第37話:パーレンの失望
だからジャンマンキングは語る。
「アレは人類に絶望していましてね。正直な話、筆辰麻王というダーウィンスレイブがいなければジャンマン以外皆殺しにしてもおかしくないくらいタガが外れている」
とは申されても。
「彼女の過去については聞きましたか?」
「両親が死んだ……とだけ」
私に家族はいないので「ふーん」程度で終わったのですけど。
「アレは目の前で父親を刺殺されています」
「…………」
「母親が犯され、自分にも魔の手が伸び、けれども離席防御によって一人助かりました」
「母親は?」
「強盗に犯されて妊娠し、狂い死にして流産。たった一度の不幸でパーシヴァル恋莉は父と母と妹を失いました」
それは……。
いや、言えないだろう。自分がこんな不幸にあっただなんてことを、自慢げに語れるほど、パーレンが受けた不幸は浅くない。父を殺され、母が犯され、妹が流れて、自分だけは無事に生き延びる。どれだけの不幸がソレを為すのか。私には考えも及ばない。
別に何処にでもある不幸。そう言い切るのは簡単なのか。けれども話したくないのなら、パーレンにとって過去でしかなく。誇るでも憂うでもなければ、他にどう思えと。
ツモ。切る。ツモ。切る。
ジャンマンキングはもうテンパイしているのか。
「パーシヴァル恋莉は唖然として社会を見たらしいですよ。襲った不幸がニュースになって、自分が皆から同情される……そう思ったらしいです」
「結果は?」
「ツモ。ツモタン三色。七千七百ですね」
それはいいから。
「同じニュース番組で、悲恋映画に十万人涙した、という広告が打たれたらしいです。そしてその時に気付いた。自分を襲った不幸は虚構の悲恋と比べて、誰も泣いていないという事実に」
しょうがないだろう。他人の不幸で人は泣けない。むしろ没入するエンタメでこそ泣けるのだ。いくらパーレンの不幸がド級でも、そんなことに他者は感情移入しない。
「だから気にしないことにしたそうです」
「気にしない?」
「自分の不幸を誰も泣かないのなら、自分も人類の不幸に泣いたりしない。全て他人事で済ませる。たとえ人類和了計画で、マージャンの弱い人間が不幸に遭おうとも、自分は一切心を痛めない」
故にダーウィンスレイブが死のうが生きようが、彼女はそれを斟酌しない。別に誰が不幸になっても、そんなことは自分の思うところではないのだから。
なるほど。理解した。つまり最も世界を憎んでいるのはパーレンなのだ。
誰かに言ってほしかったのだ。
「可哀想だね」
と。
それさえできていれば、人類はこうも不条理に晒されなかったのかもしれない。けれど未だにパーレンの不幸を悼む人間など現れず。結果パーレンは今こうして人類を蹂躙している。いや、現在はアルケナイデスさんの愛玩奴隷か。でもどうでもいいのだろう。ジャンマンにマージャンで負ける程度は何とでも。人類の悲鳴こそ、唯一彼女を鎮魂させる手段なのだから。
「わかりますか? あの絶望したパーシヴァル恋莉を身を挺して助けた。その衝撃が如何ほどか。筆辰麻王。あなたにはそれが把握できていますか?」
出来ていない。そもそも自分が大仰なことをしたとすら、私は思っていない。
だからその本質を、私は見誤る。
「それほどまでにダーウィンスレイブに絶望しているので?」
「ええ。誰もパーシヴァル恋莉の不幸を悼んでくれない。それだから、彼女は世界に見切りをつけた。だから驚いたのでしょう。彼女を身を挺して救ってくれた筆辰麻王という存在に」
だから然程のことはしとらんのですが。
「わからないのですか?」
「パーレンの救いについてはね」
「いえ、ビンタムの震えについて」
タンッと牌を切るジャンマンキング。私は手牌を倒した。
「ロン。そっちは大丈夫。ちなみにこの河具。名前は?」
「
マーブルキャンセラー。それが私の、そしてジャンマンキングの
「では伝えることも伝えたので私はコレで去ります」
最終的な点数はもちろんジャンマンキングが一位。小宇宙遊戯に従って、私を好きに出来る権利を持つ。なのに彼女は何も求めなかった。ヒラヒラと手を振って、雀荘をあとにする。
「あのさ」
その背中に、私は声をかける。
「ジャンマンキング陛下。アナタは私……ですよね?」
「同じ人間が二人いると?」
「本質的に私は人間ではないです」
根本的なことを言えば、私は幽霊だ。正確にはビンタムによって構成されている確率存在。ただ問題なのは私が誰の目にも見えているということ。アーシャーが私にしか見えない幽霊だったとすれば、私は誰にでも見える幽霊なのだ。その性質上、誰にでも見えるが故に幽霊として不可視性がなく、量子で出来ているが故に私が一であれば、それとは別にゼロである私が存在する。
量子テレポーテーション。こっちがゼロであれば一を表示し、こっちが一であればゼロを表示する対となった量子。もしそういう量子が私に存在するのなら、つまり私とは正反対の……けれどまごうことなき私がもう一人存在するのではないか。これを私は仮説として持っていた。
ジャンマンキングが現れたのは私が意識を失った後。そして結果としてパーレンの望むような奇跡が起きて、世界はマージャン社会になった。誰が、どのように、ソレを為したのか。七日間戦争とは一体何だったのか。
大魔神シリーズを開発して、世界そのものに喧嘩を売る。そんなことを普通の人間は出来るはずがない。普通じゃない人間しかできないのだ。あるいは人間ではないものか。そこまで考えると、私の対極存在というのは可能性として視野に入る。
私が世界に何もしないように、対極存在は世界に何もかもをする。
私がゼロで、相手が一。
私ではない私が、今この世界を創った。それも周到に準備をして、私の演算が途切れた瞬間を狙って。
「とすれば、ジャンマンキングが最強なのも頷けます。要するにビンタムを遍く見ることができる私の究極系。それによって自在にマージャンの行く末を観測できる。であれば誰にも負けはしないでしょう」
おそらくだがアルケナイデスさんですら無理だ。神之試練すらもジャンマンキングは無効化し、なおのこと自分の好きなようにツモを観測できる。
「陛下がパーレンを救えばいいのでは?」
「無理です。私は、何処まで言っても筆辰麻王ではないのですから」
少し困ったようにジャンマンキングはそう言って、結局何もせずに去っていった。
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