Extra. 長話「垂乳根」
亜脳工廠小説執筆部
一章 ワークライフ
熱がでました
寝返りを打つと鈍い衝撃が頭から爪先までを駆け巡る。
……頭痛がする。身体の節々が痛くて、呼吸が熱かった。
寝ぼけた眼を開きかけたとき、部屋に母の声が響いた。
「セレナ? どうしたの。酷い腫れ……」
母は私の胸元を見てそう言った。
「何でもない……」
「何でもないって、何でもなくないでしょう」
平たい胸を触ると、細かな腫れが、ブツブツと身体の表面に浮かんでいるのが分かった。
母は額に手を当てて言う。
「今日の学校はいいから、早く病院に行きましょう」
重い朝食を食べ終えると、車に乗せられて、街の風景を眺めていた。
通学途中の生徒達、街並みに並べられた母性の像、早朝の街を行く車の縦列……
見慣れた道のりから外れて、車は街の坂道を行く。
遠くに大きな教会が見える場所まで登ると、その光景を振り切るように車は建物の群れに侵入した。
そうして、いくつかの路地を曲がった先にそれはあった。
こぢんまりとした診療所。
予想通り、ここは今日も閑古鳥が鳴いていた。
診療所の中に入ると、センサーに手首をかざして、健康保険の認証をする。
数秒もたたないうちにそれは終わった。
すると気だるげな医者が一人出てきて、大きめの眼鏡を抑えながら言う。
「ああ、ではこちらに」
医者はあくびをしながら自分のデスクの前に座った。
私は黒いスツールに座って、いくつかの質問に答える。
聴診器を当てられるのは好きではない。ひやりとして、怠い体に響くのだ。
赤い腫れを見ると医者は「ああ、イス熱ですね」と端的に言った。
「思春期の子供に多い病気です。ストレスや疲労で罹りやすい。抗生物質を出しますから、一週間ほど安静にしていてください」
問診はあっけなく終わった。気怠い身体を引きずった苦労が嘘みたいだ。
ロビーでしばらく待っていると、医者の妻だという薬剤師が処方箋を持って現れる。
あまり見ない人だ。艷やかな赤髪の、笑顔の綺麗な女性だった。
彼女の簡単な説明の後、処方箋を渡された。
「お大事に」という言葉に送られて診療所を後にした。
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