僕は猫になって、大好きな愛犬の元へ行きました。

住田沙夜

第1話ー事故、そして向かう先へー

「広野悟」

それは僕の名前だ。

大きな会場、黒い服を着た人達で溢れている。

僕は…なぜ道路の隅で座って…!?

あの時、確か愛犬のぽすくんと一緒に散歩をしていた。脇道から抜け出して、横断歩道をわたって…大きなダンプトラックに僕だけ轢かれ…あれ。

「にゃ?」

なんで僕は、猫になってしまったんだ…。天国にいた時の記憶がない。

ど、どうしよう、なんか猫たちが集まってくるしここに居たらやばい!


僕は逃げるように会場を後にした。


僕は十八歳だった。就職先も決まって、運転免許も取れて。

老犬になるぽすくんを含んだ僕の家族を養っていこうと思っていた矢先だった。

僕の家族はシングルファザーの家庭で、父、姉、僕、そして愛犬で暮らしていた。

僕が生まれた時、同時に愛犬のぽすくんも誕生した。

そう思うと、ぽすくんも、もう寿命なのかな。

実のところ、ぽすくんは痴呆症がある。でも、どんなに記憶が飛んでしまっても僕のことは忘れなかった。いつも大きな尻尾をフリフリさせ、僕のところに駆け寄って来たときは僕も「ただいま」と一緒になって戯れていた。ぽすくんは本当に可愛いヤツだ。急に僕が居なくなって、困惑しているのだろう。僕は猫に転生したが、生きていた時の記憶があって、少しホッとした。

猫の視線で知っている街を歩くのは不思議な感覚だ。橋を渡り、屋根を歩いて、軽い足でぴょんと着地。歩いていると、僕が轢かれたであろう場所についた。

この道路は大きな車道だ。この車道を切るかのように横断歩道が引いてある。

ん?なんだこれ…


“七月二十日 ここで起きた 人と車の接触事故に 情報を知っている方は〇〇警察署…”


え?ダンプトラックの人、まだ見つかっていないのか?

周りには悲惨だっただろう血痕が付いている。電柱の下には、花やお菓子などで囲んでいた。大きな事故だったのに、未解決のままだったのは腑に落ちない。

なんとかしてでも捕まって欲しいのだが、今の僕じゃ無理だ。

とりあえず、家に向かおう。あの脇道を通ればいいんだ、よし。

僕は走って脇道に入る。

ぽすくん、今行くからね…!

僕は記憶をたどりながら、家へ向かった。しかし、いつもの視界と違うため、迷子になる。

クソ!!どこだここ!!

おまけに雨も降ってきた。視界が更に悪くなる。

だめだ、この団地で雨宿りしよう。

僕は団地の隅っこで毛繕いする。ただ、ひたすら雨が止むのを待った…。


おっ、止んだ。しかも虹が見える…!

さっきまであった黒い雲も、どこかへ行って、青空にスーッと虹が映し出されていた。何年ぶりだろう、虹なんて。

「にゃー!」

僕は伸びをして走り出した。


「こらっ!どっかいけ!わーん」

どこから声が聞こえた。幼い少年の声。壁からそーっと覗いた。目を疑った。

少年は道の端でお巡りさんと、揉めていた。その少年の抱えているのは、猫だった。

猫は、真っ白な毛並みにところどころ血を出していた。その猫はぐったりと、動かない。

まさか…

「大丈夫、一緒に動物の病院に行こう、ね?」

お巡りさんが優しく説得するが、少年は泣いている。横を通っていく車を睨みつけて。

ああ、轢かれたんだ。あの猫は…

僕もあの時、ずっとぽすくんはそばに居てくれたのかな。

もう助からないのに、ずっと。そう思うと僕は居ても立っても居られなくなった。


早くぽすくんに会って、ありがとうを伝えないと…!


僕はまた進んでいく。決して諦めないのは、前の自分と同じだ。

日が落ちるまで残りわずか…、無事に辿り着けるように祈るばかりだ。


「わ、猫がいるよー、かわいいー!私も飼いたい」

猫になってチヤホヤされていたが、そんな事にかまっている暇はない。

僕はコンクリート塀 をつたってその場を去った。


飼いたい…か。飼ってしまったら“お別れ”のときが必ず来る。それに、あの子は耐えられるか…。

家族が増えるのはとっても良いこと。その分幸せが増えるから。


僕らの人生と言うのは、どう転がるか分からない。

君も、あの人も…

それが刺激的だ。

僕は最悪なことに交通事故で死んだ。自分がいくら注意していても、ルールを守っていても、起こってしまう事。誰も予想は不可だろう。


あっ!ここだ!この道を通れば…!!

僕は、坂を登って辺りを見回す。

あそこが僕の家だ…!

もう辺りは暗くなっている。

僕の家は一階だけ電気が付いているのが見えた。

二階は電気は消えている、つまり僕の部屋だ。

後はこの一本道を進んで行けば、家に着く。

僕は屋根をトントンと飛び越えて走り出した。

「こんなに真っ暗なのに、周りが見える…これなら!」

歩きすぎてクタクタな足も、この時だけは軽くなっていた。

暗い町中を、僕は目を光らせて進んだ。


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