三つ目の国『想像の王国、ライレイター』



 『想像の王国』その単語だけを聞くと何だか素晴らしい言葉の様に聞こえてきます。私もその一人でした。この王国の言う想像とは何なのか、私はそれを確かめる為にその王国に向かいました。


 結果から言いましょう。私はその選択を後悔しました。いえ、後悔しかけた、というのが正しいでしょうか。


 始まりはそう、あの場面からでした。




  *  *  *  *  *  





「ここが……想像の王国『ライレイター』ですか」


 その街並みは思っていたよりも何倍も機械的で、科学技術が発展していました。想像の王国、私はその由来を確かめる迄、次の国へと移動するつもりはありません。そこで私はひとつ、聞き込みをしてみる事にしました。


「あの…すみません、どうしてこの国は想像の王国と呼ばれているのですか?」


 私はそう、道行く人に尋ねてみます。一人目は老人です。質問をすると、彼は心なしか喜んだように見えます。


「…あなたは、旅人かい?」


「はい。想像とは一体、何なのか気になりまして。まだ、来たばかりです」


「そうかい、なら教えてあげよう。最初に私を選んだのは運がいいよ、君。私はこの国の大臣だからね、一般人よりも多くを知っているってものさぁ」


「そうなんですか。それは幸運です」


「まずはぁ、何から話したもんかねぇ」


 彼は秘密の話だからと、人気の少ない所へ移動し、独特の口調で話始めました。


「よぉし!最初はこの国の成り立ちから話そうではなぁいか。この国の始まりは一人の少年がまだなにもない頃のこの土地に立ち寄ったことだった…」



 一人の少年は旅をしていた。彼の名前はレイター。冒険の理由は安寧の土地を探す事だった。彼が元々いた国は内戦によって滅び、運よく彼は生き残った。帰る場所のない彼は放浪の旅を続けていた。たまたま立ち寄ったこの土地は開けていて、一つの銅像があっただけであった。


 彼は信仰深い人間だったので、銅像を綺麗に掃除すると、何処からか声が聞こえてきた。内容はこうだ『あぁ、なんて信仰深い神の使徒だろうか。そなたの望みを教えたまえ、私は神、ライレイである』と。


 彼は神の命に従い、安寧の土地を探す事が自身の望みだと告げた。すると神は『そなたの望み、しかと聞き届けた』そういってこの国を創造したのだという。豊かな土地には人が集まり、今ではここまで発展した、ということらしい。


 この国が想像の国と呼ばれるのは、神がこの国を創造したからであり、それを聞いた人達が言葉を創造から想像へと置き換えたのだ、と。国の名前である『ライレイター』は、その旅をしていた少年と神の名前からとったらしい。


「なるほど、とても興味深いです……」


 彼は腕の時計を見ると、驚いたようにしました。


「──おっと、もう時間みたいだ。仕事があるから、申し訳ない」


「いえ、こちらこそ」


 なかなかに貴重な情報を頂けました。旅に来たばかりの私にそんな情報を話していいのでしょうか。いえ、むしろどうせすぐに旅立つのだから話して良いだろうと思われたのでしょうか。


 どちらにせよ、あの人には感謝せねばなりませんね。創造の国だったのが聞き間違えで想像の国になっていたなんて。


 もう既に十分な気がしますが、まだ一応質問を続けます。次に声を掛けたのは、電柱?と呼ばれる物に寄りかかっていた青年に質問しました。


「あの…神様の銅像って、どこにあるんですか?」


 先ほどの老人の話では、この国の何処かに銅像があるはずです。それを確認したのたち、休憩に入りましょうか。


「何を言ってるのですか?


「……壊れてしまったとかですか?」


「私は生まれた時からこの国に住んでいますし、様々な文献に触れる機会がありますが、そんなものの話は聞いたことがありません。あなたは旅人ですか?」


「あ、はい。旅人です。ですが、私はしかと聞いたのですよ。先ほど会った老人から」


「老人……君はきっと騙されたのさ。ゴーストにね」


「──ゴースト?ですか」


 幽霊?一体、どういうことでしょうか。


「旅人の前に現れては嘘の話を伝える、そんな害悪なやからさ。この国で死んだ人間は時折幽霊として現れるんだ。幽霊は覚えていてほしいから旅人に嘘を伝える」


「そうなんですか」


「想像の王国というのは、幽霊に成られると困る始祖がそうやって伝えたのさ」


「始祖…ですか?」


「おっと、仕事があるんでね、帰らせて貰うよ」


「そうですか」

 

 始祖、一体誰なのでしょうか。


 先ほどの老人の話が嘘とわかり、疑心暗鬼になってしまった私は、誰の話を信じれば良いのか分からなくなってしまいました。

 

 取り敢えず、私は先程の話に出てきた始祖と言う人物を探そうと思いました。信用できる人物なのか、というか、そもそもその話も本物なのかそれすらも分かりません。


 私は、この国の王城に向かいました。始祖なんていうふうに呼ばれる位ですから、きっと位の高い人物なのでしょう。城にいるかもしれません。 


「城の衛兵さんですか?」


「あぁ、そうだが何の用だい?」


「あの⋯始祖という人はこの国に居ますか?」


「勿論さ、この国の人々は始祖様の事を話す時だけは嘘をつかないかね。信用してくれ」


「そうですか。今はどこへ?」


「うーん、中央広場とかだろうね。いつもそこにいるから」


 中央広場⋯行ってみましょうか。


「ありがとうございます」 


 そうして話を終えた私は、そそくさと中央広場という場所に向いました。そこには沢山の人々が集まっています。その人々の中心には一人の若い男の人がいました。


 私は、直感的にあの人が始祖という人なのだろうな、と理解しました。人を掻き分けて私はその人に会いに行きました。


「す、すみません⋯…貴方が始祖ですか?」


「ちょっと!今は私の番でしょ!」


「番?一体どう言う⋯…」


「もしかして⋯…旅人さんですか?」


 始祖と思われる人物がそのように、私に質問しました。どうして今の行動から旅人かと思われたのか疑問に思いましたが、質問に答えます。


「はい。そうですけど」


「────成る程ね。想像の王国とは何なのか、気になるんだろう?」


「お、教えて貰えるんですか?!」


「いいともね、だがあまりここでは話づらいでしょうから。移動しましょう。さぁ皆さん!今日は旅人さんが来ているからね!解散だよ!」


 彼は声を張り上げ周囲の人達に声をかけました。周囲の人は、その言葉を聞いてゾロゾロと解散していきました。その後、彼は裏路地のほうにまで私を案内し、話を初めてました。


「それでは、話を始めましょうか」


「はい、お願いします⋯…」


 一体どんな話を聞かせて貰えるのでしょうか。私は好奇心に突き動かされ、彼の話に耳を傾けます。


「まず、君はこの国の人々から話を聞いたかい?」


「はい。二人に聞いた結果、始祖という人がいらっしゃると聞いて。一人は老人でもう一人は若い青年でした」


「────老人?……」


 彼は何故か考え込みましたが、すぐに止めもう一度話始めます。何か変な所があったでしょうか?


「たった二人で始祖という言葉を聞けたのは、運がいいとしかいえないな。人によっては二十人近く聞いても僕の話を聞けない人もいるのに」


「そうなんですか……ですが、二人の話はチグハグというか、矛盾だらけというか⋯…」


「そうだろうね」


「だろうねって⋯…」


「──なぜ、この王国が想像の王国と呼ばれているか、だったよね」


「あ、はい」


「この王国に住む人達はみな想像力が豊かなんだよ。自身の頭のなかにいつも思案、想像、妄想、どんな呼び方でも良い。けど、とにかく考えているんだ」


「考え…⋯でも、それが嘘をつく理由にはならないのでは?」


「そうだね、もし本当に


「その言い方を聞くに、他にも理由が?」


「そうさ。それを話すにはまずは、種族ごとの寿命についての話をしなければならない」


「寿命⋯ですか」


 私自身も長寿な人間ですので、寿命というのは関わり深い話です。


「この国の人々の寿命は一般的に約十五年しかない」


「十五年!?ですか」


「あぁ、そうさ。寿命の短い人々は普通の人々と比べると、できることも、感じられることも、何倍も少ない。だが、そんな彼らにもひとつ大きな欲求があるそれは⋯⋯自身の生きた証を残したいというものだ。誰かの記憶に残りたい、そして、できれば自身の加護でもある『想像』の力によってね」


「それってつまり……」


「うん。君は彼らがチグハグだと言ったね。でもね、彼らだってチグハグで居たくてチグハグな訳じゃないんだよ。だってね、嘘をつけば覚えて貰える、間違った事を言えば『想像』とは何なのか気になってくれると思った。だから彼らは君に『旅人か?』と聞いただろう?」

 

「た、たしかに彼らは最初に、私が旅人かどうか聞いてきました」


「旅人は自身と比べて、平均的に六倍は生きるからね。彼らは先ほど僕の周囲に群がっていただろう」


「はい。そうですね」


「実は僕、不老不死なんだよ。僕の名前はレイター。この国の最初の住民で神様から不老不死の加護を授かったんだ。だから彼らは永遠に僕の中で生きていたい、そう思って僕に自身の想像を話しているんだ」


「それじゃあ、『想像の王国』というのは…」


「真相を知った旅人たちが噂を広めたのさ。もっと沢山の旅人がこの国に来て、住民を覚えて貰える様にね。これが真相だよ──どうかあと三人位でいい、話を聞いてあげて、そそてその住民を覚えておいてくれないか?」


「はい。もちろん」


 そういった。




 私は彼と別れ、彼とかなり離れてから、私は思った。






 と。







 * * * * *







 旅人は去っていった。彼女は自力で、僕自身迄たどり着いたみたいだった。僕……始祖は一つ、おかしな所を感じていた。



彼女のこの言葉『一人は老人でもう一人は若い青年でした』この言葉に僕は大きな違和感を感じていた。








「この国の人は十五才位しか生きられない。それなのに……老人なんて居るはずないだろ……」


 それでは、その老人とは誰なのだろうか。今この王国にいる旅人は彼女だけだ。つまり、老人の旅人という線はない。ならば可能性は……



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