最強人狼魔剣士の英雄執筆譚
飯屋クウ
第一章 最強の人狼
ボヤ騒ぎ
ビースターズという街は途轍もなく大きい。
国と見間違えるほどの広さであるが、国ではないために王は存在しない。
その代わり、街には
七柱の一人である人狼のハクは、七番目の区画を管理している。
長身のハクは、今日から新作を書き始めるところだった。
───ガシャーン!!!!!!
「ハックンいるぅ?」
ドアを蹴破って入室したのは、猫の獣人、ボンベイ属、名前はコク。
物凄い音と破片が飛び散っているが、ハクの
「貴様…何度言えば普通に入ってこれるんだ?」
「ん~、なになにぃ?聞こえないなぁ、ねぇ聞こえるぅ?」
コクの問いに、
愛想が悪いのではない。
コクという男は、誰にでもああなのだ。
面倒な事に巻き込まれないよう、扱い方を知っておく必要がある。
「ん~つれないなぁ、ハックンのところは」
「そのハックンというのも、止めろと以前言ったような気がするんだが?」
ハク君=ハックン
コクは、自分の気に入ったモノには愛称をつける性格。
コクにとってのハクとは、自他ともに認めるほど、お気に入り認定されているのだ。
「別にいいじゃん可愛いし、僕とハックンの仲でしょ──それに、
白と黒、これは毛色を表す。
七柱はそれぞれの色で呼び名が決まっている。
ハクの毛並みは白、コクの毛並みは黒といった具合である。
「理解した」
「コックンって呼んでくれるのかい!?」
「そっちじゃない」
「貴様を変えることが難しいことにだよ──それに私が愛称で呼ぶような
「ん~んーんぅ??んーっと、僕分かんない!」
コクはおどけてみせる。
その姿はまさに猫騙しの様。
からかいや煽りを得意とする彼の
「──で、用件は何だ?」
「ええぇ、もう本題に入るのぉ?もっと構ってくれよぉ」
「悪いが私には時間がない。新作を執筆している最中でな、手短にお願いしたい」
「今度はナニナニ見せてよ!ワクワクだね!」
「知りたければ、自分で買え。金くらい十分にあるのだろう?詐欺まがいの仕事だ、
コクの目つきは変わる。
ハクが
それに、彼にも怒りという感情はある。
とりわけ、自分の仕事を
両者は無言で睨み合う。
七柱同士でも争い事を起こり得る。
ただ今回ばかりは、コクが身を引いた。
「まっ、ドアを蹴破ったのは僕だし、今の暴言は許すとするよ」
「修理費の請求はするがな」
「あら、そう?」
「はぁ…で、用件は?あと、顔を近づけるな」
「いいじゃない、内密の話するんだから」
ハクもコクもれっきとした男性だ。
間違っても、いかがわしい関係ではない。
ただ時より見せるこの零距離感に、コクにはその気があるのではないのかと、ハクは思っていた。
「よくない、一旦離れろ、気持ち悪い」
毛と毛が触れ合うのも
ハクは座っていた椅子を後ろに引いて距離をとった。
「ハックンもつれないね──じゃ、そろそろ本題といこうか。最近、
ハクは静かに頷く。
少し前から報道されており、つい昨日この第七区画でも騒ぎが起きていた。
元々はコクの管理する第六区画で起きていたことだったが、ここでも起きたということは犯人は捕まっていない、もしくは模倣犯による犯行となる。
「貴様が捕まえていないということは、それだけの手練の者か?」
コクもそれなりには強かったはずと思い出していたハクは不思議に思った。
ちょうどハクも、
「いいや、違うよ──僕はああいう快楽主義者好きでねぇ、放置していたんだ」
「………貴様の性格は熟知していたつもりだったんだがな──まさかそういう趣味があったとはな、恐れ入ったよ」
「──っあ!待って待って!最後まで聞いてよ!」
ハクが椅子から立ち上がったのを見て、これ以上長居は出来ないと判断したコクは、慌てて静止した。
「まだ何か?私は貴様の性癖話に付き合う気はないぞ?」
「違うよ、いや違わないけれど、その話はまた今度しようじゃないか!」
「絶っっっっったいにしない!!」
「いやーホント、トホホだねー──で、僕の情報買わないかい?」
「一連の犯人?」
「そう、僕は誰が犯人で、今どこにいるか知っているのさ」
「正真正銘の放置プレイだな」
「はっはー、褒めてくれてありがとね!」
誰も褒めてはいない。
それはここにいる全員が理解している。
これはただの
「いいだろう、買ってやる。但し修理代の請求はする」
「こりゃ大損だね」
「楽しんでいるならいいだろう?」
「まぁ、ね」
用の済んだコクは、頭に被っていた自慢の円筒帽子を外し、一礼する。
一見紳士の男は、そのまま開放感のある戸を抜け、街へと消えていった。
静けさの戻った室内で煙管を手にしたハクは、それを
「レイン…、煙管の口元洗っておけ」
「畏まりました」
潔癖症という
単に、コクの毛で
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
人通りの多い地区から、少ない路地裏へと進み、第六区画へと戻る最中、コクは聞き耳を立てながら歩いていた。
コクはよく出歩く方で、情報も自分自身で得ることが多い。
勿論、コクにも付き従う部下はいるが、面白い話題は自分で手に入れたい
但し、話題を見つけたとしても対処はしない。
ゆえに、七柱の中では一番の不人気であり、区民も良いようには思っていない。
陰口は多く、本人が近くにいたとしても
「今日も住民達は元気いっぱいだね」
当の本人は平然としており、全くもって何とも思わない。
この姿勢が区民の怒りを余計に買うのは百も承知だが、“だから何?”、というのが彼の
ハクの
まだコクは歩き続けている。
猫の獣人であるため屋根伝いも平気な彼だが、今日は下の道。
ただ、その
「見ぃつけたぁ」
遠目にいるのは、ギャング集団『
最近荒稼ぎしている連中だ、といってもこの区画は他の区画と比較しても、そういう暴力的な者達は多く、『賽の眼』だけが
それなのに何故コクが探していたのかというと、一連の
『賽の眼』の者達は関係がない。
しかしそれはそれ、これはこれ、コクの勝手極まりない判断のもと処罰が下される。
それが許されるのが七柱である。
異論は認められないし、反骨精神は等しく処理される。
「お、お前は!?」
「ああぁぁ、いいねえぇぃぃ!!」
犯人とは関係がないことを訴えても聞く耳を持たない。
コクは既に
垂らした腕の袖から這い出るのは、金属の触手、触手の先端は尖っており、長く苦しめれるように麻痺毒が塗ってある、コクの武器。
それを自在に操る姿は快楽殺人鬼の様。
「あは!!ひゃは!!ハハハハハハ♪」
ギャング達は銃やナイフで応戦するのも全く歯が立たず、次々と薙ぎ倒されていく。
敵わないと判断した者達は自分達の
『賽の眼』の
巨体からなる角は王者の風格を漂わせ、コクの前へと立ちはだかる。
地下格闘技の
「サイザー様、何卒お助けください!」
「無論、この俺に任せておけ、秒殺だ」
「サイザー様!!」
溢れんばかりの声援。
コクはギャング達に囲まれた。
「お前の管理には飽き飽きしていたんだ──」
「へぇ、だから?」
「──死ね!!」
─────ズバッ!!!
一撃の名のもとに、勝敗は決した。
角は剥ぎ取られ、無数の刃が腹を
大量の血を流しながらも、サイザーはまだ生きていた。
「君達が悪いんだ、僕の機嫌を損ねたから──まぁ多少は遊べたけどね」
厳密に言えば、ギャング達は何もしていない。
コクの機嫌を損ねたのは彼らではない。
原因はハクの先程の
つまりこれは腹いせ。
公務でもなければ、責務でもない。
自分勝手な思いつきによる行動。
「──あぁ、動かない方がいいよ、ほら」
指をパチンと鳴らす。
コクを囲んでいたギャングの後ろには別の集団、コクの部下。
指音1つで現れた彼らは、コクを絶対の王として崇める者達。
この第六区画において流血事件は腐るほどあるが、コクの暴れっぷりが報道されず
お金で解決している
「ああぁ、いい気分だ、今日も空は快晴だねぇ」
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【登場した人物】
が武器。
サイザー・・・犀の獣人、ギャング集団『賽の眼』の
次回、【成敗】に続く。
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