他人アレルギィ―人嫌いなサイコメトラーと、人間という怪異―
人野形
厭世サイコメトラ、捕まる
第1-1話 サイコメトラと捜査協力
『次の角を右折して、突き当たりの雑居ビル』
ボイスチェンジャーでも使用しているかのような冷たい機械のような声だった。
しかしその声の苛つきを斉藤仁はサイコメトリで読み解いた。
能力者を人間とみていない嫌悪感、その独特の表情がありありと浮かんでくる。
——やな感じ。
「キモい」とか「クズ」とかいう言葉を仁は口には出さなかった。
装着させられたスマートゴーグル(機器型番:GAG114S)の端で位置情報と視覚情報の転送を知らせる緑ランプが点滅する。能力者にとってこのデバイスは他人と心を繋ぐための道具ではなく、監視されるための拘束具に過ぎなかった。
「はい……」
と、仁は一応の返事だけして、何も考えずに歩みを早めた。
街を歩くと、ショーウィンドにうっすらと影が射した。まだ高校に入学したばかりで、制服を着慣れていない少年の姿だ。
仁の瞳にはそれらすべてが映っているわけじゃない。だけど客観的なその情報を正しく認識していた。
こういうちょっとした事が全能感に浸れる幸せな時間だ。
サイコメトラは世界のすべてを知っていた。
例えば、仁が今すれ違った女性は三十四歳で、身長は158センチメートル、体重は48キログラムだった。
その女性に仁は特に気を止められてはいなかっただろう。しかし、彼女の深層心理には制服を着せられている少年の印象が一瞬だけちらついたのだ。
――たぶんそうだろうという想像ではなく。すれ違った赤の他人の年齢や認識までもその能力が正確に読み取った。
仁はサイコメトラと呼ばれる超能力者だった。それも格別に能力が高かった。
「ありました。本坂町第二ビル」
仁はビルのプレートに記載されている名前を読み上げた。
確認のためだ。
『見つけたなら早く行け。アルバイトとはいえ、仕事だからな。時間を無駄にするな』
相手の言葉にはトゲがあった。
「はい」
仁はその態度に苛ついたりはしなかった。
規範人(超能力をもたない人間)は超能力者に対し忌避感を持つ。差別意識が根強いこの国ではこの反応は茶飯事だった。
それは仁のように超能力試験に合格した国家試験持ちでも、未成年の超能力者の扱いは酷いものだ。
今日のようなアルバイトにしても学校からの斡旋でもない限り、無理なのだ。
そもそも超能力者は規範人のように職に就くことができない。
『そこの四階が空き巣に入られた』
アルバイトといっても、その内容は規範人の同年代と違い特殊だった。
「このビル、現在は誰もいませんよね」
仁は確認した。超能力を使用するためのものだ。人の気配が少ないほどノイズが減って、サイコメトリから得られる情報は正確になる。
『いない。そういう手筈だから、探ってみろ』
サイコメトラで多いのは警察が管轄する事件現場の捜査協力となる。
実際、仁がスマートデバイスから受けている指示というのは警察官によるものだった。
サイコメトリで読み取ると犯人の割り出しは格段に早く正確になる。
「では、入りますね」
『分かったから。早くしろ』
指示役の警察官が言った。スマートデバイスから聞こえる音声はどこか苛立っていた。
仁もこの指示役の警察官と直接の面識はない。流石にデバイスを越えてサイコメトリは働かないので感情や意識といったものは声色で読み取るしかない。――もっとも、超能力者に対する規範人の態度というのはおおよそこんなものだ。
今回はまだマシなほうだ。言葉の端々にトゲがあるぶん幾分か可愛げがあった。
仁はビルの最上階、四階までの階段を上がりながら、徐々に集中力を高めていった。
きっかけは何でもいい。なくてもいい。
仁の履いている革靴は新品で歩くとソールから乾いた音がした。
足音がする。
どこかリズミカルでさえある。
音が耳の奥の方まで入っていく。
その音は聞こえているはずなのだが、聞こえなくなった。
――今日は特に調子が良い。
四階に着いた。
薄暗い。気味の悪い感覚と、現在から徐々に過去に遡っていく映像が仁の脳内を占領した。集中している分、それがより鮮明だ。
「……犯人の逃走経路がわからない」
能力で頭の中にイメージされる映像にところどころノイズのようにボヤケが入る。
『だめじゃないか』
担当の警察官は嘆息した。
「いえ、能力者ということです。急に犯人達はいなくなった。だから能力は察しがつきます」
『どういう事だ?』
「すくなくとも一人、空間跳躍の能力を持っているということです」
サイコメトリは万能ではない。すべての過去に遡って読み切ることはどんなに優れた能力者でも無理だった。特に物理法則を無視し、事象を改変する能力者に対して無力になることも多い。
ただそこには不自然な結果が残る。
それが何の能力で起こったのかまではサイコメトリで読めないが、結果からの推察は可能だ。
そこにいたはずの人間が急にいなくなる。
と、なると。
物を自在に動かせる念動力系か、拠点間を瞬時に移動する空間跳躍系の能力になる。どちらもやっかいな能力だ。
それで今回の場合は一瞬で複数人の人間が誤差なしで突然いなくなっていた。念動力系の能力者だと複数人を移動させると、それぞれの移動に若干の誤差が出る事が多いし、壁などをすり抜けて移動することは不可能だ。
そしてその誤差を仁はサイコメトリで読み取る事が出来る。
だからおそらく空間跳躍系の能力が使われているだろうとアタリをつけたのだ。
『犯人の数は』
「三人です」
『なるほど、確かなようだ。こちらでも犯人は三人程度と分かっている』
やはり嫌いだ、と仁は思った。能力を疑うように抜き打ちでテストしてくる。そのうえ重要な情報を隠している。
『面倒なことになった』
指示役の警察官がぼやいた。
「学園(ウチ)に依頼して貰えれば、専門の部隊を用意できますよ」
『そういうことじゃない』
と、指示役は惘れるように言う。
「どういうことです」
仁は優秀な能力者(サイコメトラ)であるが、まだ十五歳で経験や社会常識に乏しかった。
『今回の事件の裏についてる組織が問題かもしれないということだ』
指示役は面倒そうに言った。全部を説明する義務はないという様子でそれから少し音声が途絶えた。周りの人間と協議しているのだろう。
その様子はこちらには伝わってこない。
「で、どうします?」
仁は次の指示を促した。
『もう一カ所調べて欲しいところもあるから、そちらに行って貰おう』
すこしうんざりとしながら仁は端末を見た。
これが超能力者の常なので仕方ない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます