作業療法士の1日 ドキュメント小説
coffee+
第一章:「朝の始まり」
午前8時00分 - 澤田病院 作業療法室
岡島大夢は、いつものように澤田病院の作業療法室に足を踏み入れた。回復期リハビリテーション病棟の患者たちが生活を取り戻すための訓練をする場所——それがこの作業療法室だ。
「おはようございます!」
楠田肇が真面目な顔で挨拶をする。彼は朝一番の準備を終えて、今日の担当患者のスケジュールを確認していた。
「おはよう、楠田。今日の患者リスト、確認したか?」
「はい。新規の患者さんが一人入院されてますね。脳血管疾患で右片麻痺、軽度の認知症を併発している方です。」
岡島はその情報を聞きながらカルテに目を通す。患者の状態を把握し、どのようなリハビリが適切かを考えるのが作業療法士の仕事の第一歩だ。
そこへ、遅れて入ってきたのが但田仁慈。スーツではなくラフなポロシャツ姿、首には適当に巻いたタオル。どこか余裕のある表情をしているが、その態度にはどことなく「自分は一番仕事を分かっている」という雰囲気が滲み出ている。
「おはようございます。いやー、朝から車が混んでましたよ。まったく、もう少し通勤楽にならないもんですかね。」
「あんた、またギリギリか?」
岡島が仁慈の時計を見ると、始業時間まであとわずか3分だった。
「ギリギリっていうか、間に合ってるでしょ? ほら、時間通り。」
仁慈は笑って時計を見せる。
「ま、いいけどな。今日のスケジュール、ちゃんと把握してるんだろうな?」
「もちろんですよ、主任。俺の担当患者、軽めの人ばっかりですし、問題ないっす。」
岡島は軽くため息をついた。彼が担当する患者は自分の都合で「楽な患者」になりがちなのだ。
午前8時30分 - 朝のミーティング
作業療法士チームは、朝のミーティングのために会議室へと向かう。ここでは、その日のリハビリ内容や患者の状態について共有し、チームとしての方針を決める。
「では、今日のリハビリ計画を確認していきます。」
岡島がファイルを開くと、但田陽が突然発言した。
「すみません、主任、昨日の運営会議の内容、ちょっと私には分かりにくかったんですけど……」
岡島は眉をひそめる。
「どの部分が分かりにくかったんだ?」
「その……なんていうか、細かい話が多すぎて……とりあえず、私のチームの患者は、今まで通りで大丈夫ですよね?」
「違う。昨日の会議では、退院前の患者の生活動作をより強化する方向で進めるって話だった。今まで通りじゃなくて、もっと日常生活に密着した動作訓練を増やす必要がある。」
「えっ、でも、それだと私のスケジュールが結構詰まっちゃって……」
「患者が優先だ。チームリーダーなら、それくらい理解しろ。」
陽は黙ったまま、少し不満そうな顔をしている。その様子を見て、楠田がフォローに入る。
「但田さん、もし不明点があれば、僕も一緒にスケジュール調整を手伝いますよ。」
「……ありがとうございます、楠田先生。」
岡島は楠田に目で感謝の意を示した。こうした細かいフォローが、チームを円滑に動かすカギだった。
午前9時00分 - 患者とのリハビリ開始
ミーティングを終え、それぞれの作業療法士が担当患者のリハビリを始める。
岡島の最初の患者は、70代の男性で、脳梗塞後の右片麻痺を抱えていた。彼は少し緊張した面持ちで、作業療法室の椅子に座っていた。
「おはようございます、〇〇さん。今日は立ち上がりの練習をやっていきますね。」
「……立てるかなぁ。」
「大丈夫ですよ。無理せず、僕がしっかりサポートします。」
患者の不安を取り除くのも作業療法士の大事な役目だ。岡島はゆっくりと患者の足の位置を確認し、立ち上がる動作を一緒に練習していった。
一方で、但田仁慈は軽症患者の対応をしていた。彼のスタイルは、どちらかというと「適度にやっておけばいい」というものだった。
「はいはい、〇〇さん、そのまま歩いてみてください。そうそう、いい感じですよー。」
患者が少し不安そうな顔をしても、特に細かく指導はせず、「大丈夫、大丈夫」と適当に流していた。
岡島は遠くからその様子を見ていたが、今は口を挟むタイミングではないと判断した。
午前10時30分 - 休憩時間
リハビリの合間、作業療法士たちはそれぞれコーヒーを片手に短い休憩を取る。すると、松村弥生と君田彌がやってきた。
「主任、ちょっといいですか?」
「なんだ?」
「但田先生、また患者さんのリハビリを適当に終わらせているみたいで……」
岡島は少し考えた後、苦笑いしながら答えた。
「だろうな。ちょっと昼休みにでも話してみるよ。」
「お願いします。」
この病院には様々な作業療法士がいる。真面目な者もいれば、自己中心的な者もいる。岡島は主任として、全員をうまくまとめながら、今日も仕事を進めていくのだった。
次回:「午後のリハビリと病棟との連携」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます