幕間 昔の記憶

 炎で焼かれた町。焦げ臭いにおい。

「いたい」

 俺は呟いた。

「おかあさん、おとうさん」

 そう言って、がれきの下から両親をひきずりだそうと引っ張る。

 当然、子供の力なので無理だった。

「少年よ、その人間は死んでるぞ?」

 紫色の長い髪に灰色の瞳が特徴的な女が俺にそう言った。

「うそだ」

「うそじゃあるまい。その死体をしっかりその目に焼き付けるがいい」

 そう言って、その少女は一瞬にして両親をがれきの下から道に転移させた。

「……」

 何も言えなかった。

 一瞬にして道に転移させたのはすごいが、両親の死体があまりにも無残な姿だったからかもしれない。涙も、ひっこむほど残酷だった。

「ははっ。涙も流さないか? 面白いな。お前は見込みがある」

 その女は愉快そうに笑って俺の頭を撫でた。

「やめろ」

 俺は、その手を無理やりどかした。

「この町を焼いたのはだれだ!」

 俺の、両親を殺したのは誰だ。絶対に、そいつを許さない! そう続けようとした。しかしそれを遮って、

「私だ」

 と、その女が言った。

「あはははっ。面白いだろう。その両親の仇が、目の前にいるんだ。倒してみろよ、ガキ。あははっ」

 愉快そうに笑って俺にそう言った。

「…は?」

 ぽつり、と俺は消え入りそうな声でそう呟くようにしていった。

 そして、気が付いたら手が出ていた。

 俺の拳を、避けてその女は俺の手首をガシッとつかんだ。

「悔しいかあ? あははっ。悔しいだろう? いつでも弱者は理不尽に痛めつけられ、強者が自由に楽して生きているんだ。それがこの世界だ。あははっ」

「……理不尽だ」

「少年よ、私はお前をここで殺しても良いのだが、それでは少々つまらぬ。かわりに、お前は近いうちに魔王になれ。そうすれば、その時に一騎打ちをしてやろう」

 そう言って、俺の瞳をえぐった。

「う…ああぁぁぁぁぁあぁぁ」

 痛みに俺は絶叫し、悶える。

「あははっ。これは約束のしるしだ」

 そう言って、その女は俺に自分の灰色の瞳を押し付けた。

「あ、ああぁ」

 俺は、その場に倒れた。

 その後、魔法によって瞳を入れ替えられたのだということに気が付くのは、随分と先の事である。


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