お疲れ様

「――そんじゃ、刹那と久遠の神祓師はらえし認定を祝って!」

「「かんぱーいっ!」」


 試験を受けた翌日、晴天院家の屋敷は俺と刹那を祝う声で盛り上がっていた。

 俺達を囲むように父さんと母さん、使用人の皆が座り、ピザだのフライドチキンだの、デリバリーで注文した料理がテーブルを埋め尽くしている。


 どうしてこんな豪勢な食事会が始まったのかというと、母さんがビールの入ったジョッキ片手に叫んだ通り、俺達の神祓師認定祝いだ。

 というか母さん、料理が届く前から飲んでて、もうすっかり出来上がってるぞ。


「良いのですか、松花様? 私達も祝いの席に誘っていただけるなんて」


「いーって、いいってば! 今日は特別な日なんだからさ、ひかるちゃんもゆかりちゃんも、りんごちゃんも朝顔ちゃんもブレーとか気にしなくていいっての!」


 ちょっと遠慮がちな面々の肩に手を回して、母さんがチキンをばりぼりと食べる。


「もち、春ちゃんもな♪ ご奉仕なんて忘れて、好きなもん食っちゃえ♪」


「よ、よろしいのですか!? 私が久遠様、刹那様と……」


 春ちゃんはずっと戸惑っている様子だけど、他の使用人(春ちゃんのお姉さん)はもうすかりピザに手を伸ばしてるし、いいんじゃないかな。


「母さんがいいって言ってるんだし、春ちゃんも一緒に食べようぜ」


「ひゃ、ひゃいっ!」


 俺がそう言うと、春ちゃんもシーフードピザに手を付けてくれた。

 こうしてあっという間に、食べては喋りの大騒ぎだ。


「かーっ! 皆でテーブル囲んで食うピザ、超うめーっ!」


「たまにはこういうのもいいですね、松花様!」


「あらあら、刹那様ってばまたピーマンだけよけて!」


「陽之助様のように大きくなれませんよ!」


「……分かってますよ。あとで食べます」


 ミックスピザからピーマンだけを丁寧に除ける刹那は、今日ばかりはいじられ役だ。


「そう言っていっつも食べないんだからよ、今日は観念して食べやがれ!」


「食べる、食べるってば!」


 そんな刹那にピーマンを食べさせようとしながら、母さんが父さんに声をかけた。


「ところで陽之助、二人はどうだった? チョー簡単に合格したワケ?」


「初めての討伐任務にしちゃあ、上出来だ」


 フライドチキンを両手に持ちながら、父さんが答えた。


「特に久遠の方は、政府の連中も驚いてたぞ。五歳で第五等級神祓師に認定されるなんて、神祓師の歴史の中でもそうそうないんだからな。本当に、二人とも俺の自慢の息子だよ」


「父さん……」


 ここまで直球で褒められると、嬉しい反面、なんだかむずがゆい。


「まあ、戦力の分からない相手に無謀に突っ込みすぎとか、霊力の無駄遣いが多いとか、反省点もあるがな! そこらへんは、次の修行の課題にするか!」


「ああ、もっと強くなるために、な!」


 俺がぐっと拳を突き上げた時、ふと使用人の皆が思い出したように言った。


「そうだ、春! あんた、久遠様に渡したいものがあるんでしょ!」


「お、お姉様!?」


 危うくピザを喉に詰めかけるほどびっくりした春ちゃんを、皆が俺の前まで連れてくる。

 なんだなんだ、サプライズか何かか?


「夜なべして作ったんだから、ほら!」


「今渡さないで、いつ渡すのよ! お姉ちゃんもついてってあげるからさ!」


「久遠様! うちの春から、プレゼントしたいものがあるってんですよ!」


 お姉さんに背中を押されつつ、しばらく春ちゃんは体をくねらせてばかり。

 そのうち意を決したのか、ワンピースのポケットから、何かを取り出した。


「……あ、あの……こ、これを……」


 春ちゃんが俺の手に握らせたのは、小さな布製の袋。

 きゅっと紐で口を縛ったそれに、俺はちょっぴり見覚えがあった。


「これって、お守り?」


 俺が桃色の小物をしげしげと眺めていると、お姉さん方がぱん、と手を叩いた。


「さっすが久遠様、お目が高い! こりゃあ春が、神祓師はらえしとして活動する久遠様の無事を祈って、裁縫も苦手だってのに一人で作ったもんですよ!」


「任務で大変だと思いますが、そんな時はお守りを見て、春を思い出してくださいね!」


 そうか、やっぱりこれはお守りなのか。

 死と隣り合わせの荒魂械あらかせ討伐任務から無事に帰って来られるようにって、そんな思いを込めてくれたんだな。


 よくよく見てみれば、春ちゃんの指には絆創膏が巻かれている。

 指をけがしてまで作ってくれる人に面倒を見てもらえるなんて――こんなに心配してもらえるなんて、俺はなんて幸せ者なんだ。


 胸にこみ上げるじーんとした感情と共に、俺はお守りと一緒に春ちゃんの手を握った。

 少しだけタッチが多いかもしれないけど、感謝を告げるのにオーバーなことなんて何もないってのが、俺の持論だからさ。


「……ありがとう、春ちゃん。俺、大事にするよ」


「あ、あう……」


「春ちゃんのお守りがあれば、きっともっと頑張れると思う。お姉さんも言ってたけど、辛い時だってお守りを見て、応援してくれてるんだって元気になれるよ」


「え、ええと、その、あの……!」


「だから春ちゃん、これからも――」


 そして俺の気持ちを伝えているうち、春ちゃんに変化が起きた。


「……きゅう」


 全身から湯気を噴き出して、そのまま気絶してしまったんだ。


「わーっ! 春ちゃんが倒れたーっ!?」


 慌てる俺の前で、お姉さん方が春を介抱する。

 しかもなんだか、俺の方を見てにやにや笑っているんだ。


「もう、久遠様のせいですよ!」


 なのにぶつけられる言葉はこんなのだから、もうわけが分からない。

 俺が何をしたってんだ、ただ春ちゃんにありがとうって伝えただけなのに。


「なんで俺のせいなの!?」


「うちの春を本気にさせた責任は取ってもらいますからね、久遠様!」


「責任って何なんだよーっ!?」


 どうして春ちゃんが気絶したのか、使用人の皆が楽しそうなのか。

 父さんと母さんに聞こうとしても、二人も同じようににやついて、まるで俺のリアクションを見るのが楽しいって言わんばかりの顔をしてる。

 刹那に聞こうとしても……ピーマンと格闘中で、とても話しかけられなさそうだ。


 ああもう、何がどうなってるんだか。

 そんな疑問を残しながら、お祝いの夜は更けていった。




 ――この後、目を覚ました春ちゃんが俺を見てもう一度気絶するのは、また別の話。

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