第22話
キュッキュッとバッシュが鳴る音。あちこちで飛び交う応援の声。
今日からバスケ部は合宿だ。合宿っていっても3泊4日でレギュラーとベンチメンバーだけだからいつもに比べたら、随分濃密な感じになっていると思う。
「次!5分休憩したら走り込み!!」
「はい!!」
キャプテンの言葉に返事をし、水分補給をする。まだ合宿は始まったばっかで今も室内で脚力トレーニングをし終わったところだ。冷房がついている体育館を借りれたが、開始して30分もしてないのにもわっとする体育館。
「あっちぃー。なんでアキはそんな涼しそうな顔してんの?」
「いや熱いけど。それにマネージャー達が心配だった」
「あーね。火傷したり包丁で手切ったりしてないでほしいね」
2人してがぶがぶとスポドリを飲みながら会話する。走り込みなんてしたらこの2Lのペットボトルも無くなりそうだなって思う。にしても、朝あれしかアドバイスとかしなかったけど大丈夫だったかなと思い耽る。
===========================
俺は移動中に料理担当チームの5人から料理のアドバイスを求められていた。
「高井せんせー!」
「ぶはっ、高井せんせー!俺も質問したーい」
「翠は気にしないで。伊藤さんどうぞ」
隣で笑ってふざけてきた翠は放っといて、先に質問してくれた伊藤さんに向き直る。
「お昼がパエリア?で夜がカレーでいいんだよね」
「あ、結局メニューそれになったんだ。うん、それだとしたら合ってるよ」
「あれまた食べれんの?美味かったから翠ちゃん嬉しい!」
その言葉に前作ったマネージャー3人は喜んでいた。なんだかんだいってこういうところで、さらっと気が使えるから普段うざいのにモテたりするんだろうなって思う。
「結城くんありがとうね!皆が美味しく食べれる様にがんばるね!…って違うわ。私も質問あったの!100均で型抜きかったからにんじんとかかわいくしてもいい?」
下園さんが翠の褒め言葉に笑った後、はっと思い出したかの様に俺に質問してきた。
「型抜きってかわいいよね。けど時間かかったりするから時間決めてやるとかして、型抜きして余った縁のところは普通に微塵切りにしたらいいよ」
「ありがとう高井せんせー」
そんなことを思い出しながら俺含むバスケ部1群は走り込みをしていた。15人くらいがぞろぞろ走っても迷惑ということで、施設の周りをぐるぐるとしていた。たまに、ご飯を作ってるマネージャー達が見えるから、それを糧に皆頑張っていた。そして30分の走り込みを終え、俺と翠は近くの水道付近に倒れていた。
「あつい。しんじゃう…水道水ぬるいはずなのに冷たく感じる…」
「翠、大丈夫だ。こんくらいじゃ死なない」
警察学校でもいろいろやってきたおかげで、俺はこの灼熱地獄もまだ耐えられていた。けどやっぱ熱い。休憩があって、頭から水をかぶれるだけマシな状況だ。
「翠、次シュート練だから行くぞ」
「えぇー。アキちゃんマジ体力の鬼―」
そして数々の練習をこなした俺たちは昼食タイムを迎えていた。すでに食堂にはいい匂いが広がっていて、5人は頑張ったんだろうことが伺える。きっとご飯も美味しくできてるはずだ。マネージャーによそってもらい、全員が食事を持って席に着く。
「それでは、マネージャーと手伝ってくれた伊藤さんと三輪さんに感謝して!いただきます!!」
「いただきます!!」
キャプテンの号令でいただきますを言う。そこからはガツガツと食べ、すぐ空になりおかわりを求めるバスケ部の仲間たち。
「えっと、その」
先輩がおかわり第一陣に行ったが、なんかもごもごしている。
「なんだよ、はっきり言えよ」
その様子を見ていたキャプテンがツッコミを入れる。俺もはっきり言えばいいのにとは思ったけど。一応建前上先輩だし、言えないので大人しくする必要があった。
「あの、めっちゃうまかったっす。作ってくれてありがとうね、みんな」
先輩がそう言うと、マネージャーと伊藤さんと三輪さんの5人はきゃあきゃあと喜んでいた。
「やった!料理初心者の割にはがんばったよね!!」
「うん!!」
ここで食堂内が少しざわついた。多分味が初心者っぽくなかったからだろう。
「え、初心者だったん?練習の時もめっちゃおいしかったけど、今回さらに美味しくなったから先輩達も驚いてんじゃない?あ、俺もおかわりほしーい」
「結城くん、うちらマネ陣は初心者だよ。おかわりありがとうね。あ、隣にいる高井くんにありがとって言っといてほしい」
「アキーみんながありがとーって!!!」
聞こえてはいたけど、わざわざおかわりの列から大声で叫ばなくても良いと思う。でも教えた甲斐があってよかったな、と思うのだった。食べ終わった後に5人からどうだった、と質問責めにあい、もちろん上手くできてたからふざけて誉め殺しにしたら皆赤面してて困り果てるなんてこのときの俺はつゆも知らない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます