紛れもない天才
そんな修行の始まりから、あっという間に数日が経った。
「ふー……」
以前と同じように、俺は『
唯一違うのは、ずっと霊力が静かで、波打ってすらいないところだ。
俺の霊力コントロール修業は、想像以上の成果と集中力をもたらしてくれたんだ。
「おい、晴天院家のあの子、いつまでああしてるんだよ?」
「俺達が来てから、かれこれ一時間は同じ姿勢のままだ」
「おいおい、もう任務の報告はしただろ! 邪魔しちゃ悪いし、さっさと屋敷を出ようぜ」
それこそ、晴天院家に来た他の
そもそも陰口や悪口なんて、もっと小さい頃に嫌ってほど言われたし、今更俺をどうこう言われようが構わない。
もっとも、春ちゃんや家族をバカにしたなら、そいつは確実にぶっ飛ばすけどな。
「晴天院家に属する神祓師の中で、久遠様ほど真面目に修行する子もいないってのに、まったく態度が良くないねえ」
「ほんとよぉ。ほら、春も、久遠様の修行を手伝ってあげなさい」
「は、はいっ!」
おっと、今度は使用人の皆に急かされて、春ちゃんがこっちにやって来た。
目を閉じていると、どうやら自然と気配を察知する力も増すみたいだ。
「久遠様、お茶が入りましたよ! 今日は私が作ったお茶菓子も一緒ですっ!」
「…………」
「いつも久遠様は、す、す、素敵です! 今朝も顔を洗うお姿が、爽やかで――」
うんうん、春ちゃんがお盆を抱えて、髪を揺らして声を出してるのが想像できる。
でも残念――今の俺は、その程度じゃあ霊力に波ひとつ起こさない。
「ありがとう、春ちゃん」
気持ちだけ、ありがたく受け取っとくよ。
「……ひゃ、ひゃいい……」
すっかり小さくなった春ちゃんの声の代わりに、今度は大きな声と足音が聞こえてきた。
「おうおう、すっかり春ちゃんの褒めちぎりくらいじゃあ動揺しなくなったみたいだな!」
間違いない、このどかどかとした感じの音は、父さんのそれだな。
「その声、父さんだ」
「俺が来ても、勝手に修行を終わらせずに霊力を維持し続けるとは、よくやってるな……少しだけ、強めに放出できるか?」
「ああ、できるよ」
空気のように流れる霊力を、内側から押し上げるようなイメージ。
それに応じるように、霊力が膨れ上がって全身を纏うのが、確かに感じられる。
以前と同じくらいの量を放出していると、父さんが言った。
「たった数日でここまで霊力コントロールをものにするとはな。そろそろ限界だろうし、リラックスしていいぞ」
そう告げられてやっと、俺は目を開いた。
でも、霊力コントロールの修行を終わらせるつもりはないんだ。
というのも、俺は父さんをあっと驚かせる(はず)、とっておきのサプライズをひとつ、用意してるんだからな。
「父さん、それだけじゃないんだぜ」
「……?」
「霊力のコントロールだけじゃない、ちょっと面白いこともできるようになったんだ」
「ほう、見せてみろ」
腕を組む父さんのそばで、俺はぐっと体勢を整え、拳を引く。
そして目の前に向かってパンチを叩き込むのと同時に――。
「――はッ!」
霊力を、一気に解き放った。
その途端、パン、と空気が振動する音が辺りに響き渡った。
いや、空気だけじゃない――霊力が、拳から一気に炸裂したんだ。
「す、すごいです……!」
「……こりゃあ、たまげたな」
驚く父さんのリアクションを見て、俺は鬼の面の内側でにっと笑った。
そう、俺のサプライズってのは、俺だけの必殺技を編み出したことなんだ。
「打撃が相手にヒットした瞬間に霊力を放出して、ピンポイントで大ダメージを与える……俺の必殺技だ」
これまで見たいに、力任せにぶん殴るだけじゃない。
攻撃が当たった瞬間にだけ爆発的な霊力を叩き込んでやれば、もっと強い荒魂械に遭遇しても、勝ちの目を作れるはずだ。
俺は刹那みたいに器用な戦い方はできない。
なら、コントロールできる範囲の霊力で、一撃必殺の技を使ってやればいいってわけだな。
「名前は『
布団の中で寝ずに考えた名前を伝えると、春ちゃんが目を輝かせて拍手してくれた。
「素敵なお名前です、久遠様!」
春ちゃん、後ろに星が見えるほど勢いよく褒めてくれるのは嬉しいよ。
けど、ちょっと恥ずかしいというか、やっぱり持ち上げられすぎるとお面の中で口元が緩くなってしまうというか。
そんな調子でいると、父さんが深く、深く頷いて言った。
「……お前はやっぱり、紛れもない天才だよ」
父さんの目は、しっかと俺を見つめていた。
俺も思わず、父さんを鬼の面越しに見た。
俺に霊装が発現した時とも、第五等級神祓師の試験に受かった時とも違う――でも、そのどちらよりも温かくて、力強い視線だ。
そしてその瞳が、伝わってくる意志が、俺にはたまらなく嬉しいんだ。
「この調子で、励めよ」
父さんはそうとだけ告げて、やっぱりあの時みたいに屋敷の中に戻ってゆく。
――俺の力を、認めてくれた。
――誰かを守れる力だって、認めてくれた。
使用人さんの光さん、りんごさんが「久遠様はすごい」「将来は陽之助様のような立派な神祓師になる」とか言ってくれてるのも聞こえてくる。
何の力もないはずだった俺を、今確かに、誰かが信じてくれている。
だったら、期待に応えないと、そんなのカッコよくないよな。
「……ありがとう、父さん」
俺はすっかり居間に隠れて見えなくなった父さんの背中に向けて、つぶやいた。
それからまだ俺の必殺技に目をキラキラさせてる春ちゃんに言った。
「春ちゃん。俺、もっと強くなるから」
「は、はいっ!」
なぜかガッツポーズを取りながら、春ちゃんがそそそ、と俺から距離を置く。
「久遠様、使用人として心から応援させていただきます! 頑張れ、頑張れ、久遠様!」
そっか、俺が動きやすいように見守ってくれてるんだな。
「もうちょっとだけ霊力をコントロールしたら、休憩にしようか。春ちゃん、お菓子を用意しといてくれると嬉しいな」
「お、お任せくださいっ!」
そんな会話を交えながら、俺はまた目を閉じて、自分の霊力を操り始めた。
春ちゃんの強いまなざしと春の陽気を感じながら、時間がゆっくりと過ぎていく。
――きっと、もっと強くなれる。
そう信じる俺の日々は、時間は、確かに流れていった。
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