第19話 こいつが分解されるまでの時間は10分
ビジネス街にある雑居ビルの1つは、回転する赤ランプとサイレンの音に包まれた。
武装した機動隊が列をなし、どんどん吸い込まれていく。
大規模な売春クラブは、摘発されたのだ。
アレーテにとって、香穂は警察に入らないようだ……。
当たり前だが、香穂は電話をしてくる。
アレーテは電源を切った後で、仮の自宅へ戻って寝た。
残念ながら、水鏡
――翌日の早朝
ピンポーン♪
ピンポーン、ピンポーン♪
連打される、インターホン。
玄関ドアに歩み寄った水鏡アレーテは、内側の鍵を開け、ドアも大きく開いた。
一連の動作として、もう片方の手を振るい、それは黒いブレードとして伸びる。
ヒュオッと風切り音がして、立っていた訪問者のほおを掠めた。
戻ったブレードは、アレーテの片腕へ。
凄みのある笑顔で、片側のほおの線から血を流した京本香穂に尋ねる。
「早朝に押しかけた理由は、何ですの?」
「……い、今、何したの!? えっ? か、片腕が伸びてきたような! あっ……血? 今は違うはずなのに!」
反射的に片手をほおに当てた香穂は、パニックだ。
ため息をついたアレーテは、彼女の腕を引っ張る。
「とりあえず、中に入りなさい……」
バタンと閉じて、内鍵をかけた。
まだ寝ている水鏡才を床に落としつつ、香穂に警告する。
「さっきの攻撃に反応できないようじゃ、特区で長生きしませんわよ? せめて、銃口を向ける段階までトレーニングなさい」
「えっ? やっぱり、攻撃されたの? どうして!?」
「人の迷惑を考えず、早朝に来れば、怒りもしますわ……」
ここで、香穂が正気に戻った。
「はあっ……。逮捕状を持った刑事が来ないだけ、感謝しなさい!」
「逮捕状? フフフ! せっかく、手柄をやったのに……。そんなに狂気の世界に足を踏み入れたいと」
低く笑ったアレーテは、香穂を見据えた。
思わぬ反応でたじろぐ香穂に、確認する。
「2人ともあの売春クラブにいた被疑者だから出頭しろ、でしょう?」
「……え、ええ! そうよ!」
――
取調室で座らされた俺は、事務デスクをはさんで座っている男の刑事に尋問されていた。
「君があの売春クラブに行ったのは、初めてだったと?」
「……そっすね」
俺は顔を隠していなかったので、監視カメラの記録を調べられれば、すぐバレる。
しかし、ここで男がニヤッと笑う。
「で、こっそり上のフロアーに行って、そこの奴らを殺しまくったと……」
「何を言っているんだ、お前?」
身を乗り出した男は、ドスの利いた声に。
「テメーが仕切っている幹部のいる部屋に入ったことは、もう分かってんだよ!」
「……ぜんぶ、俺に押しつける気か! ショットガンで撃った奴は逃がしちまったしな?」
からかうように言ったら、そいつは俺の胸倉をつかんだ。
「ふざけるなよ、特区のクズが! お前のせいで、こっちは仕事が一気に増え――」
ボトッ
何かが落ちた音。
俺は自分の胸元を直しつつ、粗末なパイプ椅子に座り直した。
「どうした? カルシウムが足りないだけだぞ? 続けろよ?」
朽ちた右腕が事務デスクに落ちた男は、呆然とそれを見下ろす。
見る見るうちに骨となり、もはや冗談のようだ。
「……え?」
「俺はな? ずっと前にも、同じように言われたんだ……。『お前のような化け物がいられる場所は、特区だけだぞ?』と! そいつらには復讐したし、以後は侮辱には容赦しないと決めたんだ」
言っている間に、その男もミイラになっていく。
必死に何かを言っているようだが、頭蓋骨が動いて鳴るだけ。
「さようなら……。もう、仕事はしなくていいな?」
ガシャンと、乾いた音が重なる。
隅にいた、もう1人の男は、言葉もない。
「あう……。あうあうあう?」
ボロボロの服を着た骸骨を見下ろしつつ、こちらも見る。
「お前も、仕事をやめたい?」
骸骨を指差しつつ聞いたら、ブンブンと首を横に振る。
「あっそ……。俺はアレーテを連れて、帰るわ! 放っておけば特区に戻るから、これ以上は怒らすなよ? あんたらが言う、化け物なのだから……。そうそう! 俺たちを殺そうとすれば、こんなものじゃ済まないから」
自分でドアを開けて、廊下に出た。
一気に明るくなり、目を細める。
早足で近づいてきたスーツ男が、確認してくる。
「水鏡か?」
「……誰です?」
息を吐いた男は、端的に言う。
「ここの刑事だ! お前の取り調べは?」
「聞くことはなくなったそうで……」
「お前の妹であるアレーテの取り調べに同席しろ! 特例だ」
俺の不思議そうな顔に、男は付け足した。
(さっきの馬鹿は、服ごと塵になっただろう……)
発狂したのか、もう1人は喋れないし、説明しても納得する奴はいない。
(無断欠勤でクビか……。ご愁傷様)
肩をすくめた俺は、怪訝そうな顔のスーツ男に促す。
「どこですか?」
「……あ、ああ! こっちだ」
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