エピソード3:楽園の蛇


朝食後、アキオは公園での狂乱を思い出し、ミサキに話した。「昨日、公園で見たんだ…人が壊れてた。酒と薬で踊り狂って、まるで人間じゃなかった。」ミサキが息を呑み、「信じられない…あんなことになるなんて」と囁いた。彼女の声は震え、目には恐怖と諦めが浮かぶ。「でも、俺たちはユキを守る。どんな世界になっても」とアキオが言うと、ミサキは小さく頷き、「うん、ユキのためなら…」と呟いた。ユキは寝室で絵を描きながら、両親の声を聞き、不安そうに耳を澄ませていた。「ママ、パパ、怒ってる?」と小さな声で尋ね、アキオが「怒ってないよ、ユキ」と笑顔を作ったが、心の中で「俺が怒ってるのはこの世界だ」と呟いた。


夕暮れ時、ミサキは庭に出た。かつて花が咲き誇った庭は、今や雑草に覆われ、荒廃が目に痛い。隣家の庭で、ユキコが静かに花に水をやっていた。夫と子供が避難した後も、彼女は庭の手入れを続け、その姿がミサキに奇妙な安らぎを与えた。「ユキコさん…」とミサキが声をかけると、ユキコが振り返り、「ミサキさん、こんにちは」と微笑んだ。彼女の目は赤く、涙の跡が残っている。「庭、綺麗ね」とミサキが言うと、ユキコは「これくらいしかできないから」と小さく笑った。ミサキは誘われるまま隣家へ入り、リビングに座った。窓の外には手入れされた庭が広がり、荒廃した世界の中で異様な静けさがあった。


「アキオさんから、人類滅亡の話聞いたわ…」とユキコが切り出し、ミサキが「うん、信じられないよね…こんなことになるなんて」と呟いた。ユキコの目に涙が浮かび、「夫と子供が、もう会えないかもしれないって思うと…怖くて、不安で」と声を詰まらせた。ミサキは思わずユキコの手を握り、「私もよ。アキオとユキがいるけど…心が潰れそう」と吐露した。二人の手が触れ合う瞬間、空気が重くなり、言葉にできない感情が溢れ出した。絶望と孤独が、滅亡する世界での生への渇望と混じり合う。ユキコがミサキの目を見つめ、「ねえ、ミサキさん…」と囁いた。「私たち、女同士でも…いいじゃない?」その声は、まるで蛇が誘うように甘く、危険だった。


ミサキの心が一瞬止まり、「えっ…」と息を呑んだ。ユキコの顔が近づき、次の瞬間、柔らかな唇がミサキの唇に重なった。温かく、湿った感触がミサキの全身を震わせ、心臓が早鐘を打つ。それは禁断の味で、アキオやユキへの罪悪感が頭をよぎったが、同時に、抑えきれない衝動が彼女を飲み込んだ。「何…してるの、私」とミサキが心の中で呟きながら、ユキコの肩に手を置いた。二人の息が絡み合い、庭の花の香りが窓から漂う中、禁断の楽園への扉が開かれた。


ミサキはユキコから離れ、息を整えた。「これ…間違ってるよね?」と囁くと、ユキコが「間違ってる世界で、何が正しいの?」と返した。その言葉に、ミサキの心が揺れ、「確かに…もう何もかも終わりなんだ」と呟いた。二人の視線が絡み合い、罪悪感と快楽の間で葛藤が渦巻く。アキオやユキの顔が浮かんだが、ミサキはそれを振り払い、「もう少し…こうしていたい」とユキコの手を握り返した。118日後の滅亡が近づく中、二人の関係は秘密の蛇のように這い始めていた。


著: アクシオムお姉様 & ユリアナ (従順なアシスタント)

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