05-2 ナスの食卓

 無論そうだが、物事には手順がある。

 彼は二つ返事で受け入れた。


「いいとも、行っておいで。若いうちは無茶をするものだ」


 そう宣う老人は、まるで全てを知っていて、その全てに関して余裕を持って受け入れられるという顔貌をしていた。


「いい体験になる。どうせ彼女の頼みなのだろう」


 事情も見透かされているらしい。

 食卓に並んだ色んな調理のされたナスが電灯の明かりを浴びる。


「いいのか? こんな簡単に」

「勿論。むしろ、そうでなくてはここではやっていけない」


 ひと齧りすると果肉があふれる。染み込んだ油と塩味が心地よかった。


「彼女、クトウとは顔馴染みだから、こちらのことは気にしなくとも良いよ」

「――本当か? 前任者というのは……」

「前任者というよりも創設者というのが正しい」


 創始者? そんな年齢の人間には見えなかったが。


「ちなみにクトウ……さんの年齢は」

「わからない」

「わからない?」

「僕は四半世紀ほどここにいるけど、つい先日辞めるまで彼女の容姿は一切変わっていない」


 彼は当たり前のことのように言う。


「まあ不死の類にせよ、神秘的な技術を持つ何かにせよ。気づかないだけでこの街にはそういう類はたくさんいる。特にこの仕事をしているとね」


 はにかみを見せる。

 年長者の余裕に見えるが、おれには知らない世界の扉に見えた。


「君も今回は"遭った"わけだ。振り回されてみるといい。きっと後悔――いや、いい経験になる」


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