149話 賞金首戦 『アクレウス』
地上に居る誰もが空を見上げている。
今日も今日とて快晴で高く昇った太陽が
そんな中、銀色の飛行物体が螺旋を描きながら急激に高度を上げていく。
俺たちの頼れる仲間である戦術機動攻撃機ファルコリヌス――通称カールだ。
「CCE-リアクター正常、システム、通常モードから戦闘モードへ――なんてねっ? さぁ、行っくぞぉ! アクレウスとやらめ、調子に乗っているようだけど空の王が僕だということ教えてやろうじゃないか!」
カールの
普段のお調子者然とした口調で話す時とは違い、その声音には戦いを前にした緊張感を孕んでいた。
(ちょっとだけどな……)
そして視界の端に黒い影が映り込む。
鳥型の暴走機械――賞金首モンスター『アクレウス』だ。
広げた翼は墨を落とした様な色と質感で、その鋭い爪とクチバシが恐ろしい程の威圧感を醸し出していた。
生身の人間は勿論のこと、戦車ですら一溜まりも無いだろう。
基地に設置された対空兵装を熱心に破壊していたアクレウスはカールを脅威と認識したようで、翼を大きく羽ばたかせながら鋭い鉤爪を突き出して急接近してきた。
「速いぞ!」
「中々の機動力。超音速状態での空中格闘戦も可能と見ます」
アクレウスの高機動に思わず声が漏れる。だが、相対するカールは動じていなかった。
「ほほぅ……。その大きさでその機動力、相手にとって不足無しじゃないか! まずは挨拶をば……前縁兵装『オルニス・ピアサー』全砲門、発射っ!」
片翼六枚――左右合わせて十二枚の細長いフィン状の羽根に内蔵された投射装置。
そこから淡い黄緑色の光を帯びた粒子弾が斉射される。
それと同時に、素早く回避動作。
アクレウス側もカールの牽制攻撃をヒラリと躱して
黒と銀――両者はまるで空中で舞い踊るかの様に互いの攻撃を躱し合う。
カールの翼から放たれた刃のような粒子弾が空気を切り裂く音とアクレウスから発射されたミサイルが迎撃された際の爆音が入り混じる。
そんな攻防が十数回繰り返されたが、両者とも未だ無傷。
「ふ~ん、やるじゃない! 速すぎる……ってことはないけどね、ふふっ!」
「ギュィイィィッ!!」
「あれ、怒った? 図星だったかなぁ……っと!」
馬鹿にされたと思ったのか、アクレウスは音もなく一気に間合いを詰め、鋭い爪を振るう。
だがカールは素早く回避し、再びオルニス・ピアサーによる牽制射撃で相手の足を止める。
そしてその間隙を縫い――。
「今のはちょっとした小手調べ、ここからが本番だよ!」
その言葉と共に空中で静止し、自身の体を変形させる。
両翼が背中に移動し、頭部から爪先の各所が立体パズルのようにガチャガチャと組み変わっていき、あっという間に人型形態への変形が完了する。
そして最後には胸部装甲が展開し、装甲からコアの光が淡く漏れ出る。
アクレウスが敵の突然の変容に警戒を強め、その翼を更に広げて襲い掛かってきた。
「変形完了、この間僅か二秒! 見よ、これが空の王の真の姿だっ!」
人型形態への変形が完了したカールはそのまま接近戦に持ち込む。
「戦術機動攻撃機の名は伊達じゃないっ! 喰らえぃ!」
両腕部にも搭載されているファング・レヴィン――重力制御機構により形成された不可視の爪刃がアクレウスを切り裂かんと迫る。
しかし敵もさる者。
高速で接近していたアクレウスは信じられないことに自身の尾と爪でソレを受け流し、カールを驚かせる。
「おぉっ⁉ そっちも重力制御機構持ちかっ! もっとも~? 機動と防御にしか使ってないみたいだけどね――――どりゃっ!」
「ギエエェェッ!」
そこからは超音速の空中格闘戦が繰り広げられることになる。
「はああぁぁっ! ラ……カールパンチッ!」
「ギャギャァッ!!」
カールは人型のまま軽快に宙を舞い踊り、不可視の爪で相手の尾を受け止める。それと同時に両者を中心に衝撃波が何度も空中に迸る。
「まだまだぁっ! もっと来いっ!」
「ゲギャッ!」
アクレウスは振り下ろした爪でカールを弾き飛ばそうとするが、カールはそのままクルリと反転してカウンター。
だが、アクレウスも間一髪でそれを躱す。またもや繰り広げられる一進一退の攻防。
空中での接近戦は徐々にその激しさを増してくる、しかしどちらも簡単に自分への直撃を許さない。
「うーむ、どちらも当たらんな。もしかして遊んでいるのか?」
「いやいや、アカリ君。案外本当に苦戦しているのかもしれないよ?」
「いえ、なんだかんだで一度も攻撃を喰らっていませんからそれは無いでしょう」
「拙者もセラス殿と同感です。黒き怪鳥は必死の様子ですがカール殿はどこか余裕が有り申す。このままいけば遠からず……」
俺は女性陣の会話に加わることはせず、空中から目を離さなかった。
機械の騎士と怪鳥が繰り広げる空中大決戦。
鋼鉄の猛禽同士が空中で死の踊りを舞う。まあ、片方は途中から人型になってしまってはいるが。
「しかし、さっきからカールが繰り出しているパンチ? いや、見えない爪か? それに耐えられるのって、やっぱり……」
アクレウスが翼を大きく広げ、鋭い爪とクチバシを振るいながらカールに応戦しているのを見ながら呟く。
向こうも重力制御機構を搭載しているらしく、機体の表面に空間の歪みを生じさせてカールの不可視の爪撃を防いでいる。
「はい、マヒロ様の推察通りです」
隣のセラスが無表情で淡々と空を眺めながら肯定する。やはりそうらしい。
「アクレウスも重力制御機構を搭載しています。カールのものと原理を等しくしていますが出力や制御精度は一歩も二歩も……いや、それ以上に劣っているようです」
「うん? それならなんでアクレウスはカールと互角に渡り合えているんだ?」
「カールの悪い癖、ですね。ですがそろそろ――――ほら、ご覧下さい」
(悪い癖。賞金首相手に遊んでるってことか、なにやってんだか)
半ば呆れの感情を抱きながらも空中戦の行方に集中する。
二体は何度となく空で交錯する。
カールの不可視の爪撃がアクレウスの爪を受け止め、続けざまに重力フィールドを纏った蹴りが放たれる。
「ファングレヴィンキック! 相手は直ぐ死……んでない! け~ど~?」
その空気が裂けるような蹴撃と共にアクレウスの装甲表面に小さなヒビが走った。
「ギギャッ……!」
「あーらら、玉のお肌に亀裂が走っちゃったね~。どうする? 降参……おほっ⁉」
アクレウスが苦し紛れの咆哮を上げ、鋭い尾を振り回してカールを弾き飛ばそうとする。
しかしカールは宙返りでクルリと尾を躱しつつ、直ぐさま反撃の体勢へと移った。
「空中での見事なトンボ、完璧な重力制御の証左でござるな。カール殿は鳥型での空戦のみならず人型での格闘戦にも長けておりますな」
クロハの古風な言い回しの解説に皆が頷く、俺も含めて。
「手加減していてこれだもんな。全く……強過ぎるぞ!」
地上からその雄姿を目で追い、興奮と緊張で声が震えた。
「しかし相手の戦意は未だ衰えていないぞ」
「うん、そうだね。さっさと止めを刺しちゃえばいいのに、しょうがないねえカール君は」
衆人環視の中で繰り広げられる空中戦はカールの優位で進んでいるものの、アクレウスも激しい抵抗も止めない。
そんなアクレウスに対してカールは一旦距離を取り、背中に折り畳んだ翼を広げてナニかの予備動作へと入る。
一体なにをするつもりなのか……。
「よし! 三十分番組ならそろそろCM明けの後半、クライマックスでしょう。ここでカッコよく決める! CCE-リアクター、フルドライブッ――レディ、ゴーッ!」
「ギェアァァッ!!」
アクレウスはカールの行動に嫌なものを感じたのか――やられる前にやれとばかりに猛スピードで突撃を敢行する。
「遅い!! とおっ! ファルコーン……重力きりもみキィイイイイイックッ!」
だが――アホな叫びと共に、芸術的で無駄の無い無駄に爆発的な鋭い蹴りをアクレウスの体に叩き込んだ。
そう、蹴りだ。
空中で浮いた状態から大地を蹴るようにジャンプ。
そこからヒーローが必殺技を繰り出す様な魂の叫びと共に高速きりもみ回転し、急降下飛び蹴りをアクレウスへと繰り出したのだ。
「どうだっ⁉ 最近脳内で練習した新必殺技の威力は」
相手を蹴り飛ばした後、空中で見事な着地ポーズを決めるカール。
それと同時に強烈な重力圧が周囲に生じ、その衝撃でアクレウスの翼の各所に深い裂け目が入る。
「うおぉおおっ! いけぇ、カール! そこで止めだぁっ!!」
「ややっ、そろそろフィナーレということだね?」
「これもまた様式美というものでござるな」
アカリがおっきいお友達状態で空中大決戦の行方を見守っている。それはいいが、腕をグイグイと引っ張らないで欲しい……。
彼女程ではないが澄実香とクロハも同様に手に汗握り、両者の戦いを見守っていた。
(なんなんだこの状況は……。デパートの屋上のヒーローショーかなにかか?)
「カールの重力制御ストンプによるダメージ大。アクレウスの機動力四十パーセント以下まで低下、高機動戦闘不可」
セラスだけが事の推移を冷静に見つめ、淡々とアクレウスの状況を分析する。この時だけは彼女が常識人に見えた。
「アクレウスの重力制御はカールと比べて低性能。それを全て防御に回していたのでしょうが先の攻撃を完全に防ぐことに失敗、どうやらここが限界のようですね」
「勝負あり、か? でも相手はまだやる気のようだ、見ろ」
「ギュェァアアァァッ!!」
アクレウスは翼に激しいダメージを負いながらもなんとか飛び続け、改めてカールに対して敵意を剥き出しにする。
その姿から最後の手段に出るのは明白だった。
現にその口吻がゆっくりと開き、内部から耳障りな音が響き始めたではないか。
「げっ、例の音波兵装か⁉」
「最早マトモな戦闘機動はとれません。逆転するとしたらあれしかないでしょうね」
セラスが淡々と状況を分析しながら尚も告げる。
「アクレウスの口吻から放たれる音波は目視できる程の収束率を誇り、指向性を持たせ、尚且つ広範囲の対象を焼き払うことも可能でしょう。威力は極めて高く、基地の兵装を容易く破壊したことで実証済みです」
状況はカールが圧倒的に優勢、なのにその言葉に心のどこかで不安を覚える。
「これはまたお決まりのパターンじゃないか。いいね、受けて立とうじゃないか!」
そんな俺の心配を他所にカールは人型のままアクレウスと再び正対する。
そして胸部装甲が展開、CCE-リアクターとそこに納められたクルセリウム・コアを露出させる。
オールドヤード防衛戦で見た光景の焼き直し。
「CCE-リアクター、オーバードライブ――エネルギー充填率百……百五十……二百パーセント――重力制御安定——集束フィールド形成——粒子圧縮完了——」
胸部の前方に美しくも危険な黄緑色の眩い光が収束し始める。
「おおぉっ⁉ これが話に聞くルミナス・バスターかい⁉ ようやく見られるんだねっ! くふふふふっ」
(澄実香は例の胸部エネルギー砲を使うところを直接見たことは無いんだったな)
カールの説明を聞いてしつこく見せてくれと強請っていたがようやく望みが叶うな。
いつもより多めに「くふふ」をしている。
「こいつで止めだ――――」
カールの声は先程のキックの時と違って抑え目だが、その無機質な瞳は揺るがぬ決意に満ちていた。
空中に立ち込める黄緑と
「ギェエアァァァァ!!」
チャージ時間が短いのか焦りか、アクレウスがカールに先んじて音波砲を放つ。
収束された青白き音の奔流が振動と圧力を伴いながらカールへと一直線に向かってくる。
「空の王の咆哮を喰らえっ! ルミナス・バスター、発射っ!!」
そこにカールが数舜遅れ、重力制御フィールドで形成された球状のエネルギーを前方へと解き放つ。
光の束となったクルセリウム粒子がアクレウスへ突き刺さらんと空を裂いていく。
そうなると当然衝突するわけで――音と特殊な粒子、互いが互いを喰い尽くさんとぶつかり合う。
そして――――。
「わぁ……! あの収束光の美しさ……くふっ!」
澄実香が息を呑み、夢中になって空に咲いた危険な光の奔流を観察する。
「直ぐ傍で星が瞬いているようだ……」
俺もその美しさに目を奪われつつ、息を殺して見届ける。二つのエネルギーが空中で衝突、しせめぎ合う光景を。
(正面衝突、お互いの火力比べか!)
黄緑の球体から放たれた極太の光刃が
正面衝突時の振動が激しく空気を震わせ、エネルギーのせめぎ合いで周囲の空気が歪み、周辺に僅かに残っていた雲を完全に吹き飛ばす。
「うおぉっ……!」
莫大なエネルギー同士の衝突による光と雷鳴の様な音の発生に思わず声を上げてしまう程だ。
双方が放った異なるエネルギーは一歩も譲らぬままに数秒間ぶつかり続けた。
まるで二つの星が衝突したかの様な輝き、しかしそれも束の間のこと。
徐々に
「詰み――ですね。いくら収束させようが、所詮は音」
静かに両手を前に合わせながら空を見上げていたセラスが確信を持って言う。
「光りには勝てないってか?」
「CCE-リアクターとクルセリウム・コアにより無尽蔵に生成された高出力エネルギー、その圧勝です。アクレウスの音波兵装ではカールのルミナス・バスターには到底敵いません」
「ギッ……グギャッ……グゲエェッ!」
光に圧倒されていくアクレウスの口吻から悪足掻きの様な呻き声が漏れ出る。
だがそれも空しく、収束された音は輝く星光の渦に呑み込まれた。
その音の発生源諸共に――――。
「やったか⁉」
俺は拳を強く握り締め「フゥ」と息を吐いた。その直後、空を見上げて呆けていた群衆から爆発的な歓声が沸き起こった。
「うおぉぉっ! なんだありゃぁ!!」
「お母さ~ん! アレ綺麗っ!」
「やったのか⁉ 助かったのか?」
「黄緑色の光がバァーって動いて、チカチカして……星が……」
「どうなった⁉ おい、状況を確認しろ!」
その歓声の中、俺たち一行は戦闘の終局を見届けてからお互いに言葉を交わす。
「終わったな――って! 澄実香、こんな所で抱き着くんじゃあない!」
俺の腕を両腕で引き寄せ、ギュッと胸元に抱き込む澄実香。彼女は目を輝かせて興奮状態、俺の抗議を一顧だにしない。
「カール君、君は最高だ! あの機動力、それと重力制御もか! いやいや、クルセリウムの輝きというものを直に見れたのが……あぁっ!――――」
「あ、はい……。好きにして」
なんだか危ない人みたいになっている、暫くそっとしておくのがいいだろう。
興奮するケモ耳研究者の隣のアカリは彼女程興奮していないが、悔しそうに唇を噛んでいるのが印象的だった。
「くっ……! 私も負けてられんな、もっと強くならないと……」
と小さく呟いた。
「アオオォォォォォーーーンッ!!」
キナコはずっと俺に寄り添いながら落ち着いた様子で事の推移を見守っていたが、カールの勝利を祝うかのような遠吠えを上げた。
「五月蠅いっての、キナコっ!!」
「ウォフッ……」
通信越しにカールに怒られていたのが笑いを誘った。
そして静かだったセラスが淡々と戦況のまとめを語る。
「鋼翼戦記ファルコリヌス第二話。今回の勝利の鍵――それはカールの高度な重力制御とクルセリウム・コアの性能、そして無駄の無い無駄な戦術判断の賜物だった。敵は強かったが彼の総合力には遠く及ばなかったのである。次回――まだ見ぬ空へ! 諸君にも付き合ってもらう――――」
隣からか聞こえてくるやたら美しい声によるナレーションを無視しながら深呼吸をし、鳥型に変形しながらゆっくりと高空から降下してくるカールに目を向けた。
(おつかれさん、カール…………ていうか、あれで二話なのか)
両者が最後に放った攻撃の余波が時間差で地面を激しく鳴動させ、後に残ったのは静けさを取り戻した青い空。
それが戦いの終わりを告げていた。
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