01-4 下水処理層 入口

 12時間後・・・・・・


 最下層。大井戸の中でとぐろを巻いていたパイプは地面に埋まっていた。

 ここはゆるやかな坂道になっていて、汚水の滝壺たきつぼとその先へ流れる水の音が聞こえている。


 視界はますます暗く、彼らは、甲冑かっちゅうからわずかに伸びるライトの光と、ソナーによって感知された地形によって知覚を確保していた。



……頭が痛い。


頭痛はひどくなる一方だった。錫杖は甲冑の下で顔をしかめる。


なんだこの感触は? 頭と身体が追従ついじゅうしない。


錫杖は背骨に違和を感じた。皮膚の下で虫がうごめくような。


変化は、急速に訪れた。



 甲冑がいびつな音を上げる。

 聞いたことも無い、カリカリと内側から叩く音。


 初めに異変に気づいたのは長槍だった。


『おい』


  ぐちゃり


 錫杖が聞いたことのないような声を上げる。


  おお、おおおおおお、おおおおおおおおお


 異様な声が甲冑内でくぐもる。

 突然の発狂に誰も声を発せなかった。


 人でないように暴れる腕が自らの兜を捉える。


 両手剣はあせりながら問い詰めた。


『何だ!? イマルフ? 何があった!』


天啓てんけいだ! 天啓が降りたのですよ! 聖職者にとってこれほど喜ばしいことはない!』


  はははははははは


 暴れる腕が、ガスマスクを取り外すために金具を取り外し始めた。


『馬鹿野郎! こんなところでマスクを外したら死ぬぞ!』


 機関銃が錫杖を取り抑える。

 だが、彼はまるで樹のように動かない。


 この場には有毒なガスが沈殿ちんでんしている。マスクを外せば、卒倒そっとうすることは避けられない。



 錫杖の腕は、まるで骨がなくなったかのようにのたうち回った。

 内側から何かが引っかく音はさらに大きく、せわしなくなっていく。


  ひひひひひひひひひひひひひひひひひひひいひひひひひひひひ


 そして、変化はあっけなく露呈ろていした。


 金具は人の手で外れるまでもなく、その殆どが破損して飛び散った。


 錫杖を取り押さえようとしていた機関銃は兜の外れた衝撃で投げ飛ばされる。



 のたうつもの。ぬるぬると甲冑を飛び出して、錫杖の身体を飛び出して、何かが飛行していく。


 誰かのライトがその正体を照らした。


 血走った目の頭部、そこから生える、血みどろの背骨。

 奇怪きかいに歪んだ老人の顔貌がんぼうだ。


 一瞬だけでも吐き気を催すそれは、錫杖のイマルフの頭部と脊髄せきずいそのものだった。


 "それ"はライトの視野から瞬時に外れた。


 それは恐らく、飛んでいる。

 非情な悪環境をものともせず空を飛行し、どこかへ消えた。


 残された三人は、それを放心しながら理解していた。

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