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長友文
1章《名も無き悪魔の終日》
第1話 ─全てが終わった日─
──ズァ!
影が揺らめく音が鳴り響く。
周囲を眺めてみれば、幾多ものクレーターがボコボコと出来上がっている。
それは隕石が衝突した訳ではなく、彼らの壮絶な戦闘の輪郭である。
「……《光の皇帝ストルノーフ》、貴様このまま我が死に絶えるとでも思っているのか……。」
「……そのまま死ぬとは思えんな、たとえ貴様が愚かな猿だったとしてもそれだけはしないだろう。」
カタカタと骨の浮ついた音が響く。
跪くのは、黒と金で装飾されたボロボロの羽織で身を包む《闇の帝王カリューデル》。
そして彼に相対するのは、白と金で装飾された重たい鎧で身を包む《光の皇帝ストルノーフ》。
光と闇の争いはここ数百万年と続く長い時の中で今、終幕を下ろそうとしている。
「貴様がもしこのまま死ぬのであればそのまま見送ろう。だが、まだ食い下がり愚かにも吾輩にまたと牙をむこうと言うのならば、その時はそのみに恐怖と絶望を刻み塵とかしてやろう。ククク……クアハハハハ!!」
ストルノーフは、砂塵のように風に攫われていくカリューデルを見据え高笑いで見送る。
為す術もない状況に、カリューデルはそっと目を閉じた。
──『久しぶりですね!ゼロさん!』
そんな、少し耳が痛くなるような声で叫ぶのは長い付き合いになるネット友達である
年齢は分からないが、性別は女性らしく。そのせいなのか少し大きい声を出すとマイクがキーンと耳障りな音を立てることがよくある。
今日は中間試験も終わり、久しぶりの息抜きでとゲームに誘われたのだ。
『時代はFPS!バトルロワイヤル!!』
そんな声とともに流れ始めたのは某FPSゲームのBGM。
まだこっちはゲームの起動すらしていないというのに。
「おい、少しくらいこっちの準備を待ってくれよ。」
そんなことを言えば『しょうがないなぁ〜』と少し腹の立つ声で返してくる。
ここでゲームをやらずに通話を切ってやろうか。
『ところで、ゼロさんは冒険者適正のテスト受けたりするんですか?』
「冒険者適正?」
ゲームの起動で暇な時間にluzzがそんなことを聞いてくる。
冒険者、といえば最近話題の《覚醒者》をまとめてそう呼ぶそうだが、あれは自己申告制では無いのか?
『アタシ受けようと思ってるんですよ!』
「そうなのか?」
それは驚きだ。
何せ彼女、異世界モノのライトノベルが大の苦手なのだから。
『アタシだって話題性のあるものは好きですよ!と言うか、異世界モノが嫌いな理由ってアレですよ?俺つえぇぇぇええ!みたいな!そういうのが嫌いってだけですからね!』
らしい。
そう言われてみれば、最近人気な異世界モノアニメも勇んで見ていたかもしれない。
「でもそういうのって自覚があっていくんじゃないのか?」
『本来はそうですね。』
「本来は?」
『最近、亀有の方で適性検査をしてくれる所があるんですよ。本来冒険者組合で検査する場合はまず最初に厳密な測定からで、検査は実力を図るため、みたいな感じなんですけど。適性検査ってのは、前段階全部すっ飛ばして検査だけって感じらしいんですよ。だからもし覚醒してなくても受けれるっていう。ガチャみたいな!』
そう聞いてみると少し面白そうだ。
少しおこがましい気もするが、俺だってゲーマーだ。
そんな言われ方をすれば気になるというものだろう。
「luzzはいつ受けに行くんだ?」
『お!一緒イッちゃいます〜?』
俺の言葉にノリノリで食いつく反応的に、一緒に行く相手でも探していたのだろうか。
「しょうがない、付き合ってやろう。」
『ははぁ〜、ゼロ様〜ありがたき幸せ〜。』
そんな言葉に少し調子に乗ってしまいそうになる。
だがそうとなれば少しワクワクするところもある。
何せ、俺は大の異世界モノライトノベル好きなのだから。
『それじゃあ日程は、明後日の日曜!13時で!』
──ビービー。
高速道路から、渋滞を起こした車たちの、悲鳴にも近いクラクションの音が騒がしく飛び交っている。
現在俺は亀有公園前の交番……があった場所に出来た妙に立派なビルの前にやって来ていた。
遠路はるばる電車で1時間と30分も使ってきたのだ、何かいい結果を残したいところだが、それは俺だけでは無いはずなのでどんな結果になろうと受け止めなければならない。
タンタンタン。
そんなことを考えていると、少し離れた場所から軽く駆けるような足音が聞こえてくる。
「ごめーん!遅くなった!」
その声は、ゲームをすれば必ず耳にする女(現在20分遅刻中)の声。
振り向いてみれば、キメの細かい黒髪をサラサラと風になびかせて走る少女。
よほど走ったのか、額には少し汗が浮かび前髪がまばらに張り付いている。
普段から自分で『美少女』なんて言うだけはあり、顔はたしかに可愛らしい。
「疲れたー!」
「お疲れさん。そんなに焦らなくてよかったのになぁ?」
「……すみません。」
少し圧をかけすぎてしまっただろうか、しゅんと落ち込むような仕草で謝ってくる。
「まあいいさ。それより、早く行こうぜ?」
「あ、うん!」
振り向けばすぐの入口に手を触れる。
ウィーン。
自動扉がゆっくりと開き、空気を循環させるように俺たちを招き入れてくれる。
「ようこそ、冒険者適正検査のご予約をされていた方ですか?」
入るや否や、するりと現れたスーツ姿の如何にも社員と言わんばかりの男が声をかけてくる。
「あ、えっと…」
ここで出るのがコミュ障の弊害だろう。
普段は天真爛漫なluzzだが、生身の対人では言葉に詰まってしまう。
「はい、そうです。」
焦れったいとか、そんなことは言わない。
俺はもちろん全ての受け答えを連れに任せるような男では無いのだから。
「承知しました、それでは今から案内スタッフがここに参りますので少々お待ちください。」
スーツの男はそう言うとお辞儀をして、受付カウンターの方へ歩いていってしまう。
どこか座って待っていた方がいいだろうか。
当たりを見渡すが、目に入ったのはそそくさと俺の後ろに隠れるluzzだけだ。
「お待たせいたしました、検査室までご案内致します。」
luzzが隠れてすぐ、そっと現れたのは金髪を後ろで縛ったスーツ姿の女性だった。
少し派手な髪に驚くが、自由な社風として受け取っておこう。
そうして女性の案内に従いエレベーターに乗り込み、9階の検査室へ向かう。
チーン。
到着の合図でエレベーターの扉が開き、全面ガラス張りになった部屋が現れる。
外から見た時こんな回はなかったはずだが、これも魔法の力なのだろうか。
「ようこそ、ご予約いただいていた
奥から現れたのは、ワイシャツにネクタイのみの、少しラフな格好をした初老の男性だ。
ただ、襟元に
「はいそうです。」
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ。」
何やら、大きな球体型の装置に配線などが繋がれた謎の機械が、この階の中央にどっしりと構えている。
よく見てみれば、周りにはチラホラと人影も見えるので話題になっているのは間違いではないのかもしれない。
案内されるまま機械の前に来てみれば、丸い機会は推奨のような透明感を帯びており、光が透けている。
そしてその機械の手前には、台があり、斜めに設置されたプレートのような物がポツンと置かれている。
「それでは、その黒い板の上に手を当ててください。」
男の声に、luzzの方を見てみるが「先に行ってくれ」と言わんばかりの目線を受けて、ヨイショと前に出る。
台の上にたてば、黒い板に青白い光で手形の輪郭が浮かび上がる。
どうやらここに手を当てればいいようだ。
そっと手をのせてみると、手のひらを何かが這うような不思議な感覚が押し寄せる。
その不思議な感覚が2、3回起こると、ピタリと止み、目の前の球状の装置に心拍を表すような波線が浮かび上がる。
ピピ。
機械音が響く。
どうやら結果が現れたようだ。
『判定結果、あなたは《覚醒者》です。』
球状の機械、その真ん中に映し出された文字は俺が《覚醒者》であると語っていた。
「覚醒者判定、おめでとうございます!ステータスを確認してください!」
横で見ていた男が、少し興奮気味にそう言う。
どうやら、あまり覚醒者が現れることは内容だ。
俺は言われるままに、ステータスの確認へと移る。
『《ステータス》
職業:なし
Lv:0
HP:100/100 攻撃力:0
MP:0/0 敏捷:0
SP:0/0 防御力:0
スキル:なし
その他:《奈落の呪い》』
は?
表示されるステータスに場の一同は硬直する。
それは俺も例外ではなく、やはり固まってしまう。
チッ。
小さく、舌打ちのようなものが聞こえる。
「……ランクはブラック、最下層のクソランクだな。」
そんなことを言うのは横にいた男。
心底見下すような目で俺を見てくる。
腹が立つ。
だが、これもしょうがない事だ、なんの力もない人間よりはマシだろう。
「ただの人間と一緒じゃ意味ないんだよ、早く帰ってくれ。」
俺はただ押し黙ることしか出来ず、静かに踵を返した。
その通りだ、何も言い返すことが出来なかった。
luzzの視線を感じる。
哀れだろう。
いつも自分を煽ってくるやつが蓋を開けてみれば能無しだったのだから。
後ろから、「次の方」と、luzzが呼ばれる声がする。
ピピ。
俺は立ち止まり結果を待つ。
おお!
周りが一斉に反応した。
その声に振り向いてみれば、訳が分からないと言った顔でステータスを眺めるluzz。
そして画面には。
『《ステータス》
職業:タンカー
Lv: 1
HP: 700/700 攻撃力:100
MP: 400/400 敏捷:50
SP: 300/300 防御力:700
スキル: 《絶壁》《オーロラの絶対領域》
その他: なし』
俺への当てつけのように、そんな文字が浮かんでいた。
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