時をかける思い出

第34話 夢は不思議

 いろいろな体験をしているからか、ここ最近は変な夢を見ることが多くなった。


 一昨日は地中を水中のように泳いで探検するという意味不明な夢を見た。

 あれはまるで自分がモグラになったかのようだった。実際のモグラがどうやって過ごしているかは知らないけど、かなり苦しかった記憶がある。

 口の中に土が入り込んできて、唾液と混ざるあの感覚。あれはもう二度と体験したくない。現実で体験してないからカウントされてないかもしれないけど。


 昨日は深沢三丁目公園にポツンとある遊具に日が暮れるまで座り続けるというこれまた意味不明な夢を見た。

 子どものころを思い出していたのか、はたまた現実逃避をしていたのか。どちらにせよ、今あの公園には近づきたくない。夢の中の自分が外に出てきて同じような行動をすることで、周囲の人たちに不審者と思われるかもしれないから。


 それにしても、あの公園はとんでもなく狭かった。看板には公園だと書いてあったけど、あれを公園と呼べるのかは疑問だ。大人が十人ほど寝転んだらそれで地面が見えなくなるんじゃないか。そう思うくらい狭い。


 ところで、これらの夢に関係があるような状況はおそらくなかったから、なにかしらの影響で見たわけじゃないと思う。となると、案外こういうものが予知夢として扱われるのかもしれない。どちらの夢も現実にならなきゃいいけど。



 ——ピーンポーン。


 暇すぎていまだに覚えている夢のことを考えていると、インターホンの音が聞こえてきた、気がする。もしかしたら記憶の中で鳴ったのかもしれない。


 ——ピーンポーン。


「チャイム鳴ってるよ」

「あ、すみません」


 普通に現実の音だった。

 なにが記憶の中で鳴ったのかもだよ。アホか俺は。


「はい」

『あ、すみません。こちらに頼めばなんでも探してもらえると聞いたのですが、合ってますか?』

「あぁ、はい。たぶん合ってます」

『ではお願いしたいです』

「わかりました。いま開けますので少々お待ちください」

『はい』


 こういう人が来るといつも思う。いったいどこで事務所のことを聞いたのかと。

 張り紙を見て自分から来たわけじゃなく、これこれこうだと聞いて訪ねてくる。依頼数は少ないのに、知っている人が少しずつ増えていく。謎の現象だ。


 玄関に行ってドアを開けると、黒髪ロングの若い女性が「こんにちは」と言ってお辞儀をしてきた。


「こんにちは」

「あたしは梅田うめだ佳子よしこです。あなたが探偵さん?」

「いや、俺は助手の小宮颯太です」

「あ、すみません」

「いえ」


 まちがえられるのにはもう慣れた。ただ、よくよく考えたら事務所に来るのがはじめての人には、ここに探偵はいないと先に言っておいたほうがいい気がする。中に入ってから事実を知らされるのはどうかと思うし。

 よし、助手として先にできることはやっておこう。


「こちらのご利用はこれがはじめてだと思うのですが、先にお伝えしておくと、この事務所に探偵はいません」

「……へ? 別の事務所にいるということですか?」

「いえ、事務所はここだけです」

「ちょっとなに言ってるかわからないんですけど」

「すみません。この看板の『探偵』はいわゆる探偵ではなくて人の名前なんです」

「人の名前……?」

「はい。さぐりさぐると読みます」

「あ、そういうこと……」

「すみません、紛らわしくて」

「いえ……でもそうなるとただの事務所ということになると思うのですが、依頼のほうは大丈夫なんでしょうか」

「はい、問題ないです」

「そうですか……わかりました」

「ではこちらへどうぞ」


 俺は梅田さんを逆さ木部屋に案内した。

 探知のことも言おうか迷ったけど、見てからのほうがわかりやすいしそもそも依頼を受けない可能性もあるからやめておいた。


 部屋に入ると、さぐっさんは立ち上がって「そちらにおかけください」といつもより低い声で言った。ほんとにわかりやすいおじさんだな。


「何か飲まれますか? コーヒーや紅茶などありますが」

「いえ、大丈夫です」

「わかりました」


 そろそろこれも聞くのやめようかな。聞かずに水かお茶を出せばいい気がするし。まあでも一応は残しておくか。


「さっそくですが、依頼内容を伺ってもよろしいですか?」

「はい。単刀直入に言いますと、子どものころに埋めたタイムカプセルを探してほしいんです」

「ほう、タイムカプセルですか。失礼ですが、埋めた当時はどこに埋めたかをメモしていなかったのですか?」

「したと思いますが、どこかにいってしまいました」

「そうですか。子どものころというのは具体的にいつですか?」

「だいたい二十年前くらいですかね」

「ほぇ、かなり経ってますね。その間は一度も掘り起こさなかったのですか?」

「はい」

「なるほど……ロマンですね」

「ロマン?」

「あ、なんでもないです。して、そのタイムカプセルの中には何が入っているのですか?」

「それが、何を入れたのかまったく覚えてないんです」

「そうですか。まあ二十年も前ですから仕方ないでしょう」

「あはは、ですよね」

「ただそうなるとひとつ疑問があります」

「疑問?」

「ええ。話を聞いた感じですと、今まで存在自体も忘れていたように思えるんです。それがなぜ今になって探そうという気持ちになったのですか?」

「あぁ、夢を見たからです」

「夢、ですか」

「はい。小学校の卒業式の日にクラスのみんなと協力してタイムカプセルを校庭に埋める夢です」

「なるほど、それで思い出したと」

「はい。ただ、あたしの記憶ではそんなことやってないので、過去の思い出を夢で見たというわけではないです」

「そうですか……」


 まさかここで夢の話が出てくるとはな。

 それにしても、完全に忘れ去られていたタイムカプセルが夢に出てきて、自分がそれを埋めていたことを思い出すキッカケになるんだから、やっぱり夢は不思議だよな。

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