第10話 実感

1222種類の動植物。

187種類のモンスター。

315種類の虫。

素のステータスの高さと、移動を補助する魔法、『京輪』のメインシステムによる支援を受けて、乱立する木々の隙間を移動しまくり、降り立った森の情報を大量に集めることができた。

残念ながら、ゲームの中で一般的に生えている植物(薬草)や、どこにでもいるモンスター(スライム)などを見つけることができず、全てが見たことの無い――初めて登録される情報ばかりだった。

『異世界結合』によって出現する未知のエリアでも、ある程度は共通のモンスターなり植物なりが出現するので、完全に知らない情報ばかりとなると、ゲームとは違う場所に飛ばされてしまったのだなぁと、改めて実感せざるを得なかった。

ひとしきり体を動かし、自身の肉体の挙動や感覚もチェックしていたが、ゲーム中に必ずあった『操作キャラクターを動かす』という感覚が無くなっており、服と肌が接触する感覚、風を受ける感覚、温度感、肉体が動くという一つ一つの動作に対して体内から伝わる振動まで、リアリティが尋常ではない。

操作キャラクターにプレイヤーの精神が乗り移った、そう表現出来るような状態にあると、明確に認識することができた。

そういった状況チェックも重要な確認事項だったので、大雑把でも確認できたことは非常に僥倖だった。安心感もマシマシである。

集まった情報については詳しい解析も含めて、『京輪』のメインシステムに丸投げしているので、ひとまずは待ち時間である。

転移地点の森の中――比較的広いスペースに戻って待機中だが、ここに来て新たな知見を得ることができた。

「うぅん、服が汚れるな……」

ハクダンはそう言いながら、足元や自身の服を確認し、オーガ特有の厳つい顔をへしゃげさせ、少し困った表情をしていた。

超大型移動拠点『京輪』の中では、超高難易度魔道具作成に特化させた装備セットである『高級研究員みたいな格好』で過ごすことが多く、良く準備しないまま拠点を飛び出し、白衣とスーツ姿という意味不明な格好で森の中を走り回った結果、高そうなスーツや白衣、革靴は、泥と土埃、草木が付着して大変汚らしく変色していた。

ゲームの中では、装備が汚れたりする事は無かったので、気がついた時に非常に驚いた。同時に、そのリアリティの高さから、やはりゲーム内転生の路線が強そうであると、強く実感した。

「汚れること前提の服……というか装備に着替えるしかないか……。」

そう言いつつ、汚れきった服に対して自然な動作で魔法を掛けた。

ゲームでは汚れることが無かったので、当然そのような魔法は"無かった"はずだが、何故か脳内で思い浮かんだ魔法の知識により、勝手に構築されて使用出来る状態になった『汚れを落とす』魔法で、服の汚れを綺麗さっぱり落とし、白衣含めて全ての衣服が新品のような輝かしい姿を取り戻していた。

拠点内での転移魔法や、魔法的に地図を表示するなど、本来『ゲームコンソールを介す必要がある動作』を何気なく実行していたが、拠点から離れて未知の土地に身を置き、改めて振り返ってみると、結構な「異常」だったのだなぁと、つくづく実感させられるのだった。

操作キャラクターである「ハクダン」という『オーガ』は、ゲームをやり込みまくった結果、良くも悪くも『なんでも出来る最強スペック』なので、そのスペックが反映されて、魔法に関する知識と能力が『思い浮かんだ魔法を自力で構築し、何事もなく発動可能とする』レベルになっているのではないかと、今はそう推測している。

実際、変に何も出来ないよりかは遥かにマシだし嬉しい状況なので、『助かる仕様』ということで、とりあえずこの能力はどんどん活用していこうと考えていた。

早速ハクダンは、『アイテムを保管する異空間』へとアクセスする魔法を発動し、アイテムを一覧表示する画面と連携して、装備品の検索を実行し始めた。

戦闘用のガチ装備に、防御力無しのファッション用、魔道具や武具作成用の装備など、ズラッと並ぶ装備品のセット一式。その殆どは「自作品」であり、高難易度ダンジョン攻略で専用に組んだものから、他種族との交易に活用したもの、思いついた魔道具やら武具作成の効率化を図るために作成した装備など、思い出深い一品ばかりである。ちなみにこの装備セット含む『アイテムの保管された異空間』はどこにあるのかよく分かっていない。少なくとも保管されているアイテムの量は『万を超える』し、アイテムとは名ばかりの『据置式の大型魔法設備』が入っていたりと、凄まじい容量があることだけは確かである。

一通り見て、若干悩んだ末に、ハクダンはとある装備を選択した。

ガシャン。

装備が一瞬で一気に入れ替わり、『高級研究員姿のオーガ』から『ファンタジー色の強い軽装鎧を着たオーガ』に様変わりした。

鈍い鋼の横スリットヘルムに、肩パット。革製の胸当てと腰当てが特徴的な、山賊のような姿であった。

この装備は、所謂『初期装備』であり、魔法的なパワーは一切込められていない、ゲーム内で最弱装備として流通する既製品だった。

正直、全く価値のない装備であり、防御力もファッション用途の服とそんなに変わらない。持っていたのが奇跡なレベルであり、真面目に「着ないよりはマシ」な装備だった。

なぜそのような装備を持っていたかと言うと、『異世界結合』によって出現した超高難易度ダンジョンで、『初期装備縛り』とかいう馬鹿みたいな制限が設けられたダンジョンがあり、早い段階で売っぱらったはずの初期装備を仕方なく購入し、その後ダンジョン攻略へ向かった、という経緯があったからだ。

ちなみにダメージを受ければ即破壊される最弱装備で、そもそも全てのモンスターが化け物ステータスのダンジョンだったので、攻撃が当たる=即死のオワタ式ダンジョンだったと記憶している。かなり昔に一発突破した覚えがあるので、その際に売却し忘れた装備、つまりホントにたまたま持っていた、"全く思い入れのない装備"であった。

「とりあえずこれでええかな。ある程度は地上の状態も分かったし、一旦帰って『次に何をするか』を考えるとするかなぁ」

ヘルムのお陰で若干くぐもった声を出すハクダン。周辺の地形情報、走り回って集めた生物情報から、ゲームの時と同じく『命の危険は少ない地上』という認識に落ち着きそうであった。

不明な点が非常に多い現在の状況。ゲームの時と若干異なるのでしっかり確認しに来た訳だが、命の危険が差し迫って無いと改めて確認できたので、ひとまずはこれで安心だ。

時間を掛ける余裕があるなら、取れる手段も無数に存在するということである。

ハクダンはようやく、最低限の安全が確保されているとの判断を下したのだった。

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