第20話 中洲へ
辺りが明るくなってきた。もうすぐ日の出だ。
藤一郎達が下流に進むと、宇治川の中洲に何騎かが辿り着いていた。その中洲から、上半身裸で頭の上に服を巻き付けた少年が、歩いてこちら岸へ戻ってくる。伝令だろうか。藤一郎と同じか少し年下に見える。
水深は少年の腰から胸の辺りのようだ。少年は、かなり下流に流されたものの、無事にこちらの岸へ辿り着いた。
爺がその若者が歩いた辺りを指差した。
「藤一郎殿、あそこなら渡れそうですぞ!」
「よし、行こう!」
藤一郎達は中洲の手前、少し上流の川岸へ進んだ。
宇治川は依然として増水していて白波が立ち、時々上流から流木や人馬が流れてくる。
藤一郎が真面目な顔で爺と小野に行った。
「爺、
それを聞いた爺が笑った。
「藤一郎殿。私は若い頃から泳ぎが得意でしてな。心配ございません。そもそも藤一郎殿に館近くの川で泳ぎをお教えしたのは、この爺であることをお忘れか」
「僕は、こう見えて意外と力がありまして。浅瀬であれば問題なく渡れます」
小野は笑顔でそう言うと、閻魔庁特別仕様の手袋を両手にはめた。これで、身につけている服がパワードスーツ的な機能を発揮して、問題なく渡河できるはずだ。多分。
「ありがとう。よし、では行くぞ!」
藤一郎は笑顔で爺と小野にそう言うと、馬を操り川に進んだ。馬の右、上流側に小野が、左、下流側に爺が付き従った。藤一郎が馬をなだめながらゆっくりと川に入った。
小野も川に足を入れる。水の流れが早い。一気に足を持って行かれそうになり、慌てて踏ん張る。閻魔庁特別仕様の服が機能しているのか、幸いそれ以上流されなかった。一歩一歩、中州に向かって進む。
一気に腰の辺りまで深くなった。閻魔庁特別仕様の服を来ていても、気を抜くとすぐに流されてしまいそうだ。馬の下流側にいる爺も、流されないように槍を杖代わりにして必死に進んでいる。
小野のすぐ右側に矢が飛んできた。官軍が藤一郎達の渡河に気づき矢を放っているのだ。鉄砲や
小野は恐怖と戦いながら、分子解離銃を広角モードにして右手に握りしめた。上流からの漂流物と、上空からの矢を交互に見ながら前へ進んだ。
「気をつけろ! 流木と馬だ」
藤一郎が叫んだ。小野が右手、上流を見ると、大きな流木と上流で射殺された馬が流されてきた。
藤一郎は馬を前へ急がせたが、川の流れもあり思うように進めない。このままだと流れてくる木と馬を避けきれない。
小野は、分子解離銃を使おうかと思ったが、何となく流れてくる馬に使うのが怖くなり、パワードスーツの機能を信じて、流木と馬を受け流すことにした。分子解離銃を懐に入れると、流木と流れてくる馬の前に立ち塞がる。
「篤、危ない! 避けろ!」
「どっせーい!」
小野は流木と流れてきた馬を両手で押しとどめると、横へ受け流した。流木と馬は、藤一郎達に衝突せずに、下流へ流れて言った。
「おお、なんたる
「あ、いえ、たまたま口から出ただけでして……」
藤一郎に聞かれて、小野は変なかけ声が出たことに気づいて顔を真っ赤にした。
向こう岸の官軍も、小野の怪力に驚いた様子で、矢を放つのが止まった。
官軍側であるにも関わらず、手を叩いて喝采する武士もいた。髭がモジャモジャ、筋肉ムキムキの、いかにも強そうな武士だ。
敵ながらあっぱれということだろうか。この時代、そういうノリも許されるようだ。属人的なものかもしれないが。
そうこうしているうちに、藤一郎達は何とか中州に辿り着いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます