第33話 取り調べ後

「父上、あのような無茶をしてしまい、申し訳ありませんでした!」


 取り調べの後、春之助は、廊下を歩く父親の前に走り出ると、正座して頭を下げ謝った。


「あのは、褒められたものではないな」


 春之助の父親はそう言ったが、顔は怒っていなかった。


「だが、無実の罪で刑に処せられるのを防いだのは良かったぞ。早く清吉がのところへ戻れるよう、急ぎ手続を進めなくてはな」


 春之助の父親は、そう言ってニヤリと笑った。


「はい!」


 春之助が元気に返事をした。



† † †



 その晩、いつものように食事と風呂を済ませた春之助が、自室に戻ってきた。行灯あんどんに火をともし、女中が持ってきてくれた炭を火鉢に入れると、女中が去って行ったことを確認して小声で囁く。


「まだいらっしゃいますか?」


 小野が消えるくんのボタンを押して姿を現した。学生服姿にリュックを背負い、帰り支度を済ませている。


「もう、帰られるのですか?」


「うん。ここまでくれば、もう安心だからね」


 小野が笑顔で答えた。春之助が小野に頭を下げる。


「本当に色々とありがとうございました」


「いやいや、こちらこそ本当にありがとう」


 小野も頭を下げた。春之助が小野に聞く。


「あの、もしよろしければ、お名前をお教えいただけませんか?」


 小野は少し考えてから言った。ここまで関わったのだ。名前くらいいいだろう。


「小野、小野あつしだよ」


「小野篤殿ですね。またお会いできる日が来るでしょうか?」


「春之助君があの世に来るときに、もしかしたらね」


 そう言って小野が笑った。


「まだまだあの世には行きたくないですが、またお会いできる日を楽しみにしています」


 春之助も笑った。


「それじゃあ行くね。春之助君、どうか素晴らしい吟味方与力になってね!」


「はい、必ず!」


 力強い春之助の返事を聞いて、笑顔でうなずくと、小野はタイムリモコンのホームボタンを押した。



† † †



「ただいま戻りました!」


 第128部門の執務室。小野はいつものように挨拶した。


「お疲れ様。上手くいったかな?」


 久場が自席から聞く。小野が笑顔で答える。


「はい、無事に清吉さんの冤罪を回避できました。流れで清吉さんとお仙さんが結婚することになりましたので、お仙さんも大丈夫だと思います。他の方の人生への影響が許容範囲内であればいいのですが。ただ……」


 小野が心配そうな顔をして続ける。


「ただ、色々ありまして、私が冥官みょうかんであることが春之助君にバレてしまいまして……」


「ああ、冥官であることを悪用してなければ問題ないよ」


 久場があっさりと笑顔で答えた。良かった。小野は胸を撫で下ろした。


「それじゃあ司命しみょう様、春之助さんとお仙さんのその後を確認してみますね」


「ありがとう、よろしく」


 久場の了解を得て、阿佐美がノートパソコンで調べ始めた。


「はい、お待たせしました。春之助さんは、その後も真面目に努力を重ねて、立派な吟味方与力になっています」


「83歳で老衰で亡くなっていますが、臨終時幸福度は暫定値で90。文句無しの天国行きですね」


 良かった。後悔のない人生を歩んでくれたようだ。


「次にお仙さんですが、清吉さんが婿入りする形で結婚したようですね。堀端屋は繁盛し、幸せな人生を歩めたみたいです」


「60歳の時に肺炎で亡くなりますが、臨終時幸福度は暫定値で88。こちらもクリアですね。他の方の人生への影響も許容範囲内です」


「おお、一つの並行世界で一気に2件クリアなんて、凄いじゃないか」


「ありがとうございます!」


 久場の称賛に、小野は笑顔で頭を下げた。



† † †



 小野達がいつものように執務室の応接セットで休憩がてらお茶を飲んでいると、阿佐美のタブレット端末の着信音が鳴った。


「第502部門から連絡が来ました。お仙さんは、無事に審査を終えて、これから天国へ向かうそうです」


 あれ、春之助君は? 小野は少し不安になった。阿佐美が話を続ける。


「春之助さんも天国へ行く予定だったのですが、閻魔様の呼び出しがあったそうです」


「閻魔様の呼び出し? と言うことは……」


 小野が驚いて聞くと、阿佐美が笑いながら答えた。


「小野君同様、冥官に採用される可能性大ね」


「春之助君の配属先が決まったら、飲みにでも行こうか」


 久場が笑顔で言った。


「はい、是非とも!」


 まさか、こんな形で再会できるとは。小野は嬉しそうに何度もうなずいた。

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