第14話 和解

 健斗の家に全員が集合したのは午後8時を回っていた。夕方から濃い雲が立ち込め雨が降りそうな天気だった。健斗の両親はどちらも出張中とのことだった。

「で、健斗の鏡はどこにあるの」

「2階の僕の部屋なんだけど、ちょっと狭いからここでまず話を聞いてほしいんだ」

 健斗はダイニングキッチンで皆にお茶を入れて、健斗は父が考古学者で、何かいわくのある銅鏡を手に入れて蔵に保管していたこと、健斗がそれを自分の部屋に持ち込んだ夜に蔵が火事になったこと。父が焼け跡で必死に鏡を探し出そうとしていたこと、健斗は鏡を自分が持っていて無事なこと言い出せなかったこと。鏡から返さないように健斗にお告げがあったということを順を追って手短に話した。

「そんなに貴重な鏡なの?いつの時代の誰の持ち物だったのかわかるの」

「それが全然なんだ。見たところ殆ど傷も錆びもないからそんなに古い感じはしないんだけど、それだけで年代を決める訳にはいかないんだ。中国で製造されて輸入されたものを舶載鏡っていうんだけど、様式が大分違う。国内かもっと別の場所で作られたものらしいんだ。国内で作られたものは仿製鏡と呼ばれているんだけどこんなに精巧なものは古墳時代後期でないと作れない。僕が調べた限りでは似たような様式の銅鏡は見当たらない。だからもっと新しい可能性もあるんだけど、父は日本史を変える発見だと言っていたんだ」

「まあ作られた年代はともかくとして、今も光ったりしているの」

「いや、お告げがあってから、そんなことはなくなってる」

「ただの夢だったのかも知れないけど、エルサレムでも健斗は変だったわよね。やっぱり鏡に憑りつかれているのかしら。そろそろ皆で見てみない」

 一同は2階の健斗に部屋に入った。狭いというより本棚が4つも並んでおり大きな作業机と普通の机でスペースがないのだった。健斗は押し入れの奥から段ボールを取り出し、中からビニール袋に入った桐の箱を取り出した。ビニール袋には大量の乾燥剤と酸化防止剤が入っていた。

「へー、桐箱入りなんだ」

「桐箱は父が業者に作らせたんだと思う」

 健斗は桐箱をテーブルの上に置いて手袋を付けて蓋を静かに開けた。慎重に鏡を取り出して皆に見せた。一同声を上げた。

「本物の銅鏡って初めて見たけどきれいなものね。もっと錆びてて小さいものだと思ってた」

「僕も持ってみていい?」

 翔が聞いた。

「ちょっと待ってて。手袋が1組しかないからこれを着けて。結構重いから気を付けて」

 一旦銅鏡を箱に戻して、健斗は自分の手袋を翔に渡した。翔が鏡を手に取ると、雷の大音響が響き窓の外が明るく光ると停電して部屋の中が真っ暗になった。

「近くに落ちたね。今、ランタンを持ってくる」

 健斗はスマホを懐中電灯替わりにして部屋を出て行った。皆もスマホで明かりをとりお互いを照らした。

「雷で停電なんて今時珍しいね。電柱にでも落ちたのかな」

「翔、どうしたの。何か見えるの?」

 翔は鏡を持って中を覗いている。鏡は曇っていて翔の姿はぼんやりとしか映っていないはずだった。健斗は蝋燭とライターを持って大分経ってから戻ってきた。

「LEDランタンがあったはずなんだけどおふくろがどこかに仕舞って見つけられなかった。代わりに仏壇からローソクを持ってきた」

 机の上にローソクが灯された。何だか神秘的な光景だった。

「いい雰囲気ね。讃美歌でも歌いましょうか」

 アンジェラが言った時、玄関から呼び鈴が聞こえた。

「今頃誰だろう。ちょっと見てくる」

 健斗は下に降りて行った。

 ハリストス聖戦団の若い男は、机の上に置いてある宝剣がウーンという低い音を立てていることに気が付いた。手に取ってみると細かく震えている。総督が言っていた予兆に違いなかった。男は総督に連絡を入れたが、付き人の女性から今熟睡中と言われた。剣をビオラのケースにしまい背負うとバイクに飛び乗った。剣が行くべき方向を指し示すはずだ。街をあてどなく走っていると突然稲妻が光った。お告げだ。男は稲妻が落ちた方向にバイクを飛ばした。雷が落ちたあたりにつくと、この辺は巧の友人の金神健斗の自宅の近くだと気づいた。健斗の家の前に着くと剣の振動はさらに大きくなった感じだった。バイクから飛び降りて何も考えないで呼び鈴を押した。周りは停電しているらしく真っ暗だったが、呼び鈴は動作しているようで音が聞こえた。階段を下りてくる気配がして健斗が扉を開けた。

「こんばんは。夜分すみません」

 取り合えず丁寧にあいさつしたもののどう切り出していいのか迷った。口から出まかせに

「電気会社の者です。この辺、停電しているので電気設備を見せていただきたいのですが」

 電気会社の者とは思えない恰好だったが、真っ暗で見えないはずだ。とにかく家に入りたい。何とか玄関に入ったが、ビオラケースを背負った男に健斗はたじろいだ。2階あたりから人の気配がする。何人か来ているらしい。ビオラのケースの中からの振動はさらに大きくなっている。

「配電盤はどこか分かりますか」

 とにかく上がらなくてはいけない。電気工事業者の偽装を強行した。しかし、不審に感じたアンジェラと恵が階段を下りてきた。奥に恵が声を上げた。

「この人ハリストス聖戦団のメンバーだわ」

 アンジェラと恵が両方から取り囲んでファイティングポーズを取る。

「ノー、違うんだ」

 男は両手を上げる。

「何しに来たの」

「剣の導きだ。メシアに会わせてほしい」

「何言ってるの。拘束するわ。健斗、なにか紐みたいなものない」

「探してくる」

「拘束してもいいから、とにかく話を聞いてくれ」

「まず、その物騒な荷物を渡して」

 アンジェラは男のボディチェックをしてビオラケースを男から取り上げ、男から離れた場所に置いて中を開けた。

「聖剣が入っているんだ。丁寧に扱ってくれ」

 恵がこの間見た剣が入っていた。アンジェラが取り合えず男の手を縛った。

「どうしましょ。普通なら警察を呼ぶところだけど、電気会社なんて嘘をついて入って来たんだから住居不法侵入にはなるよね。それよりもブレスドの捕虜にした方がいいかしら」

「私はどうなっても構わないから、剣をメシアに掲げてくれ。お願いだ」

 アンジェラの電話が鳴った。ブレスドの警護員からだった。

「遅いわね。もうこっちで拘束してるわ。もともと攻撃する気はなかったみたいだけど。他には仲間はいないのね。家の外で待機してて」

 アンジェラは電話を切る。

「雷でドローンがまた駄目になったんだって。本当に使えないわ。外は固めたわ」

「メシアってたぶん翔のことよね。上に行って会わせてあげるくらいはいいんじゃないかな。剣は私が持って行く」

 アンジェラは恵がいつになく寛容だなと思ったが、何か考えがあるのかと健斗の方を見た。

「恵がそういうなら2階に行こうか」

 巧が下の騒ぎが気になって降りてくるところだった。男を見てぎょっとしたが縛られて大人しそうだったので少し安心したらしい。5人が戻ると部屋では翔が鏡を見つめていた。

「さっきからあの状態」

 部屋の扉を閉めると剣がブーンと音を立て、全体が青く光り出した。銅鏡も青緑色の光を放ち始め、巧のポケットからもオレンジ色の光が漏れだした。巧は慌てて防護球を取り出した。恵が剣を構え、ゆっくり刀身を抜くと高く上にかざした。美しい所作だった。抜かれた剣は青白い光を放った。拘束された男はひさまづき祈り始めた。アンジェラと健斗はあっけに取られている。翔は鏡を見つめていたが、目を上げて剣を見た。そのときポンと音がして明かりがついた。停電が復旧したのだった。恵は我に返ったらしく、ばつが悪そうに剣を鞘に納めた。剣は光を失い、銅鏡も防護球も元の状態に戻っていた。

「何だったの。奇跡?」

 アンジェラが今の光景を信じられないように言う。

「総督に会った」

 翔が言った。

「総督?ハリストス聖戦団の?」

「茶色の顎鬚を生やしてたよね」

「あの怖いおじいちゃん?立派な髭を生やしてた」と巧。

「鏡にでも写ったの。何か話した?」

「お互いに目を合わせただけ」

「宣戦布告ってわけね」

「違う、逆だと思う。すこしうれしそうな顔をしてた」

「総督の預言は本当だった。この地にメシアが現れた」

 拘束された男が言った。

「お願いだからその剣は我々に返して欲しい。祖国の宝なんだ」

 恵は刀をアンジェラに渡した。

「恵もどうしちゃってたの」

「意識はあったんだけど何だか剣を抜きたくなったっていうか」

「外で仲間が待ってるわ。剣はいただいたりしないわよ。なんだか疲れちゃった。今日は解散しましょ」

男は剣と一緒にブレスドの警護の男に引き渡した。

 ハリストス聖戦団の総督のイリア・ポポフは病床で深い眠りに就いていた。彼がKGBの新米だった頃、クレムリン武器庫博物館に警護・監視役で時々派遣されていた。多くは外国要人の警護であったが、まれに海外の学者の研究調査に立ち会うことがあった。こちらは厄介で、帰国してからソビエト連邦に不利になるような発表をされないように細心の注意を払う必要があった。その学者が発表している論文を事前に調査し、来館の目的に沿った準備を行う。対応は学芸員が主に行うが、イリアはその助手ということにして危険な思想がないかチェックするのだった。特に警戒すべきは民族主義を煽りかねない知見が発表されることだった。ある時、イギリスの考古学者がロシア―トルコ戦争の資料を閲覧したいとのことで、展示されている絢爛たるロシアの秘宝ではなく、関係する非公開の収蔵品の見学を希望してきた。上層部にコネがあったらしく、丁重に対応するよう指示があった。古参の学芸員は奥の収蔵庫に案内し、手際よく関係する収蔵品を紹介してゆく。

「こちらには、1787年の2次ロシア―トルコ戦争の戦利品を納めてあります。相当に古くて貴重と思われる物もあるのですが、残念なことにどこで発見されたとか、製造されたとかの情報は殆ど失われており、研究も進んでおりません」

 イギリスの考古学者は1本の古い剣に目を止めた。

「この剣の柄はなかなか美しい。ちょっと見ない様式だ。鞘は後世に作られたようだが」

「確かに気品がありますな。これ以上金が使われていたら金だけ剝がされていたでしょう。しかし、金があしらわれていなければここに辿り着いていなかったでしょう」

「刀身を見せていただいても構いませんか」

「もちろん構いませんが、恐らく錆びていて抜けないでしょう。イリア君、ちょっと抜いてみてくれないかな」

 イリアが両手で剣を持ち、力を入れるとあっさりと刀身が現れた。剣を抜いて机の上に静かに置いた。考古学者と学芸員は予想外の結果に目を瞠った。剣は白銀色に鈍く輝いていた。

「これは意外だ。プラチナ製の剣は初めて見た」

「いや、鉄でないことは間違いないですが、プラチナかは疑問です」

「確かに中世くらいまではプラチナは人気がない上に融点が高くて扱いにくい金属だったはずだ。それに剣の素材には全く不向きだ。強度が低すぎる」

「武器ではなく神器として祭事に使用する目的で作られたのかも知れません。ただ、この色味は純鉄のような気がします」

「それもあり得ない。不純物を除くには真空炉が必要だ。案外新しいものの可能性もある。この宝剣の出所が判らないので価値があるものか判断できないのが残念だ」

「申し訳ないのですが、年一回は収納物のチェックをしているのですが、この辺は管理が杜撰で最近作られた宝飾品が紛れ込んでいる可能性があります」

 学芸員は予想外の展開に慌て幕引きに入った。外国の研究者から新たな発見などされては大変なことになる。

「確かに我ロシアで作られた財宝は厳重に管理されていますが、異国で作られた品物は出所も含めて怪しいものがありますね」イリアも応援する。さっさと剣を鞘に納め元の収納場所に運んで行った。考古学者は興味を失ったらしく、次の収納品に目を移していた。しかし、イリアは剣を抜いた時の違和感が気になっていた。僅かな振動を感じたのだった。

 その後も剣のことが気になり、頭から離れなくなっていた。次のクレムリン武器庫博物館での公務の時、人目を盗んで収蔵庫に入り、剣が入っている棚に向かった。棚からブーンという微かな音が聞こえた。引き出しから剣を取り出した。やはり錯覚ではなかった。剣は間違いなく振動を伝えてきた。そっと鞘を抜くと白銀の刀身が淡く緑色に光っていた。イリアは確信した。この剣は自分を呼んでいる。イリアは素早く剣をスケッチし、棚に納めて立ち去った。この剣に関して収蔵リストには写真はなく、第2次ロシア―トルコ戦争で戦利品として持ち帰えられたとしか記述がなかった。美しい剣である、戦利品は大抵は私物化されて売り払われるものだが、ここに収納されたのが不思議だった。イリアはスケッチをもとにレプリカを作らせ、すり替える機会を窺った。

 しかし、なかなか機会を掴めなかった。公務は時々あったが、レプリカの剣は持って入場し、本物を持って出場するには大きく、目立ち過ぎた。イリアは覚悟を決めた。予め収蔵庫の2階の窓の鍵を壊しておき、梯子が置いてある場所も確認した。新月の夜に博物館の敷地に忍び込み、2階の窓から侵入した。真っ暗な中、収蔵庫の棚を開けると剣は全体が青く光っていた。レプリカとすり替えてイリアは敷地から外に出た。博物館の警備システムは十分に把握しており完全犯罪を確信した。イリアは十字を切った。

 ソビエト連邦は激動の時を迎えていた。ゴルバチョフが書記長になりペレストロイカを提唱して改革を進めようとしたが全く上手く行かなかった。さらに軍事クーデータ、多くの共和国の独立が続き、エリツィンがロシアの大統領になってソビエト連邦は終焉を迎えた。イリアは剣の前で祈りながら、ソビエト連邦の崩壊を憂い、どうしたら輝かしい共産主義国家を設立できるかを日々考えていた。そしてキリスト教を根幹とした共産主義国家という結論に辿り着いた。その瞬間、剣は青紫の強い光を放った。自分は剣に選ばれ、世界を正しく導く者だとイリアは確信した。イリアは同じ思いを持つ同胞に秘密を打ち明け、聖キリスト会を結成した。会は非公認の組織ながら、政治の腐敗に嫌気が差していた人々の賛同を集め、予想を超えて大きくなっていった。

 イリアは最初は聖キリスト会を立ち上げて、徐々に支持を広げて行こうと考えていた。しかし、元KGB職員が母体であったため組織は先鋭化を始めた。ハッキングにより資金調達が始まり、資金が潤沢になると、革命の範囲はロシア内から世界に広げられ、幹部は世界の支配を夢見るようになった。議論の末に地道な活動では世界は変わらないという結論になり、武力行使も仕方ないとの論調に傾いていった。会の名称も名もハリストス聖戦団に変わり、秘密結社として活動するようになった。

 一方、理論武装として共産主義とキリスト教の教義との融合の試みも成された。神は一部の者が圧倒的に富むことを御赦しになる訳がない。プロレタリアート革命はそのような文脈で起こされたはずである。富の寡占を許しているのは資本主義であるが、それを加速させているのは半導体技術である。半導体という神から与えられたものとは異なる物質の発見と技術開発が、世界を腐敗させた根源である。

 イリアは革命のために多くの人間が犠牲になることが神の御心に沿っているのか確信が持てないでいた。何人が犠牲になっても神の審判を通った者は天国に行くことができるという解釈だけで済ませられるのだろうか。しかし結社内の議論は先鋭化する一方だった。核ミサイルをハッキングし、どこに落とすかという詳細な計画が進められた。またAIが戦略構築に大きく係わるようになっていった。

 そんな折、イリアは体調を崩し発熱が続くようになった。膠原病と診断され肺機能が低下していった。しかしイリアが入院して不在の期間が長くなると逆にイリアの神格化が進んだ。イリアは事実上の書記長のような役割を担っていたが、聖戦団の内部に階級が生じることは避けるようにしていた。しかし聖戦団の総意でイリアは初代総督に就任することになった。文武に優れ、信仰心の熱いイリアの人望は絶大だった。しかしイリアの剣は全く光らなくなっていた。

 翔たちがエルサレムで啓示を受けた時、剣は輝きを放ち、病床でイリアは神のお告げを受けた。大天使が現れ、2人のメシアが近々誕生すること。聖剣がメシアを指し示すこと、1人目は日本の3つの地殻のプレート交わる場所に誕生することを告げた。

「聖剣を彼の地に送れ。さすれば東方のメシアにたどり着く」

 イリアは特命部隊を編成して日本に向かわせ情報収集を始めた。そして剣は榊翔にたどり着いたのだった。イリアは深い眠りの中で小さな窓から少年がこちらを見ているのに気づいた。メシアであることはすぐに解った。2人はしばらく無言で見つめあった。少年の顔はふっと消えたが十分だった。ハリストス聖戦団が計画どおり革命を進めても膠着した状況は変わらない予感があった。2人のメシアはそれを変える力があるはずである。


 2日後、アンジェラが市内の喫茶店のカウンダーでお茶を飲んでいると、美蘭が後ろから声をかけてきた。

「お久しぶり」

 アンジェラはざっと横に飛び跳ね半身に構えた。

「ひどい喧嘩腰ね。他のお客さんが見てるわよ。私は平和の使者よ」

「なら、先ずそのコートを脱いで」

 美蘭はコートを脱いで足元の籠に無造作に入れた。アンジェラは美蘭の頭から足元まで視線を這わせる。

「ボディチェックもする?」

「いいわよ。よくノーチェックでここまで来れたわね」

「あなた方の警護システムなんスカスカよ」

 アンジェラの携帯が鳴った。

「もう来てるわよ。隣に。害意はないみたいだから待機してて」

「あら、早かったわね。隣に座ってもいいかしら」

「ところで何の御用かしら」

「平和の使者って言ったでしょ。私が言うことはちゃんと記録しててよね。メモをとってもいいわよ」

 美蘭はアンジェラが二人の会話をそのまま流していることに気づいたようだ。

「私たちのミッションは完了したからこの街を撤収する。東方のメシアが覚醒するまでここには手出ししない」

「そんなこと信用できるわけないわ」

「それはあなた方の自由。無駄な戦力を展開し続ければいいわ」

「巧にももう手は出さないってこと?」

「彼は精霊の使いだった。聖剣が力を顕現したとき聖なる光を放つ珠を持っていたそうね」

「何でも自分の教義に当てはめて都合のいい解釈をするのね。悪魔の使いから精霊の使いなんてすごくいい加減ね」

「神の御業はそう簡単に理解できないこともあるわ」

「東方のメシアって翔のことね」

「榊翔。そう。総督の預言通りこの地で見つかった。総督が深い眠りに就かれていたとき榊翔とお会いになられた。あの聖なる鏡の力のお陰で。総督はとてもお喜びよ」

「東方のメシアってことは西方のメシアもいるの」

「そう、預言ではメシアは二人。西方のメシアはまだ見つかっていない。東方のメシアもまだ覚醒していない」

「翔をどうする積りなの」

「覚醒の時まで見守るわ。覚醒の時には主から使命を与えられるはず。もう周りには導かれた者たちが集まっているわ。曽田巧、金神健斗、伊奈恵ね」

「残念ながら私は入っていないけどね」

「総督はあなたも導かれた者だって言ってたわ」

 アンジェラが身を乗り出す。

「これから大きな役目を果たす者らしいわ。布教とかかしら」

「そうね。私、マルチリンガルだから翔の教えを世界中に広げるにはうってつけの人材ね。それよりネットを使うのかしら。それも得意だけどね。でもあなた達は核兵器で世界の破壊を計画してるんでしょ」

「世界を破壊できる訳ないでしょ。利用できる核兵器なんて数千発だもの。悪の巣食う都市や軍事基地、半導体工場なんかを狙うだけでも数が足りないわ。総督は日本を評価しているの。少なくとも東京は無事だと思うわ」

「東京は核ミサイルを落とすには一番効果的な都市ね。人口が密集してるし、高度なインフラも破壊できる。軍人だったら最初の候補にしたくなる場所なはずだけど」

「日本には共産党がある、資本主義の国家で唯一だわ。赤旗っていう名前の機関紙が普通に発行されているだけでも驚きだわ。共産党本部がある東京に原爆は落とせないわ」

「日本共産党は日本を共産主義国家にしようなんて言ってないはずよ」

「それに貧富の差も少ないし。キリスト教が広まっていないことだけが問題ね。東方のメシアに期待ね」

「翔を利用しようとするのは許さないわよ。ロシアと日本はそんなに仲が良くないでしょ。領土問題もあるし」

「それは国と国の外交上の問題でしょ。領土なんて所有権自体がなくなるわ」

「とにかくあなた達の計画は絶対許されないわ。コンピュータで人の心まで思い通りになんてできないわ」

「それは主が決めること。じゃあ元気で」

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