第10話 氷と火

 そう告げたシルヴィアの顔は、とても真剣だった。


「強くなるって……やっぱりスカーレットのことを意識してんのか?」


 オレが指摘すると、シルヴィアはふっと小さく息をついてうなずく。


「やはりスタンくんにはお見通しなのですね」

「なあ、シルヴィア。昔はスカーレットと仲が良かったんだよな? スカーレットから聞いたぜ」

「ええ。あの頃は良かったですわ。スカーレットも素直で、一緒にいて楽しかった……」

「……やっぱスカーレットがレッドドラゴンを召喚した頃か? それで変わっちまったのは」


 オレの確認に、シルヴィアは重々しくうなずいた。


「ええ。あの頃からスカーレットは変わってしまいましたわ。自分が最強だと思い込んで、傲慢に振る舞うようになった。……わたくしのワイズも侮辱されましたの」


 そう語るシルヴィアは、スカートの裾をぎゅっと握りしめ、悔しそうに顔を歪める。


「だから、わたくしはスカーレットの鼻を明かすために、日々努力して強くなろうとしましたわ。でも、それも無駄になりそうですの……」


 そう言ってシルヴィアは、オレをじっと見つめる。


「……オレが先にスカーレットのレッドドラゴンを倒したからか?」

「そうですわ。それでスカーレットの偉そうな鼻も折れたことでしょう。……いい気味だと思うと同時に、……少し、残念にも思いましたわ」

「なんか、すまねえな……」


 オレが謝ると、シルヴィアは慌てたように手を振った。


「いえいえ! スタンくんは何も悪くありませんことよ!? ……ただ、今までの目標を見失ってしまったみたいで。それで、こうしてがむしゃらに強くなろうとしているのですの」

「そうだったのか……」


 シルヴィアもいろいろと思い悩んでるんだな……。


「……なあ、シルヴィア。スカーレットと仲直りする気はないか?」

「仲直り、ですの?」


 シルヴィアがキョトンとした顔をする。

 オレは説明を続けた。


「オレ知ってるんだよ。スカーレットも今は反省してるみたいだぜ?」

「スカーレットが?」

「ああ。ジータに負けて変わったのは、お前だけじゃないさ、シルヴィア」


 オレがニカッと笑って見せると、シルヴィアの表情がふっと和らぎ、穏やかな微笑みを浮かべた。


「そうでしたの……。考えてみますわ」

「ああ、前向きになっ。じゃあな、シルヴィア」


 そう告げて別れたオレは、すっかり夕焼けに染まった空を見上げる。


「仲直り、できるといいな。あの二人」

『なぜそこまであの小娘たちに肩入れするのだ?』


 ジータが近寄ってきて、オレを見上げる。オレは肩をすくめた。


「さあ、なんでだろうな。……けど、これも何かの縁だから放っておけないのかもしれねえ」

『ふんっ、そういうものか』


 相変わらず偉そうに鼻を鳴らすジータを見て、オレも思う。


 ――オレもジータと心を通わせる日が来たりするんかな?


 そんなことを考えながら、オレは男子寮へと戻った。



 そして翌日の昼下がり。オレはシルヴィアとスカーレットの二人に校庭へ呼び出された。


「あのー、二人とも? この雰囲気は一体……?」


 そこにいた二人は、笑顔でありつつも、背後から凄みのあるオーラを放っていた。


 オレ、何かやっちゃいました?


「スタン!」

「は、はいいっ!!」


 スカーレットに名指しされ、オレは反射的に正座する。


「その……感謝してるわ。アタシのこと話してくれたの、スタンでしょ?」

「はい?」


 オレがキョトンとしていると、スカーレットはムキになって言った。


「だーかーらぁ! アタシが仲直りしたいって、シルヴィアに伝えてくれたんでしょ!?」

「あー、そっちか」


 合点がいって手をポンと叩いたら、シルヴィアもまた凄みのある笑顔を向ける。


「スタンくんのおかげで、こうして話し合う機会に恵まれました。感謝いたしますわ」

「それはどうもっ」


 なんだ、二人とも仲直りできたんじゃん。


「「――それはそれとしてっ」」


 改まった二人が、同時にお互いを指差す。


「アタシと!」

「わたくしと!」

「勝負よ!!」

「勝負ですわ!!」


 ……お互いに宣戦布告しました。


「仲直りしたんじゃねえの?」

「それとこれとは別よ!」

「この際どっちが強いか、ハッキリさせますわ!」


 二人はバチバチと火花を散らす。


 あー、どっちもやる気満々だな……。


「お、何かやってんじゃん!」

「何だ何だ!?」


 一学年の実力派美少女二人がにらみ合っているとあって、どこからともなくギャラリーが集まってきた。


「それではいくわよ!」

「いきますわ!」


 二人は右手をかざし、紋章が光る。詠唱が始まった。


「「我、汝を呼び求む――」」

「業火の息吹を操る赤竜よ、顕現せよ!」

「白き翼はためく雪原の賢者よ、顕現せよ!」


 赤と青の魔法陣が展開し、そこから威風堂々たるレッドドラゴンのドレイクと、厳粛端麗なる雪梟のワイズが姿を現す。


「グウウウウウウウウン!!」

「ポッホーウ!!」

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