百合属性のなかったわたしがVTuberをはじめたらガチ百合勢に全力でわからせられてしまってこれから誰をパートナーにするか悩んでる

果実

プロローグ

1再生【らりるれろは、わたしときみをつなぐ合言葉だよぉ】

 これは、吹けば飛ぶような弱小Vtuber事務所“AMENOHOSHIアメノホシ PRODUCTIONプロダクション”に所属するわたしたちが、赤裸々に綴る輝かしい成長の記録である。


「――好きよ」

「え?」


 思わず目を見開いた。

 口からは、間の抜けた声がこぼれてしまう。


「好き好き大好き~♡」

「へ?」

「好きじゃ」

「え? え? え?」


(――???)


 きょとん。

 まさにその一語がぴったりと当てはまる、そんな顔をしたわたし。


「「「だから」」」


 全くもって何が起きているのか分からない。

 頭の中がひどくぐるぐるする。

 でも、わたしの理解を超えて、それは突然告げられた。


「われが」

「あんたが」

「みゃーこちゃんが」


 ――さて、ここからは物語が過去へと遡っていくのです。


 NyuTubeニューチューブのライブ配信画面に、猫又のような見た目の可愛い女の子が映っている。


「らりるれろ~♪ ニャンコだと思ったぁ? 残念! 食いしん坊ワンコの“リリカル・リッツ・リリパット・リエンタール・リリム・リジョイス・リン・リ・リラージュ・リンカリンカ”、略して“リカ”だよぉ~!」


 そう言って始まったライブ配信画面には、犬耳カチューシャをつけたわたしが、はしゃぐように大きく身体を揺らしている。


 “らりるれろ”は、五十音の中でもひときわ柔らかな響きをもつ、私にとって特別に好ましい音である。

 念のため付け加えておくが、決して“らりっている”わけではない。


「にゃー!」


 わたしは甘ったるい猫なで声でリスナーのリビドーを刺激する。


「いや、われ、犬じゃないんかいっ!」


 朋友ポンヨウからの正鵠を射た鋭いツッコミが入った。


 仁義なき戦いの菅原文太のようなどすの効いた喋り口調が、突如ヘッドホンから聞こえ、わたしの耳はキーンとする。

 ライブ配信画面には、わたしの他にもう一人、黒髪ロングの清楚系美少女(おっぱいがでかい)が映っている。


「出たわねぇ! 真面目の皮をかぶったスジモン! アウトローは早く広大な自然に帰りなさぁいっ!」

「誰がスジモンでアウトローじゃ!」


 声とは裏腹に硝子のように繊細な美少女が叫んだ。


「スジモンマスターとして命令するよぉ! さっさと自己紹介しなさぁい!」

「えー、皆さんご存知じゃろうけど……、『おどれに銃と殺意をお届け』、仁義ある“慈良しらんがな”じゃ☆」


 ライブ配信画面に煌びやかな星が舞う。


「いつも通り“んがちゃん”って呼んでくれんさい」


 わたしたちは笑顔で大きく身体を揺さ振る。


「で、われはわしに何の用じゃ?」

「もうっ! 分かってるくせにぃ~!」

「何にも分からんわ」

「スジモンとスジモンマスターが出会ったら、やることは一つでしょ?」


 わたしはジト目で含み笑いを浮かべる。


「スジモンバトルか?」


 んがちゃんがきょとんとした顔で首を傾げる。


「分かってるじゃない! じゃあ、早速するわよぉ〜。みんな大好き、『百合ックス』を~!」

「ちょっと待て! 百合ックスってなんじゃ!?」

「細かいことはいいから! 早くチュッチュしよぉ~っ!」

「落ち着け! わしにも心の準備があるけぇ!」

「準備が終わったらいいの?」


 すー、はー。

 んがちゃんが大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出している。


「よぉ、歯はちゃんと磨けよ。わしはもう帰るけぇ」

「ちょっ! 勿体ぶった癖に結局帰るってどういうことぉ!?」

「……だって、わしの家、今日、“たこパ”なんじゃもん」


 たこパかぁ……。

 家族みんなでたこ焼きを作って食べるの楽しいもんなぁ。


「じゃあ、仕方ないね」

「そがいじゃろ?」


 チーズ、ウィンナー、コーン、キムチ。

 たこ焼きに合う好きな具材を思い浮かべるだけで、胸がわくわくしてくる。


 人類にとってたこパとは、抗うことの出来ない絶対的なものであることをここにお伝えしましたぁ。

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