何度も目を疑った夜

輝人

第1話 塾の終わり

塾が終わり、寒さに震えながら駅へ向かう途中だった。スマホを取り出し、ふとLINEを開いた瞬間、俺は足を止めた。


「……え?」


目を疑った。いや、何度も疑った。何度も画面を見返し、スクロールしては閉じ、また開いた。それでも変わらない。そこに表示されているのは、華乃からのメッセージの嵐だった。


「今何してる?」

「塾終わった?」

「ねえ、もう帰ってる?」

「既読つかないんだけど、大丈夫?」

「無視?」

「おーい?」

「……怒ってる?」


怒涛のメッセージ群に、心臓が一気に跳ね上がる。そんなに俺に用があるのか? いや、そもそも華乃ってこんなにLINE送ってくるタイプだったか? 俺が既読をつけない間に、一人で会話が進んでいる。


恐る恐る最後のメッセージを開いた。


「もういい。おやすみ。」


「え、えええええええ!??」


駅前で叫びそうになるのをなんとか堪えた。ヤバい、どうしよう。返信するしかない。すぐに指を動かした。


「ごめん! 塾だった! いま帰り!」


すぐに既読がついた。


「……ふーん。ならいいけど。」


怒ってる!? いや、これは絶対に怒ってる! 慌てて追いメッセージを送る。


「ほんとにごめん、塾のあとLINE気づかなかった!」


「……本当?」


本当です!! というか、華乃、いつもこんなにメッセージ送る人だったっけ!? 俺が寝落ちしたときは「ゆっくり休んでね」とか送る余裕があったはずだ。でも、今日は全然違う。


「華乃、どうしたの?」


少し間があいて、華乃から返信が来た。


「……ただ、話したかっただけ。」


「……っ!」


心臓がまた跳ねる。寒さも忘れ、俺はスマホを握りしめたまま立ち尽くしていた。


「今から電話できる?」


送った瞬間、コールが鳴る。こんなにすぐかけてくるなんて。俺は驚きながらも通話ボタンを押した。


「もしもし……」


「……遅い。」


華乃の拗ねた声が、イヤホン越しに静かな夜道に響いた。

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