは漏れているようで辛うじて遺跡のような場所ということだけ分かる。


「二人とも大丈夫かい!?」

「大丈夫です! 怪我はありま、ないでやんす!」

「…はい…ここは、遺跡…でしょうか」

「たぶん……敵もいるようだね。慎重にいこう」

「わかりまし、了解でやんす」


 向こう側に見えた骸骨の群体を見てアルヴィスが得物であるグレートソードを構える。

 距離にして20m。まだ気づかれていないが、この距離と視界だ。奇襲は無理だろう。


「これ、戻れるかな?」

「…どう…でしょう?」


 アルヴィスが元来た穴を見上げて登ろうとすれば、体が上へ吸い込まれる。


「わわ!? また!」


 時空の亀裂、とも言うべき事象。

 二人も一度地上に戻って合流する。


「これ……大丈夫ですかね? ここから、あの骸骨たちが出て来たりしません……しないでやんすかね?」

「とりあえず、これも後で報告だね」


 それから三人は他に異常がないかを見て回り、一度ギルドに戻ることに。






「……くせものですかね? カリン、ただいま帰りました」


 ギルドハウスに独り言を口にしながら入って来る一人の魔術師然とした格好の冒険者。

 カリン・セレスチャルは錬金術師の母と魔術師の父を持つハイブリッドで、時折変な電波を受信したのかという発言が目立つ人物でもある。


「……夜逃げ?」


 誰もいないギルドを見ながら適当なテーブルに座ると薬品の調合を始める。


「冗談はともかく不用心ですね」


 とか言っていると、外回りに出ていたアルヴィスたちが戻って来た。


「入団希望者の人かな?」

「…ただいま戻りました」

「あら、おかえりなさい?」


 カチャカチャと我が家も同然の顔で調合を続けるカリン。


「あ、先輩でやんすか? ヘネッドって言います、よろしくおねがいしま……、するでやんす」


 その姿を見て先輩だと思ったヘネッドがそう言うが……。


「ちょっと待ってね。団長呼んでくるよ」


 まさかの、後輩であった。

 勝手にギルドハウスに入って勝手に調合をする危ない人だ。いつものカリンである。

 アルヴィスが団長室に戻れば、書類作業をしていたルーミスがいた。

 ルーミスはアルヴィスから事情を聞き、団長室の外に出る。


「入団希望の方ですね?」

「はい」


 調合道具を片付けながらカリンが言う。


「先輩……で、あってます、よね?」


 後輩になるのである。


「………さぁ?」

「…」


 黙ってみているセラフィア。

 苦笑いのアルヴィスの横で、ルーミスもあれ? 元からいたわけじゃないよねと記憶を探り出す始末。

 元々今日はもう一人、新人が来る予定があった。フォルカという、元々討伐対象としてルーミスが討伐に赴いた先にいたアンデッド。紆余曲折あって敵性存在ではないと認められ、今では同志であるその人物、というか骨から身柄を保護された人物を預けたいという連絡が来ていたのだ。

 その人物は男性なので、目の前の女性とは性別が異なるし、その佇まいからやっぱり元からギルドにいたんじゃないかと団長自ら疑ってしまうが、やはり記憶にない人物だ。つまり、新人――っ!


「え、えと……? 先輩じゃないなら、なんでここで調合してたんですか? ……でやんすか?」

「なんとなく話の流れで」


 謎である。


「私は『風の旅団』ギルドマスターのルーミス・フェーダと申します。入団をご希望でしたら、まずはこちらの書類に必要事項を記入して下さい」

「はい、カリンです。錬金術と魔術を少々嗜んでいます。こちらでよろしいですか?」

「はい、問題ありません。カリンさん、風の旅団へようこそ」

「あの、わた、あっしも今日入ったばっかで……やんす。よろしくお願、頼むでやんす!」


 大人しくサインにチェックをしたカリンから書類を受け取り、確認を終えたルーミスが歓迎する。先輩ではなく後輩……というより同輩? になったカリンにヘネッドがそう言っていると、またしても外から新たな人物がやって来る。

 そこに今度は2mを超える背丈に大きなブラウンの翼を持つ褐色肌の長髪の戦士だ。

 

(ここが……風の旅団……!)


 賑やかだなと思いながら戦士、ガスパールは目を輝かせる。

 

「お、また新しい人だ。今日は多いな」

「良いことかと」


 アルヴィスはそうだねとセラフィアに頷いてから、団長室に向かい入団用の書類を持ってきてルーミスに手渡す。


「あなたは……フォルカさんのご紹介の方ですね? ガスパールさんで合ってますか?」

「どうも。確かに俺がガスパールです。フォルカさんからここを紹介されました」


 キルディア共和国で産まれたガスパールは祖霊魔術の才に恵まれなかったことで旅商人へと売られ、奴隷にされてしまう。そこで剣闘士グラディエイターとして、“水の街”クランーベルで貴族や大衆の見世物として、死と隣り合わせの日々を送っていた。

 そんな彼を見初めて保護したのがフォルカである。ガスパールにとっての最後の試合、その前夜に見た夢の予言により、彼はフォルカの元へ導かれた。

 ノクス・アストラ――中原地域にて結成された互助会的集団。ギルドではないが、その組織にガスパールは所属し、フォルカから風の旅団に向かうよう言われやってきた次第である。


「フォルカさんからお話は伺っています。では、こちらの書類に記入を」

「ありがとうございます」


 すっと頭を伏せ書類の記入を始める。

 装備は短槍にラウンドシールド……動きやすさを重視して、鎧は最小限のようだ。

 

「……お待たせしました」

「はい、ありがとうございます。ようこそ、風の旅団へ」

(これだけか)


 もっと入団試験だとか、面倒な手続きが必要だと思っていただけに、書類の記入だけで終わったことに意外そうな顔をする。


「では、よろしくお願いします」

「はい、よろしくお願いします。まずはこちらで準備を整えてください」

「……ありがとうございます。ご期待に沿えるよう頑張らせてください」


 ルーミスから受け渡された援助金。入団しただけでお金まで貰える!? 読み書き出来てよかった~! と、潤う懐ににこやかなガスパール。ひいふうみいと貰った金額を数えてみれば、これだけで豪華な食事が五十回はできそうな金額だった。

 その横でまた調合を再開していたカリンがベネットだけが溶ける薬を調合していた。三下女神様万事休す。

 まだ余所余所しいガスパールと違い、我が物顔でギルドハウスを練り歩くカリンにやっぱり先輩? でも書類書いてたしなと未だ混乱するヘネッド。


「ヘネッドさん、カリンさんはガスパールさんと同じく、本日入団された方です」


 じゃあやっぱり先輩ではない!? 先輩じゃないのにこの態度なの凄いなと感心する。


「…お二人共よろしくお願いします、アコライトのセラフィアと申します」

「俺はアルヴィス。見ての通り両手剣使いだよ」

「ガスパールです。槍と盾を使います」


 本来俺は魔術師になるはずだったんだがと昔を思い出しつつ。マジックキャンドルなら使えるので宴会などに呼ばれればきっと披露することになる。丁寧ながらも粗野な雰囲気を持つガスパール、内心は思いのほか愉快な性格なのかもしれない。


「わた、あっしはヘネッド。女神ベネット様の神託に導かれ、ここに来ました。……来たでやんす!!」

「アルヴィスに、ヘネッド……」

「あい あむ カリン」

「そしてカリンか。これからよろしくお願いします」

「はい。前衛の守りはお任せします」


 ぺこりと頭を下げるカリンにぺこりとお辞儀を返すガスパール。挨拶は礼儀。お辞儀は大切なのだ。


「ルーミスさん。少しだけ良いですか?」


 アルヴィスが先ほど遭遇した遺跡……ダンジョンについての情報を渡す。

 その横でカリンはアルヴィスが持っていた依頼書に目を通すと、ぽつり呟く。


「新年イベントですね」

「???」

「…?」

「エイプリルフールイベントとは違ってそこまでカオスなことは少ないので安心できそうです」


 何言ってるんだろうこの子。

 ルーミスがアルヴィスからダンジョンの情報を聞いて、気を付けて行ってくださいねと再探索への了承を示す。


「それでは、改めて行ってきます!」

「あの! できれば、カリンさんもガスパールさんもきてくれないで、やんすか?」

「ええ、向かいましょう。ダンジョン、冒険、経験点、胸が躍ります」

「早速仕事が……? そうですね……俺は冒険者としては駆け出しなんです。その……色々ご指導をこれからお願いいたします」

「たしかに……二人も来てくれると心強い。俺も対して変わらないし、お互い様さ! これから一緒に頑張ろうガスパール!」

「わた、あっしも駆け出しなので、一緒にがんばりたいです。……頑張りたいでやんす」

「はい…ではみなさま、よろしくおねがいします」

「合言葉は無理せずに、と」


 カリンが作戦を指定したところで? 一行は外に出た。






 中央広場。

 市場や演説、たまに公開処刑も行なわれる市民の憩いの場所。

 そこから少し外れた先に、次元の歪みが広がった穴があった。

 

「……!」


 ガスパールはその不可思議に開いた穴に警戒を示す。

 

「そこ気を付けてね。遺跡の入り口だから」

「おそらくスケルトンが住み着いています」

「街中に…?」


 アルヴィスとセラフィアの言葉に少し怪訝な顔をする。


「そうさ。ここは遺跡の街ライン! この街自体が遺跡みたいなもんだよ」

 

 王都であるここラインは遺跡の上に建てられた街だ。それ故、地下に遺跡があることは珍しいことではないのだが、それを以てしてもこの穴の存在は異常である。下に落ちるというより、どこかに転送されていると考えた方が良さそうな感覚だった。


「なるほど? 3歩歩けば遺跡に当たる街ライン、その名は伊達ではないという事ですね」

「さすがは遺跡の街、ということですか…」


 早速入ろうとするカリンに、アルヴィスが待ったをかける。カリンはそのまま木の幹に激突した。

 アルヴィスはそれより先に調べたい場所があるらしく、そこに向かうが、別段何の変わりもないちょっとした穴だった……。


「やっぱり、これは……ベネット様のおっしゃっていた異変……?」

「ふむ……?」


 明後日の方向へ向かったアルヴィスはさておき、異変の穴に吸い込まれないように注意しながら調べるヘネッド。横で見ていたガスパールが周りを警戒しながら首を傾げた。


「あ、ここがさっき報告した、変な穴で……やんす!」


 ヘネッドがガスパールを見上げて情報を共有する。

 その横で鼻血を出したカリンが痛そうに鼻を抑えている。


「鼻打った……」

「カリンさん、大丈夫ですか? あ、でやんすか?」


 それを横目にガスパールは槍を取り出してとりあえず攻撃してみるか? と考える。

 ヘネッドはそういえば、と今度はガスパールに向き直り、言葉をつづけた。


「あ、そういえば言い忘れてまし、言い忘れてたでやんす。わ、あっしは弓が得意でやんす。なので、前に出れないので、前衛はお願いしても良いですか? ……良いでやんすか?」






 場面は戻り風の旅団ギルドハウス。

 五人で出てから少しして、また新たな人物がギルドの門下を叩く。


「どうぞ」

「ごめんください」

「はじめまして、入団希望の方ですか?」

「はい、入団希望です!」


 新たに入って来たのは太陽のような赤い髪に瞳を持った踊り子のような衣装の女性。

 エコー・ローズは学者の生まれでその服装からは予想できないような性格だったのだが……ある時事故で頭を打った結果、学者としての記憶が飛んでしまって性格もガラリと変わってしまった。

 踊り越しながら冒険者がしたいと言い出し、この場に至る。


「私は『風の旅団』ギルドマスターのルーミス・フェーダと申します。ではこちらの書類に記入を……」

「ふむふむ、なるほど…」


 ルーミスから渡された書類に目を通し記入をする。元が学者なだけあって、体は覚えているのだろう。正確な文章を書いて渡す。


「エコーさん、ですね。はい、問題ありません。ようこそ、風の旅団へ。ちょうど、今他の団員の人たちが依頼をこなしに……恐らくまだ街にいると思うのでご案内しましょう」

「お願いします。そして、ありがとうです!」

「それと、こちらをどうぞ。支度金です」


 援助金を受け取ったエコーを連れ添って、団員たちがいる場に合流すると――。


 ガスパールがギリギリ吸い込まれない場所を見極めながら槍を手に穴に攻撃をしかける中、アルヴィスが全員に号令し、このまま飛び込もうとしていたところであった。

 ふと後ろに気配を感じ、飛び込むのを中断。ガスパールも槍を地面に突き立てて、団長と共に来た踊り子衣装の人物に目を細める。


「こんにちは、新人のエコーです。よろしくお願いします!」

「おっとっと……あれ? また新しい人だね」

「えぇ、ちょうどいいのでエコーさんも加えて差し上げてください」

「わかりました! ルーミスさん」

「なるほど……俺はガスパールです。よろしくお願いします」

「…よろしくお願いします、アコライトのセラフィアと申します」

「えっと、あっしはヘネッドで、やんす!」

「カリンよ」

「エコーです。メイジをやっています」

「俺はアルヴィス! 剣士をやってるよ」

「メイジ仲間。属性は?」

「炎です!」

「水。勝ったな」

「?」


 カリンは何に対抗意識を持っているんだ。

 そしてこの世界、火に対し水は強いが、その逆も然りな為、対抗属性だから勝ってるかと言われれば疑問が残るところ。


「か、勝ち負けのもんだいなんです、なんでやんすか?」

「精霊魔術師も大変なんですね」


 精霊魔術師にはそういう派閥やヒエラルキーが存在するのか?

 祖霊魔術の家に生まれたので良く知らないガスパールがエコーに対抗心を持った発言をしたカリンを疑問に思えば、


「ないよ?」


 とカリンが返事。心を読むな。


「水と炎互いに弱点だから同点じゃない?」

 

 穴に入ろうとしていたせいで、ちょっと吸い込まれかけているアルヴィスは、セラフィアとヘネッドに吸い込まれないよう引き戻されながら言う。


「ありがとう二人とも」

「いえ、これくらいなら喜んでお手伝いします、でやんす」

「!? そうか、水が火に強いのはアルシャードのほうだったか」


 お前はどこの電波を受信しているんだ。


「しゃ~ど? 宝石ですか?」


 エコーがカリンの発言に反応すれば。


「……大丈夫かな? この人」

「不思議な人はたくさんいらっしゃいます」


 アルヴィスとセラフィアがカリンをちょっとやばい人を見る目で見ていた。


「宝石魔術はまだ手が出せないけど、いつかやってみたくはありますね」


 と、エコーは今後の成長方針について口にする。


「場所? によって火と水に優劣があるという話なら分かる気はします。雪中であれば火が、砂漠の上では水が欲しいものですから」

「で、やんすね」


 ガスパールはどちらも歓迎だよ、ということを言いたかったらしい。


「確かにそうですね…」

「なるほど。ガスパールさんは過酷な環境を知っているんだね」

「砂漠の生まれですから」

「暑いのも寒いのもどっちも嫌い」


 つーんとした反応のカリン。お前が始めた物語だ。


「さて、では私は戻りますね。ご武運を」

「はい!お疲れ様です!」


 今度こそ書類仕事に戻ったルーミスを見送って、改めて結成されたパーティーで穴へ飛び込むことにする。



「よし! 改めて行くぞ!」


 全員が飛び込んだ先に、スケルトンソルジャーを視認。


「早速アンデッドのお出ましです…!」


 お出ましの敵にエコーは火の精霊に祈りを捧げ、舞を踊る。ダンサーであるエコ―にとって、舞は自身の能力を高める為の術の一つ。この舞によりエコーの攻撃は烈火の如く苛烈なものへ進化する。


(スケルトン……)


 ガスパールはフォルカを思い出しながら槍を握り締める。


「ほねほね、ほねね」

「ああ、さっきは確認だけして戻ってきたんだけど」

「数の暴力。大丈夫、いける」

「魔術師が二人もいるなら比較的安全にいけるかな」

「護りもガスパールさんのおかげで安全です」

「ご期待通りの活躍ができればいいですが…」


 実のところあまり自信がなさそうなガスパール。何せ、敵が骨ならば、槍を得物とするガスパールにとって相性が悪いからだ。骨の体は槍などの攻撃を躱すことに特化しているせいで、命中しない可能性がある。


「……増えてないですか? いや、でやんすか?」


 ヘネッドに言われてみて見れば、倍近く数が増えている。


「たしかに……増えてるね。ガスパールさんが守ってくれるならまとめてなぎ払うよ」

「……任せてください」

「よし! それじゃ行くぞ!」

「まずは、牽制をします」


 カリンが魔術の詠唱を終えて、水の槍を生み出し放つが。

 対象となったスケルトン群がそれを軽やかに躱していく。

 このスケルトン、素早い……!


「はい、つぎ」

「なかなか素早いようだね。捕らえるのが大変そうだ」


 ヘネッドが続くように矢弾を使い複数の敵を矢で射貫こうとするが、それでも攻撃を躱す群体が二つ。まるで目に捉えているかのように、フェイントを利かせた厄介であるはずの攻撃を躱してしまう。ダメージを負った群体も、やはり効き目が薄そうだ。

 その中に今度はエコーによるファイアボルトの魔術が着弾。これは効き目があるようで、いくつかのスケルトンを吹き飛ばすことに成功する。


「やっぱり魔法の方が効くんですね! ……効くでやんすね!」

「魔法の通りは良いか……俺の剣がどこまで通るかな」


 攻撃が当たったことで気づかれただろう。

 此方へ向かってくる個体を倒そうと意気込むが、一向に敵が来る気配がない。

 ならば魔法だけでとも考えたが、念のためアルヴィスが前線に出て物陰に身を隠す。


「遠いな……ここは」


続くガスパールもまた、アルヴィスを護衛すべく同じく物陰に身を潜めた。一気に前線に出て攻撃するには、距離がありすぎる。

 もし敵が後方へ向かう場合は、ここで脚止めをする。そうでないなら、このまま攻め込む。


「呼吸を合わせていきましょう」

「ええ、向こうも様子見しているようですし……」


 武器を構えてこそいるが、あちら側から攻めて来る気配がない。どちらかと言えば、道を守っているような、それこそ門番のような役割の可能性がある。


「もしかしたら……罠のたぐいがあるのかもしれません」

「そうですね。気を付けましょう」

「一応は俺が先行します。頑丈さだけが取り柄ですから…」

「わかりました。お願いします」


 ガスパールにアルヴィスが相槌を打ってから、カリンたちに合図を出す。

 もう一度魔術による攻撃をし、それに合わせて一気に畳みかける作戦だ。


 カリンによる水の魔術が今度はちゃんと命中する。それによりスケルトンたちがダメージを負う。


「いっけ~! 炎のステップ&ファイア!」


 さらにエコーの火の魔術が、他のスケルトンたちに続けてダメージを与えた。

 分散した攻撃を受けて尚も、スケルトンは前線に出る気配がない。

 セラフィアが範囲攻撃を警戒し敵を識別すると、やはり普通の個体と同じく、骨の体を持った近接戦闘個体であることが判明。範囲攻撃などは持っていないようなので、まとまって行動しても問題は無さそうだ。とはいえ、物理への防御力はそれなりにあるようで、ダメージが通りにくいようではある。


「骨の体だけお気をつけください」

「物理攻撃はあまり効果がないで、やんすか……!」


 セラフィアの合図にならばと、ガスパールが先に物陰から飛び出して「「ウオオオオオッッッ!!!」と翼を広げながら咆哮する。

 属性を付与する砥石により火の力を込められた槍の切っ先からは炎が僅かに吹き上がり、薄暗闇に軌跡が描かれる。スケルトンへの刺突と共に振り払い、一気にダメージを与えていく。


「ガスパールさん! 伏せてください!」


 続くアルヴィスがフェイントをかけ、全てのスケルトンを薙ぎ払うよう一閃。


「お見事! ……でやんす!!」


 見事全てを倒した……かに思えたが。


「仕留めそこなったか!」

「……!」


 何体かが生き残っていた。

 とはいえ、アルヴィスも伊達に冒険者を続けていない。

 次々と迫るスケルトンの追撃を、ここぞとばかりに回避していく。


(良い動きだ…!)


 アルヴィスの動きに目を奪われていたガスパールに向け、スケルトンが攻撃。

 ガスパールは盾を構えてアルヴィスを庇う姿勢を取っているが、スケルトンの標的はキミなのである。

 

「くっ…!」


 そのまま攻撃を受けるが、セラフィアによるプロテクションの魔術が間に入ったおかげもあってかいくらかの軽減ができた。とはいえ、完全とはいえず、盾で防ぎきれなかった攻撃がガスパールに傷を負わせる。

 

「…私の盾では少々きついダメージのようですね…」


 セラフィアが防御の為の魔術をさらに使用すると、今度は完全に攻撃を弾くことに成功。おかげで、ガスパールが負った傷も最小限で済んだ。


「これなら槍の間合いだ……!」

「まだまだ余裕そうですね。安心しました」


 後衛では何故かカリンが腕汲みしながらうんうんと頷いていた。


「これからの成長に期待ね」

「精進いたします」


 何故か上から目線の発言にセラフィアが返事をする。


「殺意を込めて……放つ!!」


 倒し損ねた個体に向けて放たれたヘネッドの矢が、次々と敵を倒していく。


「やったか!」


 というカリンのフラグ発言だが、ちゃんと射貫けていた。


「ふぅ、良かった。……でやんす」


 残るところ数体。これならもう勝ったも同然である。


「続いていきましょう」


 カリンのウォータースピアがさらにスケルトンを倒す。


「幸先がよい感じですね」

(良い魔術だ…)


 ガスパールはどこか憧れを含んだ目でそれを見る。

 

 ヘネッドは残りの攻撃を味方に任せ、精神を賦活するポーションを口に含むも、効果が薄く感じられた。もしかして、腐りかけ……!?

 

「ホップステップファイア~!」


 エコーの魔術が最後のスケルトンを燃やし尽くし、戦闘は無事に終了した。


「勝てましたね~!」

「おっし! お疲れ!」


 アルヴィスがそう言って笑顔を見せる。


「なんとかなりましたね」


 カリンがアルヴィスたちに合流すべく前に出る。それに合わせて他の仲間たちもスケルトンの近くに集結した。


「大丈夫かい? ガスパールさん」

「みなさまお疲れ様でした」


 アルヴィスがガスパールにそういって手を差し伸べる。ガスパールはため息をはいて槍を地面に突き立て座り込んだ。初陣での緊張もあったが、何とか勝利することができた。もし一人だったらこの結果にならなかったかもしれない。


「お陰様で助かりました。……どうも。ええ、俺は問題ありませんよ。きみ…いや、アルヴィスが手早く片付けてくれたおかげです」


 その手を取って立ち上がる。


「あんまり力になれたか分からないですけど、勝てましたね! ……勝てたでやんすね!!」

「ガスパールさんが前に出てくれたおかげで戦いやすかっただけさ」

「前衛は安定しているので、後ろとしてもだいぶ助かりましたね」


 カリンがそんなことを言う。変な発言が目立つが、これでいてちゃんとした冒険者なのだ。

 それを後目にセラフィアがスケルトンの剥ぎ取り作業を進める。使えそうなものは死者の牙が6本、それからブロードソードが2本手に入る。

 アルヴィスがブロードソードの一本をウェポンケースに入れて、もう一本をセラフィアが持つ。ガスパールに残りの死者の牙を任せ、ドロップ品の選別は終了する。

 その際に手に取った、引換券と書かれた謎の紙きれもしまいながら。


「おっと、忘れずに回収、回収でやんす」


 ヘネッドが忘れないようにと射た矢弾の回収をする。これを忘れるとかなりの損失になってしまうから、回収できるものは回収しないと……。






 山の頂。

 人の立ち入らぬ霧に覆われたその場所に、その人物はいた。

 仙人とも言える女性は、黒い外套に身を纏い素顔を隠したその男に最後の試練を通達する。


「シオンよ、お前はようやくこの頂に上ってこられた。だが、まだお前には仙人になるに足りないものがある。これより、卒業試験を行う。よいか?」

「うむ。ところで足りぬものとは…歳か? 師のように婆ではないが」

「いいや、実績だ。お前はこれより、このアヴァロンの地より、エリンディルの地へ立ち、そこで流れる事象の要を止めるのだ。それは、大きな時の流れ。大きな災いが、その地を襲う。それらを止め、成長したその時。再び、この地を訪れるがよい。さすれば、真のオーディールを与えん……」

「ふむ…」

「お前ひとりでは、その道は困難だろう。お前に相応しい仲間のいる元へ、送り届ける、では、また会おう」

「ふむ?」


 シオンの足元に穴が開いた。


「…ふむ」


 ひゅーっと、ボッシュート。

 直立不動で落ちながら、達観した様子のシオン。よくあることのようだった。


 気付けばシオンは見知らぬ遺跡に立っている。

 そこには先ほどスケルトンとの戦いを終えた面々が、新たな穴を超えてやって来ていて、周りを見渡しているところだった。


「!」


 突然現れた怪し気な人物に対し槍を構えて様子見するガスパール。


「魔物か! 人か!」


 と誰何する。カバネリかもしれない。


「あれはなんでしょう?」


 その場に現れた人物を指さすカリン。


「…ふむ」

「魔物か! 人か!」

「いきなり現れた……このエリアの守護者なのかもしれない」


 ガスパールが繰り返しながら、槍を持ってジリジリ……近づく。

 アルヴィスは遺跡の守護者のような者の可能性を考慮し、同じくいつでも動ける態勢を取った。


「…」


 セラフィアも攻撃を受けた時の為、プロテクションの準備をする。


「中間かの」

(この状況でそのいいようは…敵か…?)


 ガスパールが攻撃を仕掛けようとするも、


「ちょ、ちょっと話し合ってからにしましょうよ!!」


 とヘネッドが待ったをかける。


「…もしかしたら、転移のトラップに巻き込まれた冒険者かも?」

「それは……確かに」


 エコーの言葉にガスパールはフォルカのことを思い出す。

 見た目だけで判断できないのが冒険者というものだ。様子見を続けながら、代表としてアルヴィスが前に出て言葉を交わす。


「話はできるようだね。キミ。名前は?」

「そこのひとー敵? 味方? 人? 魔族?」

「あ、あのー、わた、あっしはヘネッドです。お名前を教えてもらえないでしょうか? ……もらえないでやんすか?」


 アルヴィスに続いてカリン、ヘネッドが言葉を紡げば、シオンからの返答が来る。


「仙人見習い…道士かの」

「せんにん…? 敵……ではないようですね」


 ガスパールはそこでようやく武器を卸す。 


「なるほど。見たところ、あなたも冒険者。私たちは今ダンジョンアタックの途中、ついていくってことでOK?」

「冒険など野蛮なことはしておらぬ。霞食べてたり…瞑想してたり…」

「たしか東の方でそんな人たちがいるって聞いたことがあるけど、何か目的があってここに来たのかい?」

「目的…我自身はないが…」

「あ、あの! ここは危ないです、危ないでやんすよ?」

「東洋で悟りを開いたものと聞いたことありますが、違うのかな?」


 一行が口々に疑問を言うが、実際のところ、シオンも来たくて来たわけではないので状況が呑み込めていないのである。


「このまま俺達が来た方に向かえば出口がありますが……きみはどうするつもりですか?」

「師より、エリンディルに災難が訪れるから止めてくるようにといわれている」

「災難?」


 災厄では? 災難なのはシオン。

 

「へー」

「我としてはそれも自然の摂理であれば…よいと思うが…」


 ヘネッドは災難……というより災厄と聞いて、ベネットからそ神命が思い浮かぶ。

 

(エリンディルの災厄……まさか……!)


 ガスパールもまた、嘗て夢で見た予言を思い出した。

 火の粛清――やがてこの地を呑み込むだろう神々によるリセット。

 嘗て、この世界では何度も粛清が行なわれてきた。その次なる粛清は火の粛清だと言われており、そのことを言っているのだろうか?


(災難……あれとか、これとか、それとか……心当たりが多すぎる)


 カリンだけ災難を文字通り受け取っていた。災厄である。


「まぁ試練なのでな。あとは…」

「……わかった。それが何なのかわからないけど。ひとまず、風の旅団に在籍して見ないかい?」

「ついたところに仲間がいるといっていたな」

「私たちね」

「冒険をしていれば、それが何か分かるかもしれないしね」

「あ、あの!! 私も、私も女神ベネット様から神託を受けた者です! 協力してもらえませんか!?」

「……先にそういってもらえればこんなに警戒しなくて済んだものを。俺もきみのいう預言について興味がある立場です。色々話はうかがいたいですが…」

「あはは……たしかにガスパールさんの言うとおりだ」


 いきなりほっぽり出されたから何の構えもできていなかったという。やっぱり災難だ。


「どうやら、顔隠しているから中々シャイな人みたいですね」


 エコーが微笑む中、シオンが少しむすっとした顔をする。隠れていて顔は見えないが。


「あと我はそれなりに歳をとってるので…若造扱いをしないように」


 実はこの中で一番高齢、1000歳である。前の粛清が終わった直後くらいに生まれた歴史の証人ともいうべき存在だったりする。


「団長への挨拶はここを出てからとしてひとまず探索に協力してくれるかな?」

「心得た…」

「よろしく! 俺はアルヴィス」

「うむ」

「先ほどはすみません。俺はガスパールです」

「うむうむ」

「私はエコー。メイジをやってるよ」

「うむ?」

「カリンよ。アルケミストね」

「アコライトのセラフィアと申します、よろしくおねがいします」

「わた、あっしはさっきの通りヘネッド……でやんす」

「うむ??」


 変なのがいる気がするが、とりあえずうんうん頷く。


 「ああ我は今だ修行中の身故…今はやれることは少ない」


 気付けば本来持っていた力の大半が失われている。どうやら師により何かされたようで、実際今のシオンは木偶の坊も同然。まともに戦う術もない状態だったりする。

 

「まずは、どこから探索する?」


 カリンに言われて部屋を見渡す。

 見たところ、幾つかの部屋、そして中央には自分たちが下りて来たであろう穴と関係しそうな魔法陣がある。ここに立てば元の場所に転送されると見て良いだろう。

 北の扉には何らかのギミックでもあるのか、封印のようなものがされている。

 向かえる方角は他に北西、北東、南西、南の四つ。どこに向かうにも探索しないことにははっきりしない。アルヴィスは自分の剣を棒に見立ててその場に立てると、それを手放しランダムに方向を決める。

 結果、南西の方角に剣が向いた。

 ヘネッドが斥候として一足先に扉の方へ。こう見えてヘネッドはシーフなので、罠関係に強いのだ。

 他の面々には待ってて貰い、その扉を調べる。


「ヘネッド、きみはこういう斥候のたぐいもできるんですね」


 ガスパールが感心する中、ヘネッドの探知が終わる。


「がんばれ~」

「えっと、罠はなさそう……でやんす」


 安全な位置から応援するカリンに振り返り、ヘネッドが結果を報告。


「ぬし、曖昧な応対はこまる」


 とはいえ、他に罠探知できそうな者もいないので、ヘネッドを信用し扉を潜り抜ける。

 戦闘の可能性を考慮し、全員で扉を抜ければ、その先に複数の頭を持つ怪物の姿があった。

 キマイラ――ダンジョンなどにいる、幾つもの存在を掛け合わせた人造生物の一種。それが三体もいた。


「あ、やな予感」

「…あれは今の戦力でいけるのかの?」

「……わからないけど、威圧感はすごいね」

「…とても強い気配がします」

「なんか、拙いかも」

「師より、力を制限されているからよくわからぬ」

「……先ほど遭遇したアンデッドとはプレッシャーが違う…」

「なんか、ヤバそうです……でやんす」


 明らかに強敵。さらに視線の先のキマイラの周囲を囲うようにエネルギーバリアが張られている。下手に近づけば、そのバリアに阻まれてダメージを負ってしまうだろう。

 

「こんなところにいられるか、私は撤退させてもらうわ」


 カリンが一足早くその場を去る。

 敵が追って来る気配は先のスケルトンと同じく無さそうだ。


「動いてこない? 今のうち! 総員退避!」

「…はい」

「わ、わかりました」

「よかろう」

「戦略的撤退です~!」


 ガスパールが殿を務め、じりじりと後退。

 頑張れば勝てないことはないだろうが、今の戦力は新人が大半。無理をするところではない。

 撤退を終えた一同は元の広間で息を整える。


「どうする? まだ探索する?」

「そうだね……他の部屋も見ておこうか」


 情報だけでも持ち帰るべきだろうと、アルヴィスがカリンに返事をする。


「ひぃ、ひぃ……。こ、怖かったです……」

「…大変です」

「撤退できただけ、よしとしましょう」

「追って来なければいいですが…」


 ガスパールがキマイラたちのいる扉を見ながら言う。


「動いてこなかったから、多分大丈夫だと思うけど」


 全員がまだいけることを確認し、アルヴィスが次の扉に手を掛けた。

 南にある扉を開くと、さらに奥へと道が続いているようだ。

 

「また趣が異なりますね」

「ここは…お部屋でしょうか」

「ひとまず安全そうかな?」

「のようだの」

「罠をしらべてみないとだね」

「あ、じゃあ調べてみますね……みるでやんす」


 ヘネッドが先行し罠が無いか部屋を確認すると、部屋の中央に不思議なものを発見する。

 

「あれは?」

「明らかに罠」


 ガスパールの言葉にカリンがすかさず返す。

 

「ナルトかの」


 シオンが見たままの言葉を発した。

 そう、ナルト。部屋の中央でナルトが生み出されている。ナルトは生み出されては消えるを繰り返していた。

 それを見てカリンが大笑い、アルヴィスとセラフィアは何なのだこれはと困惑する。


「ナルトね。魚肉だってばよ」


 カリンの言葉に、どちらかというと普通に肉が欲しいと思うガスパール。試しに近づいて見る。


「賞味期限は大丈夫なのかの…?」

「どうでしょう」

「ファンタジーに賞味期限はないから大丈夫」

「食ってみればわかりますよ」


 出来立てのナルトをそのまま食べると、市販のものと同じ味がした。貴重な肉……? により減っていた体力が回復する。

 どうやら運の要素が強いようで、近づいてナルトをきちんと手に取れるかは、その人の幸運次第なところがありそうだ。

 ガスパールに続いて他の者たちもナルトを手に取る。


「よければこれもどうぞ」

「ありがとうございます」

 セラフィアが手にしたナルトをガスパールに渡していた。どうやら手に入れたナルトを他者に譲渡するのは問題ないらしい。ナルトはまるまる一本分を複数手に入れることが可能で、セラフィアは手に入れた三本全部を渡す。どうやら手にした段階で切り分けも同時に行なわれるようで、かなりの量のナルトになっている。

 ヘネッドがランチボックスに入れたりしつつ、他に何もないことを確認。


「ナルト……他に何もなさそうだし次に行こうか」


 ナルトを手にした一同は、次なるエリアへ向かう。

 扉はなく、通路を抜けた先にはまた開けた場所があった。


「罠は無さそう……でやんす」

「わかった。それじゃ行こうか」


 そうして進んでみたところ、今度は幾つもの触手を持った動物、ナイトフットバルーンが大量にいた。


「罠はないが…また敵だの」

「数が多い…!」

「あれの相手は嫌だなぁ」

「また……これはきつそうだ」

「…魔境ですね」

「…逃げましょう」


 ガスパールの言葉に頷くも、ナイトフットバルーンたちは無数の触手を使い引き寄せようとしてくる!

 アルヴィスはその特性を知っていることから、これがあったんだ! と最悪の状況を想定し、やはり戦うしかないかと腹をくくるも、どうやら距離が足りないようで、触手は目前までで蠢き止まっていた。

 三本の足を動かし移動するのがこのナイトフットバルーンという動物なのだが、どうやらこれらはその足が不自由なのか、真面に動くことすらできない様子。

 今のうちーとさっさと撤退するカリン。ヘネッドも続くように撤退する。

 対しセラフィアたちはどうせ動いてこないなら……と識別をし、やはり動いてこないのかと不思議に思う。移動自体はできるはずだが、偶然動けていないだけか? 場合によっては遠距離から倒すということも考えられたが、他に何があるか分からない。カリンたちは撤退してしまったし、そちらに合流すべきだろう。


「ヘネッド、みんなは来ない。どうやら生き残ったのは私とあなただけの模様ね」

「いや、大丈夫ですよ!? ですよね!?」


 とか言ってる二人のところに走って合流。


「連中、様子をうかがうばかりで攻撃してくる様子がなかったですね」

「うーん。どこも強力な敵で塞がれているようだね」

「おかえり。遅かったわね? 識別でもしてた?」

「識別は成功して、撤退にも成功しました」


 カリンにエコーが結果を報告する。

 引き寄せからの攻撃が厄介で、遠距離への攻撃手段も持っているものの、あの場からなら最初の引き寄せは届かない範囲だ。勝てない相手ではないだろうけど……。

 それに、気になることもある。

 ナイトフットバルーンがナルトに反応を示していたのだ。

 もしかすると、ナルトを求めているのかもしれない。ナルトがあればさらなる対策が可能と考えて良いだろうか?

 兎も角、撤退は済んだ。他の部屋の情報も集めるべきだろうと同じく次なる部屋へ。


 その部屋には幾つもの結界のようなものが存在していた。

 壇上に物がおけるようになっており、それぞれ置くものの名前と数が書かれている。



ナルト設置場所

ナルトを合計20設置する必要有

0/20

触手設置場所

触手を合計20個設置の必要有

0/20

ブロードソード設置場所

ブロードソードを5個設置する必要有

0/5

キマイラの頭設置場所

キマイラの頭を3個設置する必要有

0/3

薬草設置場所

薬草を30個設置する必要有

0/30

新鮮野菜設置場所

新鮮野菜を5個設置する必要有

0/5


「なぜなると?」

「……?」


 書かれているものを見ながら、カリンに続いてガスパールも混乱。


「…なんでしょうここ」

「おかしな。遺跡だ」

「ふむ…」

「20個も設置するのは大変そうだね」


 手持ちのナルトを見ながらエコーが言う。ナルトだけじゃない。他のアイテムもかなりの数を要求している。なんだここ?

 ブロードソードはスケルトン、触手はナイトフットバルーンから手に入るだろう。問題はキマイラの頭。あれを手に入れるのは至難の業だ。

 新鮮野菜? 野菜ならあるけど、新鮮とはどのレベルで言っているんだ……?

 壇上に奉納せよとあることから、その全てを集める必要があるらしい。

 今あるものだけでもと、ナルトを13個、ブロードソードを2本奉納。

 

「これでなにが起きるんですか?」


 冒険者分からんといった顔をするガスパール。大丈夫、皆分からん。


「これが人界というものか…」

「いや、この遺跡が特別変なだけかと思うんだけど……」


 順当に考えれば、全部置けば北の扉が開くのだろうか?

 奉納を終えた一同は、次なる扉へ歩を進める。

 ヘネッドが罠を調べれば、やはり扉自体には罠がなさそうだ。

 入った先は休憩がとれそうな場所があり、その横に封印された場所がある。

 それ以外には何もなさそうだ。


「とりあえず戻りましょうか」


 目ぼしいものがないことで戻ることを進言するカリン。


「休憩するのにちょうど良さそうだったね。覚えておこう」

「そうですね…」

「ええ、それがよさそうですね」


 この遺跡は今回のところはこのくらいで見逃してやるか……。

 情報のメモを終えたアルヴィスに続いて、セラフィア、ガスパールも撤退。

 他の者もそこに続き、部屋の中央に戻って来る。


「中央の魔法陣が使えるかな?」

「わた、あっしとしては、十分恐ろしい経験しまし、したでやんすよ……」

 

 この場所に潜む強敵との再戦の可能性に息を飲みながら、ヘネッドが呟く。

 

「ふむふむ、冒険とはこういうものなのか…」

「そう…ですね、少し特殊ですが」


 敵前逃亡を二回しただけなため、今一実感がわかないシオン。セラフィアは普通のダンジョンとの違いにそうだとは素直に頷けずにいた。


「戻れただけでも、これはこれでよしだよ」


 エコーが腰を落ち着かせて言う。

 中央広場、処刑とか処刑する場所に戻って来たところで、ようやく一息つける。


「一度休んでからもう一度出ましょう」

 

 カリンが少しの休憩の後、他の依頼に向かうことを提案。


「合わせますよ。俺にはまだ余裕があります」


 ガスパールが槍に手を置き言えば、他の冒険者たちもまだ依頼に向かうだけの体力は残っているようで、それに頷く……が、


「よいが団長に挨拶ぐらいはしないとな…」

「そうだね。一度団長に挨拶に行こうか」


 シオンが言ったことで、まずはギルドハウスに戻ることに。


「戻りました! ルーミスさん入団希望の人連れてきました!」

「あら、お帰りなさい。今日は千客万来ですね」


 ルーミスの元へアルヴィスがシオンを連れてくれば、笑顔を返してくれる。


「シオンである」

「はじめまして、『風の旅団』ギルドマスターのルーミス・フェーダと申します」


 と言って、いつもの流れでシオンに書類を書かせる。

 シオンはそれを見ながら記入項目を埋めていき、ルーミスに渡す。渡された書類を見て、出身地:アヴァロンと書かれているのに数秒固まるが、すぐに気を取り直し笑顔を向けた。


「……はい、問題ありません。風の旅団へようこそ」

「嘘はついていないので問題あると困る」


 冒険者の証であるメダルを受け取りながら、シオンがそう返した。むしろ嘘じゃないことが嘘みたいだ。


「ささやかな冒険ながら、悪い気はしませんでしたよ」


 ガスパールはアルヴィスとの連携や、他の冒険者との協力を経て得るものがあったようだ。

 それにアルヴィスは喜びつつ、先ほどのダンジョンに必要なアイテムのことをこぼす。


「そうだ。ルーミスさんこの辺で薬草がたくさん採れそうなところとかありますか?」

「新鮮野菜もですね…」

「薬草に野菜、ですか……野菜や果物でしたら農地へ行くと良いでしょう。農地の周辺にはそれらが変異した魔物もいると聞いています。依頼も出ているかもしれません」


 ライン近郊にある農地は、西門から出た先にある。そこでは野菜や果実の栽培が盛んなのだという。中央広場にそこで生産された品を出して商売する商人がいるくらいだ。直接行けば新鮮なものが手に入るかもしれない。


「ありがとうございますルーミス様」

 

 セラフィアが野菜の情報に感謝の言葉を言う。


「薬草は……そうですね、東の方に植物が群生する地帯がありますので、そこにいけば見つかるかと」


 ルーミスはそれから、薬草に関する情報も出してくれた。

 どちらも少し遠出の必要はありそうだ。

 今日の冒険は一旦時間を置いて、明日改めて動き出した方が良さそうだ。

 どうやらギルドハウスには団員が寝泊まりできる部屋もあるらしく、そこに案内される。


「これからここで冒険以外でもお世話になります」


 宿泊道具とか大荷物とかを取りに行って帰って来たガスパールがそう言えば、


「はい、こちらこそよろしくおねがいします」


 セラフィアがそう歓迎の言葉を口にする。


「お世話になりますね」


 しれっと泊っていくカリン。

 他にも何人かがギルドハウスに宿泊し、一日目の冒険を終えた。

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