第2話 メロンとの冒険

 綾はメロンを抱きしめ、家に戻った。ケージに入れてもいいのだろうかと思いながらも、ふと外を見つめると、もう夕方が近づいていた。


「こんなに早く帰っても、なんだか落ち着かないな」


 ベッドに座りながら、メロンを膝に乗せ、静かにその小さなウサギを見つめていた。羽のついたウサギを抱きしめるという行為が、あまりにも異常で、まだ信じられない気持ちが残っていた。


「でも、これでいいんだよね」と、彼女は小さくつぶやいた。


 昨日、あの「空飛ぶペットショップ」でメロンを見つけたときから、何かが彼女の心の中で変わったような気がしていた。メロンと出会った瞬間から、心の中でずっと求めていた「何か」が埋められたように感じていた。


 これからどうすればいいのか、彼女はまだよくわからなかった。だが少なくとも、メロンと一緒に新しい日々を始めることは確信できた。家に戻って、まずは新しいペットのための環境を整えなければならない。それに、外の世界でペットを連れて歩くのも、少し不安だと思っていた。


 その夜、寝室でメロンと過ごしながら考えていた。ペットを飼ったことで、これから自分の生活にどんな変化があるのだろうか。日常が少しでも変わることに期待しながら、ぐっすりと眠った。


 翌朝、綾は目を覚ましたとき、ふと自分が何かを忘れているような気がした。メロンがケージの中で小さな声を上げているのが聞こえ、急いでベッドから起き上がった。眠気も覚める間もなく、目の前の現実が広がっていた。


「おはよう、メロン」


 メロンの小さな体を優しく撫でながら、綾はひと息つく。その柔らかな毛が心地よくて、綾は少しだけ安心した。


「今日から一緒だね」


 彼女は決意を新たにし、メロンと一緒に外に出る準備を始めた。昨日のような不安は、少しずつ薄れてきていた。しかし、街中を歩くことにはまだ一抹の恐怖が残っていた。もし、メロンの羽を見た人々が驚いたり、怖がったりしたらどうしよう? そんなことを考えると、やはり不安が胸に広がる。


 しかし、今日は一歩踏み出してみることに決めた。


「よし」


 綾はジャケットを羽織ると、メロンをバッグに入れて、外に出た。日差しが柔らかく、風が心地よく吹いている。


「今日は散歩だよ、メロン」


 彼女は少しだけ足を速めて歩き出した。


 街中はいつも通り、賑やかな日常が広がっている。だが、今日はなんだか違う気がした。メロンをバッグに入れて歩くと、普段と同じように街を歩いているのに、何かが新しいことを告げているような気がした。


 ふと前方に、同じくらいの年齢の女の子が歩いているのを見かけた。明るい栗色の髪を無造作に纏め、大きな目を輝かせている。その子は、何かを話しているようで、楽しげに歩いている。その女の子の肩には、小さなペットが乗っていた。それは、綾が今まで見たこともないような、羽の生えた犬だった。


「えっ?」


 驚きのあまり立ち止まって、その子を見つめた。丸い目と眉毛のように見える長い毛が可愛らしく感じる、犬のようなペットが肩に乗っている。その姿はまるで異次元から来たように思えた。


 その子は綾に気づくと、にっこりと微笑んで手を振った。


「こんにちは! あれ? もしかして、そのウサギ、羽が生えてる?」


「え……あ、はい。そうなんです。ちょっと変わったペットで……」と、綾は驚きながらもやっと声を出した。


「すごい! 私も同じようなペットを飼ってるの。ほら、見て!」


 その子は嬉しそうに自分の肩に乗っているペットを見せてきた。その犬は、背中に透明な羽がついており、時折羽を羽ばたかせて風に乗っているような動きを見せていた。


「この子、羽を広げると空を飛べるんだよ。すごいでしょ?」


 綾は思わず目を見張った。


「空を……飛べる?」


「うん、飛ぶんだよ! 名前はリリィっていうの」


 その子はリリィを胸に抱きしめ、綾に話を続けた。


「私も初めて見たとき、すごく驚いたんだ。でも、リリィがいると毎日楽しくて、冒険してるみたいな気分になるんだよ」


 綾はその子の話を聞いているうちに、何かが心の中で変わり始めているのを感じた。こんなふうに、ペットと一緒に新しい世界を冒険するって、どんなに楽しいんだろう。


「楽しそう」と、綾は思わず口にした。


 その瞬間、リリィが羽を広げて少しだけ飛び上がり、風を感じるように舞った。


「ねえ、君も一緒に遊んでみない? 一緒に探険したりして」


 その子は誘ってくれたが、綾は少し迷った。


「でも、私、まだ全然……」


「大丈夫だよ。最初は誰だって不安だし、怖いこともあるかもしれないけど、そのかわいいウサギちゃんがいるなら一緒に冒険できるって!」


 その子の言葉は、綾の心の奥に直接響いた。それが、これ彼女が勇気を出して、次の一歩を踏み出すきっかけとなった。


「あ、ありがとう……! 私、今度一緒に探険してみたい」


 その瞬間から、綾は自分の新しい世界に踏み出す準備が整ったような気がした。リリィとその子、そしてメロンと一緒に、どんな冒険が待っているのかを想像すると、胸が高鳴るのを感じた。

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