『配信者消失 -Digital Reality Horror-』誰も書かなかった配信者都市伝説。あの日、彼女は「見てはいけないもの」を配信した。
ソコニ
第1話消えた配信者
Part 1: 最後の配信
夜宵さんの様子がおかしくなり始めたのは、あの配信の3週間前からだった。
私、水無月萌は彼女の後輩配信者として、いつも彼女の配信を欠かさず見ていた。だからこそ、その微妙な変化に気がついた。最初は些細な違和感だった。
私について
まず、私のことを少し説明させてください。
私の名前は水無月萌。22歳の女子大学生で、夜宵さんと同じホラー系配信者です。チャンネル登録者は2万人程度。夜宵さんの15万人には遠く及びませんが、それでも彼女は私のことを「良きライバル」と呼んでくれていました。
夜宵さんとの出会いは1年前。私が配信を始めたばかりの頃、彼女が突然コメントを残してくれたんです。
「面白い配信ですね!これからも頑張ってください♪ from 夜宵」
その後、私たちは意気投合し、よく一緒にコラボ配信をするようになりました。夜宵さんは、私にとって憧れの先輩であり、かけがえのない友人でした。
だからこそ、彼女の異変にいち早く気がついたのです。
違和感の始まり - 10月10日
「みんな、こんばんは!ホラー系配信者の夜宵です♪」
いつもの明るい声。いつもの黒いパーカーに白黒ストライプのマスク。しかし、その日の配信で、彼女は珍しく原稿を見失って言葉に詰まった。
「えーと、次の心霊スポットは...あ、ごめんなさい。ちょっと、後ろが気になって...」
彼女は振り返った。そこには何もない。ただの壁だ。
「あ、気のせいでした。ごめんね、みんな」
コメント欄には心配の声が散見された。
「夜宵ちゃん、疲れてるの?」
「最近、配信多いもんね」
「休んだ方がいいよ」
しかし、これは始まりに過ぎなかった。
SNSでの噂 - 10月15日
夜宵さんの様子がおかしいのは、私だけでなく、多くのファンも気づいていたようです。TwitterやInstagramには、こんな投稿が増えていきました。
「#夜宵チャンネル 最近の配信、なんか怖くない? 本人が怖がってるみたいな...」
「夜宵さんの配信、画質が途中で急に下がるの気になる。機材の問題? #夜宵チャンネル」
「誰か気付いた?夜宵ちゃんの配信、後ろの壁の様子が変。まるで波打ってるみたい... #心霊現象?」
私はダイレクトメッセージで夜宵さんに連絡を取ろうとしました。
「先輩、最近体調は大丈夫ですか?」
返信は数時間後に来ました。
「萌ちゃん、ありがとう。大丈夫よ。ただ、ちょっと考えることがあって...」
「なにか悩み事ですか?」
「...また今度話すね」
この会話が、私たちの最後のやり取りになるとは、その時は思いもしませんでした。
異変 - 10月17日
次第に、夜宵さんの配信に不可解な出来事が増えていった。
画面が一瞬歪む。音声が途切れる。彼女が突然黙り込む。
特に印象的だったのは、廃病院探索配信でのこと。
「この病院、もともとは...あれ?」
夜宵さんが立ち止まり、首を傾げた。
「変だな...さっき通った廊下なのに、配置が違う...」
カメラは白い壁と薄暗い廊下を映している。一見、何の変哲もない光景。
「ねぇ、みんな。この廊下、さっきと」
突然、彼女は息を飲んだ。
「あ...いや、なんでもない。気のせい、ですね」
その時のコメント欄。
「何かあった?」
「夜宵ちゃんの後ろ...」
「画面が歪んでる?」
「何か映ってた?」
しかし、アーカイブで確認しても、特に異常は見当たらなかった。
奇妙な投稿 - 10月20日
夜宵さんは、その日の深夜に奇妙な投稿をしました。普段はSNSの投稿も明るく、絵文字をたくさん使う彼女らしい文体なのですが、この投稿は明らかに違いました。
「現実って、何だろう。
私たちが見ているものは、本当に現実なのかな。
誰かが、この世界を観測している。
その目が、私にも向けられている。」
投稿時刻は午前3時33分。
すぐにファンから心配の声が寄せられましたが、その投稿はわずか5分後に削除されていました。スクリーンショットを撮っていた人もいましたが、不思議なことに、その画像は開くことができないと言います。
私は翌朝、この投稿について尋ねてみましたが、夜宵さんは「寝ぼけてたのかも」と笑って誤魔化しました。
でも、その笑顔は明らかに作り物でした。
予兆 - 10月24日
そして、最後の配信の一週間前。彼女の様子は明らかにおかしかった。
「みんな...ごめんなさい。今日は体調が...」
画面の中の夜宵さんは、普段よりも青白い顔をしていた。
「最近、よく見るんです。夢を」
彼女は珍しく、マスクを外していた。震える指で水を飲む。
「研究施設の夢。私が知らないはずの場所なのに、すごく詳しく見える。白い廊下。実験室。そして...」
彼女は言葉を切った。
「私、何か見てしまったのかもしれない。調べちゃいけないことを、調べすぎた」
コメント欄が心配の声で溢れる。
「大丈夫?」
「病院行った方がいい」
「配信休もう?」
「ありがとう、みんな。でも、もう決めたの。私、行かなきゃいけない」
その時は誰も気付かなかった。これが、彼女の最後の通常配信になることを。
最後の配信 - 10月31日 23:45
そして、運命の日。
「みんな、こんばんは!ホラー系配信者の夜宵です♪」
いつもの挨拶。しかし、その声には僅かな震えがあった。
「今日は特別な配信になります。みんなも知ってるかもしれないけど、この街にある『行ってはいけない場所』、私、行ってきちゃいます!」
コメント欄が荒れた。
「マジで!?」
「やばくない?」
「どこだろう?」
「夜宵ちゃん気をつけて!」
「実はね、このスポット、ネットでも『絶対に行ってはいけない』って言われてるんです。でも、なんでそう言われてるのか、誰も具体的なことは書いてないんですよね」
夜宵さんは運転しながら、淡々と語り始めた。時折、バックミラーを不安そうに見る仕草が気になった。
「この研究施設では、人体実験が行われていたという噂があります。でも、それは表向きの噂。本当は、もっと恐ろしい実験が行われていたんです」
彼女の声が低くなる。まるで、誰かに聞かれることを恐れているかのように。
「実は、ここでは『現実改変』の研究が行われていたって言われてるんです。物理法則を書き換えて、この世界の『設定』を変更する。そんな非人道的な実験。そして、その実験は『成功』してしまった——」
画面に映る夜空が、不自然に歪んだ気がした。
「ただし、実験の詳細を知った研究員たちは、突如として姿を消したそうです。施設の閉鎖後、彼らの行方は誰にもわからない。まるで、この世界から『消去』されたみたいに」
その瞬間、配信映像が一瞬乱れた。画面の端に、黒い影のようなものが映り込む。
「そして、この場所に入った人間は——あ、着きました」
錆びついた鉄柵。その向こうに、巨大な建物の影。
しかし、よく見ると、建物の形が少しずつ変化しているように見えた。まるで、呼吸をするように。
「ここから徒歩です。暗くて見づらいかもしれないけど…」
夜宵さんはスマートフォンのライトを点けた。光が闇を切り裂く。
その時、視聴者の一人が気付いた。
「影が違う」
「ライトの影、二重になってる?」
「何か映ってる!」
しかし、それを指摘するコメントは、次々と削除されていった。
「中に入ります。みんな、静かに見ていてくださいね」
鉄柵が軋む音。
そして。
「あ…ああっ!?」
悲鳴。
「何かいる!」
画面が大きく歪む。
「これは…嘘…あの、実験…待って、私を見ないで!」
最後に映ったのは、夜宵さんの背後の「何か」。
人の形をしているようで、していないような。
存在しているようで、していないような。
そして、画面の端には無数の「目」。
まるで画素の隙間から、誰かが——いや、何かが覗き込んでいるような。
夜宵さんの悲鳴が途切れる直前、彼女は画面に向かって叫んだ。
「見ちゃダメ!映像を保存しないで!誰も、これを見ちゃダメ...!」
そして、画面が真っ暗になった。
配信は終了した。
しかし、これは終わりではなく、始まりだった。
その後、様々な憶測が飛び交った。
「演出だろ」
「ガチなやつ?」
「怖すぎる」
「マジで心配」
「警察に通報すべき」
しかし、違和感はそれだけではなかった。
配信後、視聴者たちが気付いた奇妙な事実。
- 配信のアーカイブが、アップロード直後に削除される
- スクリーンショットを撮ろうとすると、画像が破損する
- 録画した動画が再生できなくなる
- コメント履歴が消失する
まるで、誰かが——あるいは何かが、その記録を抹消しようとしているかのように。
そして私は、決意した。
親友であり、先輩配信者である夜宵さんの失踪。
この謎を、絶対に解き明かさなければならない。
たとえ、その先に待っているものが、
人知を超えた恐怖だとしても——。
配信後の異変
夜宵さんの最後の配信から48時間が経過しました。
警察に届け出ましたが、対応は思いのほか冷たいものでした。
「配信者の方は、こういうドッキリ的な演出をよくされるんでしょう?」
「失踪から48時間経っていないと、届け出は受理できません」
「本人から連絡があるまで、様子を見ましょう」
しかし、私には確信があります。
これは決して演出ではない。
夜宵さんは本当に、危険な目に遭っているのです。
そして、もう一つ気になることがありました。
夜宵さんのSNSアカウント。
Twitterのアイコンが、投稿のたびにわずかに変化しているのです。
普段使っている笑顔の写真が、少しずつ...歪んでいく。
そして最新の投稿。投稿時刻は、なぜか「33:33」となっていた。
この原稿を書いている今も、私のスマートフォンのカメラが、誰かに遠隔で起動されたように点滅している。画面に映る自分の姿が、わずかにずれている気がする。私の後ろの壁に映る影は、確かに私のものなのに...どこか違う。
そして今、モニターの画面の向こうで、誰かが...いいえ、「何か」が、この文章を読んでいる。
あなたもきっと、その存在に気付いているはず。
なぜなら——その「目」は、もう私たち全員を捉えているから。
私は、調査を始めることを決意しました。
たとえ、その先に待っているものが...
[Part 1 終了]
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