【百合注意!】ジャンマンキング ~女子高生の愛玩奴隷になった百合教師の麻雀教室~

揚羽常時

第1話:女子高生を助けて転生トラック


「やだー! マージャンしたい! マージャンしたい! マージャンしたい!」


 このクソ野郎。いや、この場合は女郎か?


 私にしか聞こえない声で我儘を言っているコイツが何かと聞かれれば、私も知らないとしか言いようがない。こういうことはたまにあるので、絡まれると無視して諦めてもらうのが最も手っ取り早いということを私は経験則で知っていた。


「マージャン! マージャン! マージャン!」


 こっちは今日行われた小テストの採点をしなければならないというのに、ここで絡んできた赤の他人に時間を割くわけにはいかない。というか私はマージャンのルールを知らないのだ。なんか難しいルールの盤上ゲームだということは知っているが、食堂に置いてあるマージャンマンガを手に取らない程度の興味しかない。


「マージャンしたいよー! 余は最強なのじゃー!」


 こめかみの血管が浮き出そうなくらいイライラしている私の寛容性をもっと誰かに褒めて欲しい。こんなことなら見捨てるんだった。と、今更言ってももう遅いのだが。


 こういうことを正直に他人に言うと人間関係が崩壊するので秘密にしているのだが、私は幽霊が見える霊媒体質だ。ここでいう幽霊というものがどういう定義なのかは論じないとしても、要するに他人には見えない存在が見えると思ってもらえればいい。こういう観測能力において私は人類の中でも得手の方なのだが、それを誇る気持ちはこれっぽっちもない。いわゆる端的に幽霊というものが存在するとしても、私にとっては生きている人間と区別がつかないのだ。幽霊なら足が無いとか、半透明だとか、霊気で悪寒を感じるだとかオカルト主義の人たちは言うだろうが、ぜーんぜん。私にしか見えていないという特異性を除けば、私にとって生者と死者の区別はまったくつかない。結果、昔から間違えて死者に対応してしまい、相手から付き纏われることはちょくちょくある。電車の線路でボーッとしている幽霊に間違って声を掛けたり、人ごみの中で間違って幽霊を躱して道を譲ったりすると、それらの死者は私が見えていると気づき付き纏ってくる。別にとり憑かれたからと言ってマイナスがあるわけでもないのだが……。


「マージャンマージャンマージャン!」


 ありますね。マイナス。


「いい加減にしてよ! こっちは仕事なの! マージャンとかやってる暇ないから!」


 さて。そう言えば状況を説明していなかった。私は今とある高校の職員室にいる。私の席は職員室の隅っこで。与えられたパソコンで計算ソフトを立ち上げ、生徒の成績を打ち込んでいるところ。周囲は書類に埋もれ、マイカップに注がれているコーヒーと、眠気覚ましのミントガムがボトルで置かれているという。端的に言って整理整頓ができていない典型的なダメ教師の机だ。いや、私がダメ教師だと認めることには抵抗があるのだけど。一応給料分は働いている自覚があるので、こういう自虐はむしろ雇用側に失礼だろう。


「いいから成仏しなさいよッ。あんたに構ってる暇なんてないのよわたしゃー」


 今日の朝から付き纏ってくるこの幽霊は、もちろん私の知人であるはずもない。ちょっと朝の通勤で赤信号を気にせず歩いているコイツに声をかけて、「危ないですよ」とか言ったのが間違いだ。先にも言ったように私の霊感は高度過ぎて、生者と死者の区別がついていない。つまりトラックに轢かれたところで問題ないマージャンオタクの幽霊が、私にとっては交通事故案件に見えてしょうがないのだ。で、私に見えていると気づいたこやつは、朝からずっと私に付き纏っている。


「余はマージャンがしたいのじゃー!」


 ちなみに、可愛い子だった。なんで日本の通勤路にいたのかは知らないが外国人の女の子だ。可憐な金髪と異国人らしい白い肌。年齢的にはウチの高校に通っていてもおかしくないくらい若い。幽霊が死んだ年齢で具現する……というのは科学的に証明されていないので私は疑っているが、それでも彼女が何となく薄幸の少女というか人生を謳歌して死んだとは思えない程度には不幸オーラを感じている。とはいえ、ホームルームも授業中も小テスト中も「マージャンしたい」を連呼するコイツの望みを叶えようなどとは欠片も思えてなるものか。散々仕事を邪魔されて、こっちから妥協しようなどと思えるほど私に度量は広くない。


「ま・あ・じゃん! ま・あ・じゃん! ま・あ・じゃん!」


「そもそもマージャン出来ないし!」


 ウチの高校ではもちろん論外だし、独り身なので家に帰ってもできるはずもない。あえていうのならゲームのネットマージャンはできるだろうけど、なんでそこまでせにゃならん。


「あの。お姉様?」


 で、駄々をこねる幽霊女子を踏みつけつつパソコンに向かってデータ打ち込みをしていると、可憐な私のマイスウィートハニーが私を呼んできた。


「あ、ども。真紅」


 地毛である綺麗な赤髪の女子高生が私の傍に立っている。もちろん幽霊とのイザコザは観測できていないだろう。こういうのには黒子迷彩がかかる。


 浅見真紅あさみ・しんく。それが声をかけてきた生徒の名前だ。私の担当する教室の生徒で、私とは教師と生徒の関係に当たる。また容姿が可憐で愛らしく、私の目には癒しに映る。


「はい。これ。クラスで集めた書類」


 どこか素知らぬ顔で私に事務的な書類を提出する。はー。癒される。私と同じ制服を着て、赤髪の美少女というだけでもアレなのに、こうして忙しい私の仕事を肩代わりしてくれる。


 もうね。天使。女神。私の推し。


 私の性自認は女性なのだが、その上で私は女子高生が大好きだった。その中でも同じ学校の私の担当するクラスの女子……つまり浅見真紅は学内での私のアイドルとも呼べる。端麗な顔をして、ほっそりとした身体のライン。もう私にアレがあったらシコっていただろうくらいの推しだ。


「ありがとうございます」


 謝礼して書類を受け取ると、真紅はフンと鼻を鳴らした。


「暇だったからやってあげただけ。お姉様のためなんかじゃ全然ないんだからね!」


 このツンデレも御褒美の一つだ。


「お姉様って呼んでくれるだけで嬉しいですよ」


 何せこっちは教師だ。普通は先生と呼ばれる。


 我が校は教師の服装は自由なので私は学生服を着ていた。もちろん女子制服。


 で、赴任して最初に言ったのが、


「女子生徒は私をお姉様と呼んでください」


 である。もちろん引かれたさ。ドン引きです。でも一人だけ私を筆辰先生ではなくお姉様と呼んでくれる生徒がいて、それが目の前の真紅だった。


「性癖が曲がっていてよ」


「妥協でお姉様って呼んでるだけだし。勘違いしないでよねッ」


 はー。癒される。真紅のツンデレだけで一年戦争を生き抜ける。女子高生にお姉様と呼ばれるために高校教師をしているようなものなのだ。


 変態だって?


 自覚しておるわ。


「じゃあ書類は渡したから。有難く思うことねッ」


 そうして真紅は去っていく。もちろん彼女は知らない。私のスマホの待ち受けが真紅の盗撮写真であることは。その画像を引き延ばしてアパートの部屋にポスターとして飾っていることを。とあるアイドルソングの声質を加工して真紅の声で歌う音楽ファイルを毎日のように聞いていることを。まぁ言うはずがないんだけど。教師という立場でもって真紅の住所を突き止めている段階で私は犯罪者だろう。自首する気は毛頭ないのだけども。


「ま・あ・じゃん! ま・あ・じゃん!」


 相も変わらずうるさい幽霊だ。私はそんな少女を踏みつけながら仕事に邁進する。一応給料は貰っているので、クラスの管理くらいはせねば学校側に悪いだろう。もちろん私の性癖的には女子高生とイチャイチャしたいのだが、聖職者としての立場がソレを完封する。女子高生にお姉様と呼ばれて、百合百合しい青春を過ごさんがために私は高校教師をやっている。もちろん私が百合に挟まれる女になるために学生服も来ている。ビジュアル的にはまだ女子高生で通じるはず…………多分。


『あう。お姉様』


『タイが曲がっていてよ?』


 とかしてみたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいッ!


 もうホント百合しか勝たん。女の子同士でイチャイチャするのが世界の真理でしょう。男は男でイチャイチャしていればいい。ホストに嬲られる社畜とかも好きだよ? 女子高生の尊さには敵わんけども。


「そういう私が社畜なのよね」


「なぁなぁ。先生。このまま余と一緒に雀荘に行かんか?」


「金ないのよ。あとマージャン知らないから」


 この金髪違法ロリが幽霊であることは既に悟っている。私の教室で「マージャンマージャン」叫んでいても私以外の誰も気に留めていなかった。小テストもあったし、あそこで骨砕けになるまで叫ばれて迷惑に思わない生徒が一人もいないということもないだろう。つまりコイツは私にしか見えていない。幽霊というものに私なりに解釈を持ってはいるけども、つまるところ死者の再現という意味では別に論じるまでもない。


「はー。本当に助けるんじゃなかった」


 そもそも幽霊は死んでいるので、助けるのどうのというのが徒労なのだが。


「酒でも飲むかー」


 女子高生を盗撮した画像を肴に酒を飲む。それは教師にだけ許された特権。


「マージャン……」


「お前様は黙っていなさい」


 なわけでコンビニで酒でも買ってマイルームに直帰すべき。途中に可愛らしい女子高生がいれば愛でて記憶に焼き付ける。そんなことを思いつつ、都会のスクランブル交差点で道行く自動車を眺める。ふと。いい香りがして、私はそっちに目を寄せる。


「おおう」


 はたして、見れば隣にいたのは可憐な女子高生。ここら辺の高校に通っているのか。こんな女子を見れば淑女である私は忘れないだろうというくらい綺麗な女子だった。またあざとく結わえられた金髪ツインテールが様になっている。金髪ツインテールとか一般的な日本人には在りえない。で、あれば彼女は異国の血が混じっているのか。あるいは留学生? 話しかけてもいいだろうか。ちょっとくらいそのグッドスメルをかいでも犯罪にはならないはず。ていうかどんなパンツをはいているのだろう。少しくらいチラリと見せてくれると……。


 そんなテンション爆上がりに天罰が落ちたのだろうか。交差点の歩行者空間にいた私に向かって、トラックが突っ込んでくる。クラクションが盛大に鳴らされ、そうして都会の交差点で事故が起きた。もちろん私はその展開を知っている。トラック転生だ。この世の主人公である私はトラックに轢かれて転生。そして異世界で女の子とイチャイチャしながら無双するのだ。とはいえ周囲の人間も巻き込まれることは本意ではない。


「はい。どうぞ」


 なので、私はトラック事故に隣の金髪ツインテール女子高生を巻き込まないために、危険領域から彼女を突き飛ばした。長く延びた時間の中で、トラックが迫る一瞬のこと。


「ッッッ」


 驚いたような女子高生の青色の瞳が私を捕らえていた。このまま轢殺されるのが私だけならいいのだけど、そう上手くはいきませんよねー。でもツインテール女子を助けられただけでも――ひでぶ。

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