『なな~転生~』

阿知尚康

第1話

季節は夏。


ある日、六歳の娘のななが連れて行って欲しい所があると、珍しく駄々をこねてきた。


「じゃあ、ママのお手伝いをすれば連れて行ってあげるよ」


とパパは冗談交じりに言った。


その時、ちょうどママはベランダで布団を干していた。


パパの言葉を真に受けたななは、”布団叩き“を手に取って、ベランダに出て布団をバシッバシッと叩き始めた。


「まぁ、ありがとう! ななは、本当に気が利くわね! ママは嬉しいわ!」


「エヘヘ」


照れ笑いをするなな。


「お手伝いをしたから、宜しくね! パパ!」


「仕方がないなぁ…… 分かったよ……」


「ヤッター! ありがとう、パパ大好き!」


しかし、ななが行きたがっている所は、ななが生まれてすぐ位の時に行ったきりで、実に六年前になるので、記憶がある訳がないと不思議に思いながらも、お盆休みを利用して約束だから行く事にした。


こうして、不思議な珍道中が始まったーーーー


目的地に向かう途中の電車の中で、ななが突然尿意を催した。


「電車の窓から外の景色を見てごらん」


とパパがななを促した。


すると、ななが川を指さしてーーーー


「川の流れを見ていれば、オシッコをした気分になって、オシッコをしたい事を忘れる事が出来るんだよね」


と唐突に言った。


その言葉を聞いたパパは、特に気に留める事もなく、とりあえず尿意を我慢してくれる事になったので、一安心して聞き流した。


そして、数十分経って目的地の最寄り駅に到着した。


当然、向かった先は駅のトイレ。


パパは、ななをママに託した。


一通り自分で何でも出来るようになり、生意気になったとは言えど、まだ六歳のななを一人で駅のトイレに行かせるのは心配だから。


しかも最近、変質者が出たり物騒な事件も多いので、ママと一緒に行って貰う事にしたのだ。


しかし、女子トイレは行列が出来ていて、少し待つ事になったようだ。


「ママ! 漏れるよ〜〜」


ななは、足をジタバタしてママに言った。


「もう少しだからね」


ママは、そう言うしかなかった。


電車の中でも我慢していたので、もう限界かと思った瞬間。


やっと順番が回ってきた。


パパは、ななとママを待っている間ーーーー


ふと、おもむろにさっきの電車の中での出来事を思い出した。


あの時は、スマホをいじっていた事もあり、あまり気にも留めずスルーしてしまったのだが、よくよく考えてみると、ななの言葉が気になり始めた。


それもそのはず、あの尿意を我慢するやり方は、パパが子供の頃に聞いた言葉だったからなのだ。


何故、ななが知っていたのだろう…………

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