第2章 101回目の正直
第17話 野路の酒宴
「
小野が、まだあどけなさの残る16歳の華奢な若武者に笑顔でアドバイスした。それに
「さあ、深呼吸してくだされ。ここは藤一郎殿の堂々たる立ち振舞いを見せてやりましょうぞ」
「分かってる、分かってるけど、ま、まさか
小野と爺のアドバイスを受けて、若武者が緊張した面持ちで陣幕へ向かって歩き出した。
ここは、承久3年6月12日、西暦だと1221年7月3日の夕方。琵琶湖南東の
小野は、今回のサポート対象者である若武者、
藤一郎は、
この戦は、後に「承久の乱」と呼ばれることになる。
藤一郎は、この2日後、宇治川の戦いで溺死するのだが、臨終時幸福度が低かった。
そのため、臨終時幸福度を上げて天国へ行けるよう、並行世界で別の人生を歩んでいるのだが、何とこれが101回目という状況だ。なかなか臨終時幸福度が上がらない。
そこで、今回は例外的に付きっきりでサポートすることになったのだ。関係者への記憶操作等は事前に阿佐美が実施済みだ。また、言葉の違いについては、小型翻訳機を使って対応している。
藤一郎の人生の岐路は2つだ。
一つ目は、今日、この後に北条泰時から飯を頂く際に、緊張のあまりしっかり挨拶できずに恥をかいてしまう。ここで、何とかしっかり挨拶できるようサポートする必要がある。
そして、二つ目は、明後日の宇治川の戦いで活躍できずに溺死してしまう。ここで、無事に渡河した上で活躍できるようサポートする必要がある。
まずは何とかして北条泰時との謁見をクリアしなければ。小野は、自分の緊張が藤一郎に伝わらないよう、笑顔を絶やさず、爺と一緒に藤一郎に話しかけ続けた。
† † †
藤一郎、爺及び小野は、陣幕の中に入った。陣幕内の左右には、いかにも強そうな武将が並び座り、正面には、おそらく北条泰時と思われる武将ともう一人の武将、あと藤一郎と同じくらいの年と思われる若者の武士が座っていた。
その3人の手前には、藤一郎の上司、幸島四郎が座っていた。酒宴の真っ最中だ。
幸島四郎の横には、すでに陣幕内に案内された幸島四郎の部下が控えていた。一番若い藤一郎が最後に呼ばれたのだ。
正面の武将のうち、やや若く見える方が、幸島四郎に聞く。
「四郎よ、あの若者か?」
「はい、武州殿、我が父の代からの郎党である桜田三郎の息子、藤一郎でございます」
質問したのは北条泰時だったようだ。幸島四郎が答えた。本当はもっと堅苦しい会話なのだろうが、翻訳機のお陰で分かりやすい。
「おお、次郎庄司にいつも従っていた三郎の息子か。藤一郎とやら、こちらへ」
北条泰時に呼ばれて、藤一郎が手のひらに「人」の字を書いて飲む仕草をした。緊張した面持ちで前に進む。いよいよ、藤一郎の人生の岐路の一つ目が近づいてきた。
† † †
「藤一郎殿、素晴らしいお姿でしたぞ」
「本当です。ご立派でしたよ!」
「ありがとう。爺と篤のおかげだよ」
酒宴が一区切りし、小野達は陣幕を出て今晩寝泊まりする木の下に集まった。
藤一郎は、緊張しながらも大過なく挨拶を済ませ、北条泰時から飯を賜った。藤一郎だけでなく、従者である爺や小野も飯を賜ったのは意外だった。
地べたに座り、ホッと一息ついた藤一郎の顔から笑みがこぼれる。
実は、藤一郎はこの一つ目の人生の岐路で30回ほど失敗していた。「人」の字を手のひらに書いて飲むおまじないが効いたのだろうか。幸い復原力による妨害もなかった。
とにかく一つ目の人生の岐路は無事クリアできたようだ。小野は心の中でガッツポーズをした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます