04-3 植指者

 夢の野原から目覚めるとき、いつも小重廟の前にいる。

 もうすでに街は陰に覆われてしまって、場所によっては夜みたいだった。


 ユタはもう顔を出さないだろう。

 用が済んだらそれでおしまい。

 何を話すわけでもなく、何かに付き合うわけでもない。

 必要なものを交換するだけの不思議な縁だった。


 私はそれから、メモリーキューブを取り出して、自分のコネクタへ繋げる。

 このデータは読み出すのに時間がかかるだろう。

 予定ではまだ少し時間が余っている。

 目的地へ向かうのは少し散策してからにしよう。


 屋台の群れにはもうランプの幻想的な光が灯っていた。

 まだ太陽は出ているのに、日の光が遠い。

 構造から光が滲んでまだ夢の中にいるようだった。

 こうして見ると、あのメガストラクチャが雲より高いことが伺える。


 レイテルの巨大な官公庁舎。

 この莫大な都市の手続きを満たすためにはあれだけ巨大なものが必要らしい。

 あそこの中にいるのは、統治機構の中でもほんの一握り。

 混沌の都市の中にいて、統治主体たるハベルの権威を知らしめる最後の虚勢。

 私にはそのように思えてならなかった。


 塔の方角へゆっくりと歩いていたが、道端に群衆が集まっているのを見かけた。

 何か見世物でもやっているのだろうか?


 群衆の中から出てきた若い女性を捕まえて中の様子を聞いた。

 どうやら観光客のようで外の友人に荷物を預かってもらっているらしい。

 

「わかんないんだけどね。異形エフィメラってやつ? 死体みたいなのがあってね」


 異形エフィメラ? こんなところに?


「どんな形?」


「思い出させないでよ。すごい気持ち悪かったんだから。なんか指がたくさんついてて……」


 冷汗が噴き出す。


「おい! 今すぐここを離れろ!」


「いきなりなんなの!?」


「いいから、連れと一緒に逃げるんだ」


「は、はあ?」


「行け!」


「もうなんだって」


 女は渋々ながらも走り出した。

 今の剣幕で、私は群衆の注意を引いていた。

 だが、人々が散らばる様子はない。


「みんな散るんだ! できるだけ遠くに逃げて!」


 不審な目を向けながら散っていく人込みと群衆をかき分けて、私はそれと対面する。

 大量の指。それがあたりに散らばっていて、巨大な体躯に屋台が一つ潰されていた。

 店主と思われる人影がテントの下敷きになっているのが見える。


 植指者ウューネーだ。間違いない。


「ここは危険だ! みんな散るんだ!」


 最近、出没頻度が上がっているというのは耳にしていたが、まさか教都にも表れていたとは。


 言語を変えて呼びかける。

 二つ三つ変えたところでようやく人はまばらになった。


 まずは店主をどうにか助けよう。

 

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